第9話 ミリーの武器作り

 今日も六時前に目が覚めた。


 千尋がテラスに出て行くとリゼとミリーが話をしている。

 おはようと声をかけ、少し待たせてコーヒーを淹れて持って行く。


「ねぇ、ミリーの髪色って地毛なの?」


 ピンク色の髪を疑問に思い聞いてみる。


「あ、違いますよ? これです!」


 と、首に下げたペンダントを見せてきた。


「それ私も前にいくつか持ってたわ」


「いろいろ試したんですけど最近はピンクの髪色に赤目で落ち着きました」


「眼も色変えれるんだ!?」


「この魔石を組み替えると色が選べるのよ」


  と、ペンダントの魔石を指差す。


「そかぁ、オレも出来るんだよね?」


「もちろん。これはドロップという魔法のアイテムなんです。余ってるので良ければあげますよ」


「髪伸びてきたしさぁ、髪色と髪型を変えるのもいいなぁって思うんだよね」


「どんなのがいいですか?」


「んー、そうだな。リゼのは綺麗だよねぇ。眼の色といい髪の色といいすごく似合ってる。オレには似合わないかなぁ」


 顔を赤くするリゼを見てミリーは気付く。


「リゼさんは髪色変えてませんよね。眼もそのままです」


「そうなんだ? それならそのままの方がいいかもね。すごく綺麗だもん」


 ますます顔を赤くするリゼ。

 ミリーは苦笑いをしている。


(この男…… わざとじゃないのか?) と。


「んー、でも千尋さんは明るい髪色も似合いそうですよね! 長めの髪も似合ってますし…… 次に試そうと思って買ってあったんですが、銀髪に碧眼なんてどうですか?」


「おお! それカッコいいかもしれないね! ねぇリゼ、どう思う?」


「ん? え? ああ、いいかもしれないわね!」


「じゃあ持って来ます!」


 と、ミリーは部屋に戻って行く。


 髪色や眼の色が簡単に変えられるなら犯罪とかにも利用されそうなものだが、その辺は問題ないらしい。

 一度ドロップで魔法の効果が出たら一ヶ月は持続されるとの事。ドロップを外さずに着けていれば継続して色の魔法が発動するそうだ。

 そして魔法が一度発動すると、他の人がそのドロップを着けても効果はないらしい。

 魔石を変えて色を変更する場合は、最初の魔石の魔法効果が切れてから変わるという。






「お待たせしました」


  ドロップと魔石の入った袋を持ってミリーが戻って来た。


「ほんとに銀髪に碧眼でいいんですね?」


「うんっ! カッコよさそう!」


 ドロップに魔石を詰めて千尋の首に下げる。

 千尋の頭とドロップが光り、光が収まると髪色が変わっていた。


「どお? 似合う?」


「…… すごく似合うわ! ちょっと待ってて!」


 部屋に走って行くリゼ。


「すっごく似合いますよー! 私もちょっと行ってきます!」


 ミリーも部屋に走って行く。






 戻ってきた二人は千尋の髪をいじり始める。

 リゼは千尋の髪を梳かして頭頂部で結ぶ。

 黒と赤の長い髪紐で結び、髪飾りも付けた。

 ミリーはナイフを持っており、前髪を少し切るとのことだったので任せる。


 いじり終えた二人の感想は……


「か…… 可愛いわね」


「すごく可愛いですね!」


「んえ!? カッコいいんじゃないの!?」


「どちらかと言わなくても可愛い一択よ!」


「あとで千尋さんに似合う可愛い服も買いに行きましょう!」


「この髪紐取る!」


「ダメよ! それはミスリルを編み込んであるんだから防御力もあがるの!」


「えー」


 そこへ起きてきた蒼真だったが、三人のやり取りを聞きながら近づいてくる。


「おはよう。おお、千尋。髪色を変えたのか?」


「うん…… そうなんだけど可愛いとか言うんだよ。ヘコむ」


「いや、カッコいいじゃないか。似合ってるぞ」


 棒読みだが千尋は気付かない。


「本当か? カッコいいのか? 髪結っててもカッコいいのか?」


「ああ、ファンタジーっぽいからこの世界にも合うし、カッコいいと思うぞ」


 パァっと嬉しそうな顔で喜ぶ千尋を見てリゼは鼻血が出そうになった。

 ミリーは一安心といった表情だ。


 蒼真に向かってサムズアップをするリゼ。もちろんその親指に顔は描かれてなかった。


 その後蒼真にもドロップを渡して髪と目の色を変え、青系が好きということで濃紺色の髪と青い眼になった。






 食堂で朝食を取るが、千尋に気付いた者はすぐに声をかけてくる。

 知り合いに次々と可愛いと言われて落ち込む千尋だったが、コーザとアルフが来て「カッコいいじゃないか!」の一言に喜んでいた。


 もちろん二人が来る前に仕込んでおいたのだが……






 朝食後は千尋とリゼは開発室に。

 蒼真とミリーは訓練場へ向かった。


 開発室のラトにミリーの武器の図面を見せる。


「メイスですか?」


「うんっ」


「円柱のミスリルはある?」


 さすがに無かった。


 実はまだ千尋達は知らないのだ。

 ミスリルは超高額素材という事を……

 本来槍などを作る場合は刃となる部分をミスリルで作り、他の部分は鋼鉄で作るらしい。


 ミスリルの価値を知らないまま千尋は素材を選ぶ。


 3センチ厚のミスリル板を取り出し、四角柱になるように切り出す。


  長さは2メートル。


 ちなみにこの世界の長さは、以前地球から来た者の知識から単位を定められている。

 自分の身体の寸法を詳しく知る人間が定めたらしく、身長から指の関節の長さ、目の幅や歯の大きさなどからかなり正確な寸法を提示した。

 そして【メートル原器MODOKI】というのが作られたらしい。


 リゼに魔力を端に寄せてもらい、ミスリルの工具で加工を進めていく。

 角をどんどん落としていき、円柱状になってきたところで器具に固定。回転させながら削り込んでていく。


 完全な円柱になったミスリル棒に、他の部品を填めるための加工を施す千尋。

 その作業をジッと見守るリゼ。

 汗を拭いながらも加工を続ける千尋は冒険者ではなく職人の方が向いてるんじゃないかと思ってしまう。






 一方、蒼真とミリー。

 木製の棒を切り出して蒼真は木刀、ミリーは短めの棍で特訓する。

 ミリーは棍を持って構え、蒼真がゆっくりと攻撃を仕掛けていく。

 防御するミリーに対して何度も攻撃を打ち込んでいく。


 十分で休憩して五分後にまた再開。


 しばらく続けると、慣れてきたのか防御の動作もスムーズになる。

 そこから少しずつ蒼真は攻撃のスピードを上げていき、防御の動作が追いつくまではスピードを上げずにひたすら打ち込む。

 打ち込みにパターンはなく、あらゆる角度から打ち込んでいく為スピードが上がるとなかなかついていけない。


 およそ二時間続けたところで時刻は十二時。

 千尋達の作業を見に行こうとミリーと開発室に向かった。






 開発室に着くと千尋が汗だくになりながらも真剣な表情で作業をしていた。

 それを手伝うリゼも汗を流して頑張っている。

 邪魔してはいけないと思い、外で待つ事にした。


 十五分程して千尋達が出てきたので、そのまま昼食に向かう。






 午後からも千尋とリゼは作業を続け、蒼真とミリーは特訓を続けた。






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 二日目と三日目は模様付けと磨き込みを行う。


 リゼはその間魔力を寄せているだけだが、千尋は作業をしながらも話をするので退屈ではなくむしろ楽しい。


 蒼真とミリーは同じメニューをこなしていた。

 初日に比べれば動きもだいぶ良くなり、体力もついてきた。

 理由は身体が悲鳴をあげるような事になっても回復出来るからである。

 徐々に体力がつくのと同時に筋肉もついてきている為、このまま続ければミリーの肉体は筋肉でムキムキになるかもしれない。






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 五日目。


 最後の色付けだという事で気合いが入るリゼ。


 色付けの方法は魔石を使うのだが、着色用の魔石をミスリルに触れさせる事で魔法が発動して色が変わるのだ。

 着色の仕方は魔石を削り、魔石の粉末を水に溶かして塗りつける。

 魔石が発動して色が定着した上から再度塗ると色の濃さも調節できるという事だ。

 着色用の魔石と表現したが、実際は着色ではなく変色。

 ミスリル表面の色が変わる為、強度もミスリルそのままで色落ちもない。


 模様部分は細かい為千尋が塗り、他の部分をリゼが塗っていく。

 色は決めてあったので丁寧に塗り進めていき、昼前には着色も終わった。


 昼食前に練習場へ向かう。






「ミリー! メイスできたわよー!」


「ホントですか!?」


 特訓していたミリーは蒼真の木刀を受け止めてから振り返った。


「じゃーん!」


「っっっうわぁ…… 綺麗ですね!」


 ミリーが驚きと嬉しさの混じった表情をして喜んでくれた。


「絵では地味だと思ってたけどね。実物がこんなに綺麗になるなんて私も驚いたわ。一流の職人に頼んでもこんなの作れないわよ」


「想像の上をいくあたり流石だな」


「シンプルなデザインだからこそ面を磨き込んだんだよー。色も相まっていい感じだよね! ミリーが気に入ってくれたみたいで良かったねリゼ」


「すっっっごく気に入りました! けど、こんなの受け取っちゃっていいんですか!?」


「ミリー用に作ったんだから受け取らないと二人に悪いだろ」


「大事にしてよね!」


「ありがとうございます!」


「お昼食べたらお披露目だねー 」


 というわけで昼食をとる事にした。






 昼食後は研究者を集めてのお披露目となった。


 以前千尋と蒼真がしたように、土のゴーレムが五体作り出される。

 ミリーの場合はレベル5で魔力も多い為、複数のゴーレムを用意した。


「いきますっ!」


 と目の前のゴーレムにメイスを振り下ろし、爆発音と共にゴーレムは弾け飛んだ。

 おお! と言う歓声があがり、すぐに右側にいた二体目の腹部を横薙ぎに打ち込む。

 そのまま振りかぶって三体目も破壊し、アッサリと五体倒してしまった。


 そこへ蒼真が……


「ミリー、いくぞ」


 一瞬にして刀で斬りかかった蒼真。


 ギリギリで受けたミリーに蒼真が再度斬り込む。

 特訓の続きのようだが蒼真の動きが少し遅い、いや、ミリーに合わせているようだ。


 一分ほど斬り交わしたところで攻撃が止む。


「やはりメイスの重さがあるから動きが鈍いな。もう少し訓練する必要がありそうだ」


「っびっくりしました…… そうなんですよ!  思ったほどの重さじゃないんですけどね。木の棒よりはだいぶ重いです」


「あと数日ここいるつもりだから慣れるまで蒼真付き合ってあげなよー」


「ああ、そうする」


「お手柔らかにお願いします……」


 と、ミリーは苦笑い。


「あ、そうそう。忘れてた。みんな集まってるからミリーの粉塵爆発も見せてあげてくれない? 前回より威力抑えて欲しいけど」


「前回のと同じでお願いします!」


 と、コーザが言うので要望にお応えして……






 また蒼真とミリーで大爆発。


  !!!!!!!!!!!!!!!!!


 一同尻餅をついて唖然としている。


 我に返った研究者達に質問責めに合うミリーだったがまともに答えられるはずもなく、ぜぇぜぇと息を切らしたまま蒼真が丁寧に説明していた。

 これでまた研究費が増えるぞーなどと言いながらみんな去っていくが、お世話になっているのでツッコまないでおく。


 あはははーと半笑いしていたミリーがある視線に気付く。

 リゼの視線がメイスに向かっているのだ。


(これは……)






「千尋さん千尋さん! お話しがあります」


 と、千尋をリゼから離れたところに呼び出すミリー。


「何かな何かな?」


「まだ数日ある事ですしリゼさんにも何か作ってあげてはいかがでしょう」


「え? リゼも欲しいの? すごいの持ってそうじゃない?」


「千尋さんが作ったのなら凄く喜びますよきっと!」


「ほんとにー? リゼ喜ぶの!?」


「本当ですとも! 宝物にしちゃうくらい喜びますよ!」


「そんなに!? じゃあ作ってみよかなー」


「試しに聞いてみてください!」


 ミリーは千尋の向きをくるりと変えて背中を押す。

 そのままリゼに駆け寄る千尋。


「リーゼー! リゼにも何か武器作るよ!? 何欲しい?」


「ええ!? 私にも作ってくれるの?」


「うんっ! リゼは凄いの持ってるかなーとも思ったけどさ。オレの作ったのでも欲しいかなって」


「すっごく欲しい! 作って!」


「よーし、頑張るよー!」


 千尋が武器を作ってくれると言うので驚いたリゼ。


 千尋の読み通りリゼも冒険者時代の武器はある。

 それも並みの冒険者が買えるようなものではない一級品の超高級武器だ。

 しかし千尋の作る武器はその一級品の武器を遥かに凌駕する程の作りだ。

 実際千尋が作る武器をリゼも欲しくて堪らなかった。






「ねねね、ミリー! リゼが欲しいって!」


「良かったですねぇ千尋さん」


 そんなわけで急遽リゼの武器も作る事になった。


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