第6話 獣の夜(下)
「おいガキあいつはどっちに行った?」
「町外れの廃ビル。今から言うところで待ってるから」
源治が凛の指定した地点に着くと、
「遅い、そんなにごついバイクに乗ってるのんだからもっと早く来てよね」
「そう怒んなって、ほらよ」
叱責する凛に源治はミネラルウォーターの入ったペットボトルを投げてよこす。
「・・・・それで?作戦はどうするの?」
「正面から真っすぐ行ってぶった斬る」
「なにそれ?作戦じゃないじゃん」
「いいんだよ、あいつと合流した本隊は少なからず警戒してるはずだ。なら小細工かますより、正面から言ったほうが逆に意表がつけるってもんだ。」
「足引っ張んないでよね」
「心配すんな俺に負けたやつよりかは長生きするさ」
こうして源治と凛は凛の運転するバイクに乗り人狼達が潜む廃ビルへと向かった。
「オープン・セサミィ!」
廃ビルの付近に着けばそこにバイクを止め廃ビルの入口まで行くとそう言いながら施錠されていた扉を蹴破る。ビル内に破壊音が響くが人狼が出てくる様子もない、そこを源治徒手空拳のままで凛を連れて我が物顔で進んでいく。
階を上がり4階まで来ると今までとは明らかにフロアの雰囲気が変わっていた。
「ねえ・・・」
「流石にお前も気付いたか、こいつら畜生のくせに生意気にも不意打ち狙いみたいらしいな。それなら先攻は譲ってやろうじゃないか」
そう言うと源治はまだ刀を抜かないまま部屋の中央まで歩を進めていく。雲が晴れ月明かりが吹き抜けの天井のから源治に降り注げば、それを狙っていたかのように左右から2匹の人狼が源治に向かって飛びかかる。
「さあ、ショータイムだ」
飛びかかってきた人狼をその場で大きくジャンプして手近にいた人狼を踏み台にもう一度ジャンプし、包囲を抜け人狼の背後に回れば刀を抜き、股下から真っ二つに切り裂く。残った人狼の注意が源治に向かえば背後から双剣を構えた凛が背後から的確に頸動脈を切断する。
「死んだら後始末が面倒だからな、死なないでくれよ!」
「あんたこそ!」
腕を左右に広げて周囲を見渡しながら凛に発言するとそれに答えるように凛も後ろから襲ってきた1体の人狼の攻撃を避け脳天を正確に貫けば素早く源治の後ろに移動し背中合わせになる。
「さあ今日がお前らの命日でここが墓場だ!死にたくなかったら気合い入れてかかってこいや!」
源治は目を生き生きと輝かせながら人狼の一団に向かって走り出し、出会い頭に片っ端から切り捨てていく。
「氷術 氷剣山」(ひょうけんざん)
猛火のように突き進む源治とは対象に凛は冷静に双剣を地面に突き立てれば術式を起動。術式を起動すると、地面から生えた氷の剣が扇状に広がり、次々に人狼を串刺しにしていく。
「やっぱ術式使うと派手だな。よっしゃ!だったら俺もいっちょ派手に行くか!」
そう叫べば刀の切っ先で地面のコンクリートを擦れば火花が散り刀に燃え移り着火する、手始めに近くにいた一体を正面から唐竹割りにし背後から迫る人狼の攻撃をその場で後ろに向かって宙返りして避ければ人狼の後ろに回る最中すれ違いざまに首を切断する。
「うるさい・・・」
エキサイトする源治を横目で見れば自分周囲一体の地面を凍らせのそこをスケートのように踊るように滑りながら足元がおぼつかない人狼とのすれ違いざま急所を的確に双剣で切り裂いていく。
「これでっ、ラスト!」
自分の回りにいる最後の一体を術式で生み出した氷柱で眉間を撃ち抜けば凛の周りにいた人狼は全て倒したのか源治の方を見れば源治もすでに倒し終わっていたのかその辺にあった椅子に座り凛の戦いぶりを観戦していた。
今度は凛が源治の戦闘力に舌を巻く番であった。戦闘の合間に横目で見ていたが、源治の戦い方は荒々しく簡潔だった。
すなわち、走る、殴る、蹴る、斬る。
一見セオリーを無視したチャンバラ剣法に見えるが、その斬撃は一撃一撃が重く鋭い一撃ばかりだった。そんなことを思いながら、源治を見てれば
突如下の階から窓ガラスの割れる音が響き一匹の人狼がビルから飛び出し源治たちを見ると不敵に口を歪める。その脇にはどこかでさらってきたのか子供を抱えており、子供は人質というわけだ。
「あの野郎っ!」
反射的に飛び出そうとした源治だが脇に抱えられた子供を見て動きが止まると凛が話しかける。
「・・・ねぇ、ここから500mぐらいの距離ならどれくらいで行ける?」
「それなら10秒で釣りが来る・・・それがどうした」
「私が合図したらあいつを追って。子供を助けて」
「・・・信じて良いんだな?まぁ失敗してもあいつは殺しておいてやる。ガキの安否は保証しないけどな」
そんな事を話していると件の人狼が飛び上がりその場から逃走を図る。
「行って!」
凛の合図と同時に源治がビルの外に飛び出せば凛の手元に氷で形成された弓が現れる。同じく氷でできた矢をつがえれば
「姉さん、力を貸して」
その呟きと共に放たれた矢は夜空を切り裂き一筋の龍になり正確に人狼の腕の付け根を撃ち抜く。それにより子供を離した人狼が振り返ったとき最期に見たのは自分に肉薄する黒衣の鬼だった。
「ジ・エンドだ」
胴から横一線に人狼を切った源治はその場で別のビルの壁を足跡がつくぐらいの勢いで踏み込めばそれによって得た加速で子供に肉薄し難なくキャッチすると、すぐさまコンクリート製の壁に刀をつきたて落下の速度を殺しお互い無傷で着地する。
「ガキは・・・無事か。ほれ、この火見て寝てろ。そんじゃここに寝かせて、後は処理班呼んで終いと・・・」
懐から取り出したライターで緑色の炎を出せば子供の顔の前で炎をゆらゆらと揺らせば、子供の顔が眠そうにウトウトし始める。子供を地面に寝かせると取り出した携帯でどこかへ連絡すると
「しっかし人狼ってことはあいつがこの街にいるってことか・・・楽しみだなぁ楽しみだなぁ。早く来いよロボぉ。今度こそはぶった斬ってやるからよぉ」
そう言って笑う源治の姿を薄れる意識の中で目にした子供はそのあまりの恐怖に処理班の手で記憶を消された後も原因不明の悪夢に魘されたという。
一方その頃凛は源治が子供をキャッチしたのを見ると緊張の糸が緩んだのか先程まで命のやり取りをしていたという恐怖と自分が他者の命を奪ったという罪悪感からくる重圧に耐えきれずその場で吐いていた。
「姉さんの敵を討つんだから・・・こんなところで・・・立ち止まってられない」
ひとしきり胃の中を吐き出して廃ビルから出れば同時に凛の携帯が鳴る。連絡主は源治だ。
「子供は?」
「処理班に預けてきた。そんで、スッキリしたか?」
「・・・なんのこと?」
とぼける凛を見て電話口でニヤニヤと笑う源治。
「この稼業やってると初めて実戦を経験したやつはくたばるか盛大に吐くかのどっちかだって学んだからな。俺も連絡するのをちょい遅くしたってわけよ」
図星を突かれた凛は一瞬言葉に詰まり恥ずかしさから頬を紅潮させる。
「まぁそういうわけだからバイク。乗ってきてくれよ。訓練所で一通り乗ってるから慣れてるだろ?」
「・・・あのバイク絶対原型とどめてないでしょそんな代物を・・・で、どこに行けばいいの?」
今の状態で源治と言い争っても勝てないと判断した凛は諦めのため息を吐くと源治の指定した場所へとバイクを走らせ、帰りは源治の運転で帰路へとついた。事故を装って源治の背中に少し吐いたのは秘密だ。
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