第2話 プロローグ:城ヶ崎凛
城ヶ崎凛には家族と言える人間は姉の静葉だけであった。
両親を早くに亡くしたこの姉妹は、孤児院に引き取られることとなった。
この孤児院表向きは普通の孤児院であるが本来の目的は、護国退魔隊の隊員を育成するための施設であり、凛も姉である城ヶ崎静葉と共に物心ついた頃から退魔隊の隊員になるための訓練を積んできた。
隊員になるための訓練は辛かったが姉と一緒だという事と、自分もいつか先に隊員となった姉のように世界の秩序を守るのだという憧れのお陰で耐えることができた。
凛の訓練所卒業まで残り一年といったところで凛にあるニュースが飛び込んできた。その内容は姉である静葉が、怪異と戦闘を行った際死亡したというものだった。
ショックを受けた凛に更に追い打ちを与えたのは静葉を殺した怪異は生きているということだった。
それからの凛は周りの静止も振り切り血反吐を吐くほど我武者羅に修練に打ち込んだ。修練に打ち込んでいるときだけは、凛の心の中に渦巻いている姉の死の原因となった怪異への憎しみ、それを忘れることによって結果的に姉の死への悲しみを忘れることができた。
それにより元々トップクラスであった成績は訓練所を卒業するときには主席になっており、主席卒業生として退魔隊の各隊から入隊を打診されたがそれを拒否し退魔部1の問題児である葛城源治の元へ行くことを望んだ。
葛城源治
もし退魔部の人間全員に「一番強いのは誰か」と質問をした場合、必ず話題に上がる人物である。
「狂犬」、「狂った死神」、「顔面破壊大帝」等物騒なあだ名で呼ばれるこの男は、訓練所を卒業してからは常に最前線で戦い、過去に出現した強大な怪異を単身で何体も葬っている生きた伝説の様な人物だった。しかし、同じ退魔部の人間からの評判は「気分屋」、「粗野で粗暴」、「血と強者に飢えた獣」「一緒にいると味方まで斬り殺しそう」、「金返せ」とあまり良くない。
なぜ凛がそんな源治の元へ行くことを望んだのは、生前の姉が入隊していたのが源治の隊であり、姉の死の真相を知っているのではないか、そして退魔部で最も好戦的な源治の元でなら必ず姉の敵討ちをする機会が回ってくるであろうと思ってのことであった。
そして凛は正式に源治の隊に入隊することを許可された。凛は源治と組むことを指示されれば早速指示された住所に武器と基本的な生活用品が入った鞄と持って向かった。
指示された住所には古びた洋館が人里離れたひっそりと立っており、凛が玄関の扉横にあるチャイムを一度鳴らす。
「ピンポーン」
・・・しばらく返事がないが、中でドタドタという音が聞こえればガチャリと鍵を操作する音が聞こえ扉が開くと半ズボンに「働きたくないでござる」と書かれたTシャツを着た源治が眠そうにあくびをしながら出てきた。源治は凛を頭の先から爪先まで吟味するように見れば
「誰だお前」
「城ヶ崎凛。今日付けであんたの隊に配属されたんだけど、聞いてない?」
「帰れ」
そう一言言うとバタンと扉を締め、さらに鍵までかけた。扉の向こうからは源治の「・・・女・・・聞いてない・・・ふざけんな」と誰かと言い争う声が聞こえる。
ドアの向こうでの言い争いを聞くこと数分しびれを切らした凛は呼び鈴を連打する。
「ピンポンピンポンピンポーン、ピポピポピポピポピンポーン」
「やかましい!近所迷惑だ!」
「あんたが早く開けないからでしょ。それにこの辺には他に家はないから近所迷惑じゃないし」
「俺が迷惑なんだよ!」
今度は鍵も開けずに扉を蹴り開けた源治に表情一つ変えずに抗議する凛。
この顔合わせの時点で最悪な二人が出会ったことでこの二人の運命は大きく動き出すこととなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます