第8話 ミリーの特訓
研究所の管理人室に向かう三人。
管理人さんに挨拶をし、千尋の銃に不具合があった事を伝える。
以前の千尋と蒼真の講義のおかげで研究が一気に進んだ事もあり、またお世話になっても問題ないとの事。
ミリーの事も宿泊許可をもらい、研究所の中へと入る。
ミリーは勝手に進む話にオロオロとしているが千尋も蒼真も気にしない。
とりあえずリゼを探そうと研究室へ向かうが居らず、レティに聞いたところ宿泊所で落ち込んでいると言う。
宿泊所に着くとテラスで遠くを見つめるリゼがいた。
確かに遠くから見てもわかる程度に落ち込んでいるようだ。
「リゼー! ただいまっ!」
「千尋!? お、おかえり。戻って来るの早すぎでしょ!」
「少し不具合があって戻って来た。あとこちらはパーティーに誘っているミリーだ」
「はじめまして、ミリーです」
「私はリゼ。よろしくね。それにしてもパーティー組めとは言ったけど早かったわね」
「ミリーはヒーラーなんだ。オレ達のパーティーメンバーとしては相応しいだろう?」
「ヒーラーの冒険者とか珍しいわね。あなた達は無茶しそうだから良いと思うわ」
ミリーはリゼにダメと言われると思ったのか、ビクビクしていた。
リゼから良いと言われてパァっと表情が明るくなる。
「それで不具合ってどうしたの?」
「オレの銃がうるさくてさぁ、いっぱい
「あははっ、倒し過ぎよっ!」
リゼや千尋から少し離れたところで蒼真に耳打ちするミリー。
「なんかリゼさん千尋さんにだけ態度違わないですか?」
「わかりやすいだろ」
千尋はこの後開発室に篭る予定だ。
それとミリーにはパーティーに入ってくれるか考えてもらわないといけない。
「ミリーはどうしてもパーティー入れないのか?」
「あっ、あのっ…… 私なんかがパーティーに入ったら迷惑なるんじゃないかと思って」
「ミリーさんは自信が無いの? ヒーラーなら魔力も高いと思うけど」
「いくつあるの?」
「えーと、先月レベル5になった時に18,600ガルドくらいでしたけど……」
「マジか!?」
「高いな……」
「すごいわね、並みのレベル10以上じゃない!」
「でも攻撃魔法を練習してこなかったので全然ダメなんです」
苦笑いでそう話すミリー。
「レベル4の時はどれくらいだったの?」
「9,100ほどでしたが…… お二人に比べたら恥ずかしいほどかと……」
「ん? あなた達の教えてないの?」
「ショックが大きい」
「言いたくない」
「この二人レベル4で2,000以下よ!」
「ほえ!?」
間の抜けた声を漏らすミリーと苦笑いする千尋と蒼真。
「そ、そんな魔力量であんな事ができちゃうんですか!?」
「銃は魔力要らないもん」
「刀も強度上げてるだけだな」
「それもですけどあの魔法!」
「ん? この二人何したの?」
「千尋さんは見るだけでワーウルフ倒しましたし、蒼真さんは冷気を出してリザードマンを動かなくして倒しました!」
「そんなの見せられたら自信も無くすわよね……」
顔を引きつらせるリゼ。
「あんなの初めて見ましたよ」
苦笑いで答えるミリー。
「千尋は何したの?」
「酸素濃度を下げたんだよー。ゼロにはできないけどほとんど無いくらいに」
「それで倒せるの?」
「酸素濃度の低い空気を吸うと卒倒するからな。この世界でもオレ達が普通に呼吸できる事から、酸素濃度も21パーセントくらいはあるはずだ」
「そそ、少し下がるだけでも体調に変化出るからね!」
さすがにリゼも知らなかったらしい。
リゼもミリーもほへ〜と驚いている。
「じゃあ蒼真は? どうして冷気を出したの?」
「リザードマンだったからな。爬虫類…… トカゲみたいなもんだろ? だとすれば変温動物だろうと予想して試してみたんだが。効果はあったな」
変温動物? と二人は首を傾げる。
「変温動物というのは体温を維持できない動物の事だ。日光を浴びて身体を温めていないと動けないんだ」
「なるほどね…… それで寒い地方にはリザードマンは出現しないのね……」
「リザードマンから冷気の魔石が出るのは何故か不明だよね!」
リゼは顎に手を当てて一通り聞いた事を反芻して考えたあと、ミリーに一つ提案をした。
「千尋が開発室篭っている間暇だろうし、私達研究者としてはヒーラーの使う魔法に興味があるし少し私達に付き合ってくれないかしら?」
「あ、はい。いいですよ」
「空いてる時間は攻撃魔法の練習をするといいし…… そうね、蒼真教えるの上手いし教えてあげて?」
頷く蒼真。
「じゃあオレは開発室行ってくるねー」
「私達は訓練場に行きましょう」
と、移動を開始した。
三人は先に研究室に向かい、コーザとアルフを呼んで訓練場へ向かう。
軽く挨拶を交わし、コーザからの質問で回復についてミリーから教えてもらう事にする。
ミリーは医師の家系で、親から与えられる魔力そのものが回復するという事に特化しているとの事。
どんな魔法かと問われてもハッキリとは答えることができないそうだ。
魔力の質がそうさせるのかもしれないと考えるコーザは、魔力の操作を見せて欲しいと言う。
ミリーの魔力操作は指先に魔力を集め、左右に振ってみるとキラキラと光る粒子状の魔力だった。
この魔力を分散されないように維持するのが魔力操作の訓練との事。
見た目でわかる魔力の質の違い。
回復魔法に関しては誰しもが出来るものではないと結論付けた。
そして魔力が粒子状であるが故に、属性魔法を発動できないという。
ヒーラーの冒険者が少ないのは攻撃する事ができないのが理由のようだ。
コーザとアルフはミリーに礼を言い、研究室に戻って行った。
魔力を砂状に。
蒼真もリゼも試してみてもできなかった。
さすがに千尋でもこれは無理だろうと思う。
蒼真やリゼは魔力を固めて魔法を発動するが、ミリーは魔力を固める事ができないらしい。
蒼真は火属性魔法だとガスのように放出しているが、やはり手には魔力を集めてる。
たぶんミリーの粒子状の魔力は一粒一粒が魔力球みたいなものなのだろう。
そして魔力を遠くに飛ばす事も出来ないらしいが、自分を中心に3メートル程の範囲を広げる事ができるそうだ。
(範囲内に粒子状の魔力を満たす……)
ふと思いついた蒼真は、ミリーに魔力を広げてもらう。
ミリーは範囲を目一杯広げ、魔力を範囲内に放出する。
「こんな感じですがどうですか?」
「うーん、もっと範囲を狭めてくれ」
「…… これくらいですか?」
「ああ、魔力量を四割まで下げてくれ」
「蒼真? 何か閃いたの?」
魔力量を減らすミリー。
キラキラと魔力の光柱に覆われている。
「おもしろいのなら思いついた。ミリー、もういいぞ」
少し悪い笑みを浮かべる蒼真。
「なんだか嫌な予感がするわ」
「私もです!」
あまり表情を見せない蒼真がニヤリとしたとあれば嫌な予感がするのも当然なわけで。
「ミリーは魔法で火は出せるか?」
「できません。イメージが湧かないんですよね」
「魔法はイメージだからな。そこは練習してもらうとしてまず説明しようか」
「性質は違っても魔力は魔力よね……」
蒼真が説明するのは
粉塵爆発というのは、大気中に一定濃度の可燃性の粉塵がある状態で、火種によって引火する事で爆発がおこる。
要は魔力を粉塵と見立てて濃度を上げて、火属性魔法で着火、爆発を起こそうという考えだ。
しかし爆発の中心にミリーがいる事になる。
どうしても風魔法でのガードが必要になると予想する。
怯えるミリーだが、やるやらないは別にして火属性魔法くらいはできないと戦うのは難しい。
蒼真が掌の魔力球をバンバンと爆発させて見せ、ミリーの頭の中にイメージを作り込む。
ミリーの魔力を火薬と考えれば爆破が良いかなと考えた為だ。
軽い気持ちで始めた魔法の練習も、思いの外順調に進み三十分ほどで火花を出し始めた。
残念ながら火としては使用できなかったが。
そこからさらにしばらく練習し、遠くに飛ばす事はできないが自分の魔法有効範囲内であれば、火としてではなく爆裂系魔法として使用が可能となった。
これまで回復以外の魔法を使えなかったミリーは、自分の魔法で起こる爆発に感動していた。
粉塵爆発が無くてもそこそこ戦えそうだなと言う蒼真だったが、ミリーが粉塵爆発をやってみたいと言い出した。
蒼真が風魔法を発動してミリーが爆発させればできるだろうととりあえず試してみる事にする。
本当は怖いミリーだが、蒼真の言う粉塵爆発への興味と好奇心が恐怖を勝ったようだ。
「蒼真。あなたの魔力量だと風魔法も長持ちしないわよ?」
「ああ、わかってる。ミリーは八割の魔力で頼む。リゼはもっと離れてくれ」
ミリーの後ろに蒼真が立ち、魔力を練って風の幕を作る。
ミリーは有効範囲内に魔力を満たす。
「もう少し範囲を狭めて」
「はい」
半径2メートルほどの光柱がさらに光を増す。
「よし、カウント後に全ての魔力を燃やすんだ。その瞬間オレが風の障壁を強化する」
「はい!」
「三、二、一…… いけ!! 」
!!!!!!!!!!!!!!!
凄まじい爆音と空へと吹き上がる火柱。
尻餅をついて火柱見上げるリゼ。
すぐに火柱は収まったが、凄まじい威力である事は確かだった。
「はぁ、はぁ…… 凄い威力だったな」
「あわわわわわわわわわわ」
「どうしたー!」と研究員が騒いでいたが火柱はすでに消え、蒼真とミリーの周りの地面が深く抉られていた。
「これは少しやり過ぎじゃない?」
顔を引きつらせながら言うリゼ。
「はぁ、はぁ…… ギリギリ耐えられたが八割はやり過ぎだったかもな……」
「あ、あ、あんなに威力あるとか聞いてないですよー」
と、泣きながら半笑いのミリー。
そこへ爆音を聞きつけて千尋も走って来た。
「なになに? どーしたの? ドーンて鳴ってたけど!」
千尋を見てリゼが答える。
「粉塵爆発をミリーがやったのよ。凄い威力だったわ」
「そうなんだ。じゃあミリーは風も使えるようになったの?」
蒼真を指差すリゼ。
「蒼真が風でガード?」
「そういう事だ」
「んじゃミリーは火属性魔法出せるようになったんだねっ!」
「火属性魔法というか火花が散る感じですけどね」
「ん? 見せて見せてー!」
魔力を爆裂させながら手を動かすミリー。
驚きながらも嬉しそうに見る千尋だったが。
「魔力球じゃなく粉塵系の魔力か。凄くおもしろいけどその威力じゃ魔獣はあまり倒せないよね。何か工夫が必要か…… ミスリルの武器に乗せて、打ち付けて爆発させるのがいいかなー」
ブツブツと語り出す千尋の言葉に少し消沈するミリーだったが。
「ミリーは何か武器を使った事はある?」
「え、な、ないですけど!?」
「ミスリルってさぁ、魔力を通しやすいだけじゃなく、少しの時間溜め込む性質もあるみたいなんだ! 蒼真、刀から魔力を抜いてミリーに貸してみてよ!」
蒼真から刀を受け取るミリー。
抜き身の刀に少し怯みつつも両手で持つ。
リゼが高さ1メートルほどの土柱を魔法で作る。
千尋の指示通りに刀に魔力を流し込んで振り降ろすミリー。
直撃の瞬間爆破させるイメージで。
ズダーン! という爆発音とともに土柱は跡形もなく破壊された。
ただ振り下ろしただけの刀に爆破を乗せてこの威力。
「うん、良い感じだね! あとで武器を少し考えようか」
「は、はい!」
ビクビクしながら蒼真に刀を返した。
もう今日はこの二人に会ってから驚く事ばかりで、挙動不審になっているミリー。
とりあえず武器を何にするか相談する。
一人ずつミリーの魔法に合ったものを提案してもらおう。
千尋はナックルを提案する。
武器が使えないなら拳でいけとの事。
蒼真はメイスを提案する。
打撃系武器なら爆破にも合うだろう。
リゼはピンクがいいと提案。
私はピンクが好きだからとの事。
ミリーは「可愛いのが良いです!」との事。
何の武器を作るかと相談してるのに女性陣は考えるつもりがなさそうだ。
ミリーに戦い方を蒼真が教えるので、武器作りは千尋とリゼが担当する。
リゼの仕事が心配だが、本人はアッサリと了承してくれた。
時刻は十五時半。
少し早いが今日は練習は止める事にする。
「私、力になれますか?」
「ミリーさん、あれだけの威力よ? 力になれないわけ無いじゃない」
「あ、ミリーでいいですよ!」
「改めてお願いするが、オレ達のパーティー入ってくれないか?」
「そそ、入ってよミリー」
「是非! よろしくお願いします!」
これでミリーのパーティー入りが確定した。
その横で(いいなぁ……)と誰にも聞こえない声で呟くリゼだった。
リゼは研究室に向かい、仕事の断りを入れに行った。
新たなミリーの魔法もあるから仕事を空けても問題ないとの事。
その間、また武器を作る事になったので管理人室に一週間ほど泊まる事をお願いしに行った。
宿舎のテラスに集まる四人。
紙に武器の絵を描く千尋。
「千尋は絵も上手いわよね……」
「ふん、なんでも描けるぞ」
「蒼真さんが自慢するんですね」
などと言っているうちに五枚描きあげる。
メイスは基本的には殴打用の武器。
デザインを五種類と模様を入れてあるのでどれも良く見える。
千尋の好みでファンタジー風なメイスの数々で、模様やデザインはどう組み合わせても良いとの事。
嬉しそうに絵を選ぶミリー。
「これいいですね」
「私もこれが好きね」
「先端が重いのが難点だな」
「重さは慣れないうちは大変かもねー」
ミリーが悩んでいるのを見て他にも描こうかと提案する千尋だったが、増えると余計悩むからとこの中から選ぶと言う。
「千尋さん…… この中で私に一番必要な武器はどれですか?」
しばらく悩んだミリーが千尋に問う。
少し考えてから千尋は答える。
「ミリーは武器の使い方を知らないでしょ? これから蒼真と練習したとしてもそう簡単に扱いきれると思えない。だから今必要だとするならこれかな」
最もシンプルなデザインの絵を差し出した。
「はいっ! じゃあこれをお願いします」
「えー!」というリゼだったが、強くなったらまた作ればいいじゃんと千尋が言うのでそれに決まった。
その後は色や模様に話は変わり、ある程度まとまった頃には十八時を過ぎていた。
「ミリーはさん付けやめないんだね」
「はい。私の口調と合わないのと設定ですかね!」
「設定とか言うな!」
などという会話もあった。
食堂に行くとコーザ達もいて、いつも通りの騒がしい晩御飯となった。
今日の出来事や魔法の話に興味津々といった感じで研究者一同は聞いていた。
部屋に戻ってシャワーを浴びたところで眠くなり、今夜はいつもより早く眠りについた。
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