第7話 出会い

 明かり一つない闇の中、城ヶ崎凛は目を閉じたまま静かに双剣を構える。一瞬暗闇に火花が散ったかと思えば凛の周りで重く風を切る音が鳴り響く。



 次の瞬間凛が動いた。



 時に体を回転させ、暗闇で双剣を振るえば金属音とともに火花が散る。そして



「やあっ!」



 裂帛の気合と共にその場で独楽のように一回転する。いくつものドスンという重い音が響くと部屋に明かりが灯る。凛が目を開けると部屋にはギロチンに使われるような巨大な鋼の刃が3つ地面に刺さっており、他の刃も鎖に繋がれ振り子のように揺れている。



「ふう」



 緊張したのか一息つきながら双剣を鞘に収める。暗闇に設置された複数の巨大な刃が不規則に揺れる中音と恐怖に惑わされることなく特定の振り子だけを落とせるかという退魔隊に古くから伝わる訓練方法だが今では一歩間違えば命を落としかねないその危険性から行うものは少ない。しかし凛はこの訓練方法を好んだ。これならば実戦に出ずTとも神経を研ぎ澄ませることができる。いつでも姉の仇を討つための戦いに赴くことができるという理由だった。ちなみに蛇足だが一度源治を煽ってこれをやらせたところ特定の振り子どころかすべて切り落としてしまい、本人曰く



「俺の刀の届く範囲にいるのが悪い」



 とだけキメ顔でいうとムッハッハッハッと豪快に笑いながら部屋を後にした。



 訓練を終えた凛がいつもどおりシャワーを浴びるために脱衣所へと向かう。スポーツウェアを脱ぎ下着のスポーツブラを捲り上げた時。



「NOBODY expects the Spanish Inquisition!!(まさかの時のスペイン宗教裁判!)」



 そんな事を叫びながら何故かフォークギターを肩に下げた源治が脱衣所へと乱暴にドアを開け侵入してくる。



「え?ちょっ、はぁ!?あんた何考えてんの!?」



「いつも頑張るあなたを応援したい!そんな思いを込めて作りました!聞いてください!「ネバーギブアップ!」・・・」



 凛はその勢いに飲まれ静寂と共に源治の歌う歌を聞こうとしてしまう。しかし



「あっ俺ギター引けねーんだったわ。じゃーな」



「引けねーんだったら何しに来たんだよ!」



 思わずスポブラを床に叩きつけ怒鳴る凛。それを尻目に源治はそそくさと脱衣所を出る。



「シャワー浴び終わったら連れてく所あるから出かける準備しとけよ」



「くたばれ髭!」



 一拍おいて今度は下を脱いでいる時にドアの隙間から顔だけ出した源治に思わず下着を投げつける凛だったが。



「ストラーイク。」



 投げられた下着は源治が口でキャッチしそのまま脱衣所を後にする。



「・・・・ジーザス!!」



 朝の屋敷に凛の怒号が木霊する。数十分後源治はそんな凛を後ろに乗せてバイクを走らせた。



 着いた先は寂れた雑居ビルだった。ビルの地下駐車場にバイクを止めた源治は凛を連れエレベーターに乗る。そして何も書かれていないボタンを押すとエレーベータが動き出した。しばらくの間下に向かえば、エレベーターが止まる。そしてエレベーターから出る、そこは巨大な研究室のような場所だった。そこでは白衣を着た老若男女がせわしなく動き続けていた。



「ここって・・・」



「退魔部技術課、俺らが怪異を殺すための武器や技術を日夜研究してるある意味イカれた場所だ。ほら行くぞ」



 そして足早に歩き始めた源治の後ろを凛も着いていく。



「おい、あれって・・・」



「ああ、「鬼」だ・・・」



「するとあの子が・・・」



「可哀想に、あの子も喰われるのか・・・」



 道すがらすれ違った研究員から発せられる言葉に源治に対する歓迎の念などはなくむしろ恐怖、侮蔑の念が込められていた。



「・・・随分嫌われてるんだね」



「俺と組みたくなくなったか?」



「冗談、アタシは姉さんの敵を討つの。そのためにはアンタが近道なんだから、絶対認めさせてみせるんだからね」



「まぁそれなら頑張ってくれ・・・っと着いたぞ。ここだ」



 そうして足を止めた部屋のプレートには「結城 菫」と書かれていた。



「ゆうきすみれ?」



「ああ、入るぞ!」



 そうしてノックもせずにズカズカと部屋に入る源治。



「ああ、源治か、待っていたよ」



 パソコンに向かい合っていた影が椅子をこちらに向けると立ち上がる。その姿は身長は190cmを越え軽くウェーブがかかったやや紫がかった髪で肌は白蝋のように白い肌となっている。


 服装は丈の長い白衣とその下に赤色のワイシャツ、青色のズボンを着ており体つきは非常に起伏に富んでおり女性的な体つきだ。



「ようこそ、君が城ヶ崎凛君だね?私は結城菫。この技術課に在籍している。気軽に菫。もしくはスミレンとでも呼んでくれ」

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