闇斬(ヤミキリ)~Frame Warrior&Ice Valkyrie~

雑賀ランボー

第1話 プロローグ:葛城源治



 草木も眠る丑三つ時、人里離れた山中にある数年前に閉鎖になったままの病院の入り口の前に一台のバイクが停まった。




 バイクの搭乗者は乗っているバイクのエンジンを切りバイクから降りると、かぶっていたヘルメットをバイクのハンドルに引っ掛けると、月明かりに照らされその姿が鮮明に照らし出された。



 バイクに乗っていたのは身長180cm程の男であった、髪は黒く、それを頭の後ろで縛っている。



 顔は少し彫りが深く、ワイルドな風貌だ、顔つきを見る限り30代後半といったところだろうが顎髭を生やしていることもあり見方によっては40代にも見えるだろう。


 服装は黒のロングコートで、下にはワインレッドのシャツを着ている。ズボンは黒のレザーパンツであり、背には長めの日本刀を背負っている。


 全体的に暗い服装だが、腰に巻いた黒色のベルトのバックルは銀色の髑髏があしらわれていてそれが月の光を僅かに反射して鈍い光を放っている。



 「それじゃ一発かますか。」



 男は一人つぶやくといつの間にか片手に握っていた拡声器を顔の前まで上げると気だるそうに話し始めた。



 「あー、マイクテスト、マイクテスト、ホンジツハセイテンナリ・・・・。」



 「えー、現在この病院に潜伏している諸君、現在君たちには誘拐、殺人等役満レベルの罪状の疑いがかけられている。もし違うというのであれば大人しく投降し釈明を行う権利がある。しかし、この勧告を無視するのであれば・・・直ちにこの病院に踏み込んで君たちをぶち殺しに行くので覚悟するように。」



 男は一通り喋ると一旦沈黙し姿の見えに相手からの返答を待ったが一向に返答が返ってくる様子はない。



 「時間切れ。まぁわかってたけどな」



 そう言って拡声器を投げ捨てると進入禁止と書かれた板が貼り付けられた扉に蹴りを入れて開ける。板が割れる音とともに扉が勢い良く開く音が辺りに響いた。



 「ふふふんってなんだ〜、振り向かないことさ~、ふふんってなんだ~、ふふふふんってことさ~」



 院内に足を踏み入れた瞬間からむせ返るような血の匂いに包まれたが男は特に意に介した様子もなく電気の付いてない院内をまるで散歩をするように軽くスキップしながら進んでいく。



 暫く進むと、院内に複数の気配を感じる。どうやら囲まれたようだ。ところが、男は自分が囲まれているというのに、我関せず調子で歩を進める。



 階段を登り2階に到達し、一本道の廊下に差し掛かった時、状況に変化が起きた。男が進む先に数体の人影が見えるが、近づくにつれそれが人間でないことがわかる。



 彼らの姿は人間に似ていながらも、前かがみになった姿勢や顔つきはどことなく犬を思わせ、肌は不快なゴムのようだ。足には蹄とも鉤爪ともつかないものが備わっており、醜悪の一言が当てはまる、そんな外見をしていた。



 一般的に屍鬼と呼ばれる彼らは、獲物である目の前の男に牙をむく。それと同時に、男が先程通った道からも数体のグールが現れ、男を挟み撃ちする形になる。



「ようやく出てきたか、かくれんぼしてんじゃねえからもうちょっと早く出てこいってんだよ」



 そう言うと男は道を塞ぐ屍鬼たちに向かって走り出す。予想外の行動に少し面食らった屍鬼達だったが、すぐに自分たちに向かってきた愚か者に報いを与えようと牙を向き、その鋭い爪が生えた腕を振りかぶるが、その爪が振り下ろされることはなかった。



 男は屍鬼たちに向かって走ると、大きくジャンプし先頭に居た屍鬼の頭を踏みつけると、それを踏み台にして窓ガラスに突っ込み、窓ガラスを粉砕。二階から飛び降り、何事もなく地面に着地すればそのまま駆け出す。 



 この一瞬の出来事に、呆気にとられた残りの屍鬼達だったが、逃げた獲物を追わんと雄叫びを上げれば、院内に潜伏していた残りの屍鬼達が男を追う。



 走り続けた男が辿り着いたのは、広めの中庭だった。男が中庭に到着するのと同時に、多数の屍鬼達も男を取り囲むようにして中庭に到着する。その数、約15。


 絶体絶命の状況にあるというのに、男はにやりと笑えば、右足で大きく地面を踏みつければ。



「Fire」



 男が呟くと男を中心に屍鬼を囲む形に炎の壁が地面から吹き出てくると男と屍鬼の群れを閉じ込める形になる。



 そうこうしていると一体の屍鬼が男に向かって駆け出し、その鋭い爪を振り下ろす。



 目の前の獲物を捉えるはずの爪は空を切り、突然頭上から降り掛かってきた重量に屍鬼は体制を崩し倒れる。



 屍鬼の上に立つ男は後頭部に乗った左足に力を込めて



「BANG」



 頭部を踏み抜いた左足が哀れな第一犠牲者の脳漿を辺りに撒き散らす。



 男は頭の無くなった屍鬼から降りると、背負った刀を右手で抜き逆手に持つと、歯を剥き野性的な笑みを浮かべる。



「手前ら今まで人間相手に好き勝手ぶっ殺してきたみたいだが今回ばかりは逆だ!せいぜい足掻いてみろや化物共!」



 そう屍鬼に向かって叫べば、屍鬼の集団に向かって身を低くして駆け出す。



 運悪く一番先頭に居た屍鬼は下から振り抜かれた刃に真っ二つに切り裂かれ、男は刀を振った勢いに乗せて宙高く跳ぶと、次に近くに居た屍鬼に向かって繰り出した飛び蹴りは屍鬼の胸骨を砕き心臓を破壊する。更に仲間が殺されたところで、ようやく残りの屍鬼達は気づいた。



 この男は、自分達から逃げていたのではない。自分達を皆殺しにするために全員が集まるのを狙っていたのだと。



 しかし、屍鬼達はここで引くわけには行かなかった。退路が結界により塞げれているというのもあるが、廃病院は自分達の縄張りであるという矜持があるからだ。



 グール達は咆哮し、四方八方から男に向かって殺到する。



「いいね!場が温まってきたじゃねえか!これが戦いってやつだ!ロックンロール!」



 男は、手に持った刀をブーメランの様に投げつける。



 投げられた刀は回転しながら手近な屍鬼の胴体を真っ二つにし血と臓物を辺りに撒き散らすと男の手元に戻ってくる。刀の柄をキャッチすると戻ってきた勢いに任せてその場で一回転し三方向から襲いかかってきた屍鬼を両断する。



 男は刀を地面に突き刺し拳を体の前に出して構えると残った屍鬼たちに向かって一直線に向かっていく。1匹目、右ストレートで顔面を陥没させれられる。2匹目バックステップで爪による一撃を回避され、次の瞬間には一気に距離を詰められ左アッパーによって顎を砕かれ中を舞う。3匹目、左ローキックで膝を砕かれた体制を崩した所に右のハイキックで頭部を砕かれる。4匹目すばやく後ろに回ればジャーマンスープレックスで頭部を粉砕する。



 わずか10秒ほどで4匹の屍鬼を殺害した男が残った屍鬼の方に向き直る。



「チマチマやんのも面倒くせえ。そんなかにボスが居るんだろ?まとめて相手してやるからかかってこいよ」



 挑発するように指を動かす男に向かって、挑発されたと感じとったのか1匹の他の個体よりも力があるのか多少大柄な屍鬼が突っ込んでいく。



「力比べか、いいねぇ。・・・せえのっ!」



 肉同士がぶつかりあう音が聞こえたが男がその場から動く気配はなく



「こんなもんか・・・あの世で鍛えて出直してきなっ」



 屍鬼の首を小脇に抱え込めば一気に捻り頚椎を粉砕。その様子を見た残りの屍鬼はその場から逃げようとするが一際巨体の屍鬼がその頭を掴みトマトのように握りつぶす。



「お前がボスか、デカイな。今まで何人食ってんだ。まぁいい、俺相手に逃げないのは見上げた根性だな。その姿勢に敬意を表して、ちょっとだけ本気で遊んでやるよ」



 男が手招きすると残った屍鬼のボスは通常の屍鬼より一回り大きい巨体を震わせ、咆哮する。男は刀を鞘に収め身を低くすると



 「さあ来なバケモン、いざ尋常に勝負ってやつだ」



男がそう言うとボスはそれに答えるように吠えると、牙を向き男に向かって突進する。



 勝負は一瞬だった。ボスの爪が男の頭を掠める。男はボスの懐に潜り込むと



 「DANGERに行くぜ」



 一声の気合と共に、居合の要領で刀を抜けば1回、返す刀で2回、3回。「J」の形に屍鬼の体を切り裂く。そして体を反転させ終え振り抜いた刃に付着した血や臓物の欠片を刀を一振りし刀を鞘に収めると、地面に倒れ事切れたグールのボスを一瞥することなく男はその場を後にする。



 男は、バイクが止めてある場所まで移動すると耳につけた小型の通信機を起動させる。



 「こちら源治、報告にあった廃病院を拠点に悪さしている屍鬼の群れの抹殺完了」



通信を終え、バイクに跨がれば源治の携帯から某闘魂注入レスラーの入場テーマが流れる。着信元をみて一瞬嫌そうな顔をすれば



 「はい、こちら来々軒只今の時刻は出前を受け付けておりません。」



そう言って着信を切って改めてバイクのエンジンを掛けようとするとまた着信が鳴る。着信先を見て観念したように通話ボタンを押し



 「そう怒るなって、ちょっとしたジョークだろ。で、なんのようだ?・・・何?新入りの教育をしてほしい?だれがやるかっつーんだよ。・・・・それを言われると弱いな・・わかったよ引き受けてやる。ただし、教育の仕方は俺に一任させろ・・・ああ、明日の昼に家に顔出すように言っとけ。それじゃあ切るぞ」



男は通話を切ると苦虫を噛み潰したような顔で唾を地面に吐き捨てるとバイクのエンジンを掛け廃病院を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る