第10話 リゼの武器作り

 今度はリゼの武器を作る為、何を作るか相談する。


「リゼはどんなのがいいのかな?」


「うーん、今まで使ってたのはスタッフなんだけどね。近中距離を直接攻撃できるのが良いかなって思うの」


 それだと槍などの長物か、または千尋の様に銃だと遠距離もカバーできる。しかしリゼは少し変わったのがいいとの事。


 それならばと鞭を提案してみる千尋。


「嬢王様か…… 」


 と、蒼真が呟く。


 嬢王様? と首を傾げるリゼとミリー。

 どうやらこの世界にはそのような趣味趣向は知られていないようだ。


 鞭といえば拷問器具などで用いられるが、魔獣モンスター相手に通用するのか。

 しかし千尋が言ったのはあくまでもイメージだけ。革紐ではなくミスリルの刃とかで作ったらおもしろそうだなと考えているようだ。


 それだと動きが固定されるんじゃないか? と言う疑問に対し、千尋は問題ないと答える。


 それには千尋の作る魔石を使うと言う。

 魔石に新しい使い方を思いついたそうだ。


 その方法とはエンチャントだ。


 魔石をミスリルに当てても、魔法が込められていない場合は発動しない。

 そこで思いついたのがエンチャント。簡単に言うと武器や素材に魔法の力を付属させるのだ。


 そしてミリーのにも使っている。


 ミリーのメイスは重い為軽くするようにエンチャントしようかとも考えたのだが、それ以上に爆破魔法と打撃武器で振動が大きいだろうと予想した。

 重さは持ち手を中空にするなどして軽量化し、振動を打ち消す【耐振】をエンチャント。


 ちなみにエンチャントは複数付属させる事は出来なかった。

 魔石の魔力が高い場合は上書きされ、魔力が同等であれば魔石が発動しない。

 そして同じ条件であれば重複させる事も可能だった。

 付属させる条件は簡単なものしかできないようだが、効果は薄れる事もなさそうだ。


 この方法を思いついたのは銃のサイレンサーを作る時だ。

 サイレンサーのデザインを考え、銃と組み合わせる事を考えるとガッカリした。

 どうにかならないかと考え、転がる魔石を見て思いついた。


 魔石はミスリルで発動する。

 魔石に込められるのは魔法だけなのか。

 条件を込めればミスリルで発動するのではないか。


 今必要なのは銃の消音だ。

 試しにミスリル部分に魔石を当て、【消音】をエンチャントした。

 銃の周りの空気が振動しないようになり、机に銃を置いても落としたりしても全く音は鳴らない。

 あまりにも音が無くて、撃ってもなんだか物足りない気がした千尋は、【静音】にエンチャントし直している。


 こうしてエンチャントという方法を確立した。


「蒼真も必要なら何か考えておいてね!」


「一つか。悩むな……」


 うーむ、と悩みだした蒼真をよそに話を進める。


「リゼの武器はどうしようか?」


「さっき言ってた鞭ってどういう感じなの?」


 と言うので千尋が考えてるのをサラサラと紙に絵を描いていく。


 普段は長剣のようだが、振り回すと接続部から離れるようにする。

 そして部品同士を引き寄せる様にエンチャントし、しなりのある鞭みたいにしてみようとの事。

 くの字型のパーツを重ねた剣の様な絵が描かれ、パーツの絵や鞭のように伸ばした絵も横に描かれている。

 射程もある程度伸ばせるだろうし、複数の敵を同時に相手にしても立ち回れそうな武器だ。


 リゼがまだ悩んでいるようなので、槍やハルバートなど中距離向けの武器の絵も複数描いていく。






 しばらく悩んだリゼ。

 ミリーと一緒に見ているのは鞭のように使おうと言う不思議な剣。


「この鞭? 剣? これだけインパクト大きすぎますね」


「そうよね。絵を見ても想像つかないし」


「ほう。これを鞭のように使うのか。おもしろいな」


 先程まで考え込んでいた蒼真も絵を覗き込む。


「蒼真はどんな感じになるか想像つくの?」


「まぁ鞭ならわかる。これが本当に鞭のように使えるなら音速を超える刃になるかもしれないな」


 音速? とまた首を傾げるリゼとミリー。


「音の速度ね。常温で秒速345メートルくらいだったはずだよ」


「千尋の銃はどれくらい出てるんだ?」


「んー? 正確にはわからないけど普通の銃弾だと秒速300メートルってとこじゃないかなー 」


「え? 千尋の銃より速いの!?」


「まぁ、先端の速度がそれくらいにはなるかもな」


「これしかないですよリゼさん!」


「え、えー…… 使えるかしら」


「槍もハルバートも使えないなら一緒じゃない? 練習あるのみだよ!」


「千尋が作るんだぞ? 凄いのができるぞ?」


「じゃあこれにしようかな!」


 というわけでまた開発室に篭って作り始める事になった。






 開発室でまずは素材を選ぶ。


 ミスリルのプレートはどれも同じ物のはずだが、千尋は必ず素材選びをする。

 そしてミスリルのプレートの一部分だけを使用して武器を作っている。

 素材を相当無駄に使用しているが、端材も綺麗に切り分けて再利用可能な状態にしているので問題ないとの事。

 千尋に聞いてみたところ、ミスリルのプレートには魔力の溜められる部分と流れやすい部分があると言う。

 魔力が溜められるという事はその分高い威力の魔法が可能になるそうだ。

 リゼは初めて知ったのだが、千尋の切り出した素材には確かに魔力を溜める事ができた。


 素材選びが終わったところで加工を開始する。


 持ち手の部分グリップはミリーのメイスを作る際に切り出した物の余りだ。

 ミリーのメイスは長めにしようかとも考えたのだが、思った以上に重かった為1メートル未満にした。その為まだ1メートル残っている。


 とりあえず刃を複数作らなくてはいけないが、ミスリルのプレートを切り出して研磨する事になる。

 長さ5センチ幅8センチの、くの字型の刃を十八個作る。

 先端には諸刃の刃をつける事とした。


 一枚一枚丁寧に作り込む。


 先端のパーツになるにつれ、少し比率を変更する事で全体のバランスを取る。

 先端にかけて長さを少しずつ伸ばし、幅を狭めていく。

 重さは均等になるように配慮しながら加工していく。

 未使用時には直剣になるようにバランスをとりながら進める。






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 刃を二十個作るのに三日かかり、その後は丸二日かけて研磨を行い全て鏡面に仕上げた。


 ガードはくの字型に大きく作り、派手に装飾したものを取り付ける。

 グリップの長さは約40センチとし、当然のように模様も入れてポンメルも作って取り付けた。


 カラーはリゼが悩みに悩んだ末にピンクと黒のクローム風。

 刀身となる部分を黒、刃の部分をピンクと、見た目も派手な武器となった。


 ここまでだとヒルト(グリップからガードまで)以外の部品はまだバラバラである。


 千尋は用意してあった十九個の魔石を袋から出す。


 ある程度の引き戻し効果を出す為、魔力も高めに込めたの魔石だ。

 今作れる最大魔力の魔石で、魔力量はおよそ300ガルド。


 先端側からエンチャントを始める。

 一つずつ位置をしっかりと決めて設定していく。


 全て組み終え、しっかりと機能している事を確認して完成となった。


 エンチャントで組み込んだ魔法。


【隣り合う部品を使用者の魔力で繋ぐ】


 悩みに悩んで、引き寄せるではなく魔力で繋ぐことにした。

 エンチャントが完了して武器は完成。

 鞘はあとで特注する事にしよう。






「うーん…… 込める魔法を悩んだからね。鞭とは言えなくなったかな」


「良いわよ、すごく綺麗だし! 可愛いし!」


「パッと見は剣だけどね…… 鞭より遥かに強力になってしまった」


「私の魔力で自由に操れるんでしょ? 最高よ!」


「自分で作っておいてなんだけどさ。リゼは魔力も高いし、その装備も持つのはチートすぎるんじゃないかな……」


「さすがにこんな凄いの作ってもらえるとは思ってなかったんだけどね!」


「オレの予想も超えたんですが…… 」


「ねぇ! 名前! 名前付けてよ!」


 というのでしばらく考える。


 銘は【魔剣ルシファー】とした。


「どうして魔剣!?」


「どう見ても魔剣でしょ!」


 本当は可愛らしい名前を期待したリゼだった。






 また研究者達を集めてお披露目となるが、リゼの周りには無数の土の壁。


 剣としての形を成すルシファーを構えて立つ。

 リゼがスッと横に薙ぐと刃節が外れて流れるように刃が舞うい、剣先に連られて回転する刃が後を追う。

 二十ものキラキラと輝きながら回転するピンクの刃は、まるで花が舞っているように見える。


 一拍間を置いて振りかぶり、振り下ろしてさらに腕を横に薙ぐ。

 目に見えないほどの速さで流れる刃は、全ての土壁を破壊して剣へと戻った。

 荒れ狂う嵐のような刃に、誰もが言葉を出せずにいるほどだった。


「どうだった? まだ魔法乗せてないけど」


「あれにさらに魔法を乗せる気か……」


 蒼真も顔が引き攣っている。


「キラキラと綺麗でしたねー!」


「オレも動作確認の時振ったんだけどさぁ、ヤバいのできちゃったって思ったもん」


「鞭ってあんな感じなんですか?」


「全然鞭じゃないよな」


「刃付けた時点で鞭じゃなかったね……」


「千尋ありがとう! ルシファー気に入ったわよ!」


 嬉しそうにルシファーを愛でるリゼを見て、千尋は作って良かったと思えた。


「ルシファーと名を付けたのか。まぁわからんでもないな」


「ルシファーってなんですか?」


「ルシファー。サタンという悪魔の王の別称かな。宗教上で蛇は悪魔とされているから少し掛けてみたんだよー」


「なるほど! わからないけどわかったフリしておきます! ところでリゼさんはそれ重くないんですか?」


「私の場合は重力操作グラビティを使ってるから重く感じる事はないわよ。地属性でミスリルを操作するって方法もあったけど、スピードが遅かったのよね」


「ぐらびてぃってどんな魔法なんですか? 」


「重力操作と言いたいが少し違うな。リゼの場合だとルシファーの重さを感じにくくしているんだろう。もし仮に重さを少なくしてしまうと、威力も落ちてしまうからな」


 リゼが使っている重力操作グラビティは、実際の重さはそのままに、自分だけがルシファーの重さを感じにくいようにしている。

 実際の物質の重さを変化させるとした場合は、どこからどこまでといった範囲を指定する必要がある。

 いくら魔法とはいえその物質に触れているもの全てを軽くする事はできない。


 そして物質操作グランドはその名の通り物質を操作する魔法だ。

 手元の武器のであれば物質操作での速度で充分なのだが、ルシファーは長く伸びる。

 長く伸びた先端側の速度は物質操作の速度を超える。


「私も覚えたらメイスも軽くなりますか?」


「もちろんよ」


「覚える事がいっぱいです!」


 無事にリゼの武器、魔剣ルシファーも完成し、明日からはまた冒険に出る事になる。


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