第10話

 少し話しただけで和也君は義父や義姉と違って、いたって普通の年相応の男の子だということがわかった。

 あの二人の無機質な雰囲気と違って、笑って話すし、こちらに気を遣う素振りも見せる。他人と接する時には当たり前の態度なのかもしれないけれど、勝手なイメージで全員がそういうものなのだと思ってしまっていた。

 離れだと言ってもここは和也君の家の一部なのにも関わらず、入ってきてからどこか行儀正しくいる、そんな子だった。


「姉ちゃんにはもう会った?」

「うん、最初に」

「どうだった?」

 僕がその「どうだった?」の意味を掴めずにいると、

「あんな感じだけど、全然悪い人じゃないから安心して」と和也君は言った。

「別に悪い人だとは思わなかったよ、ただ……」

 僕は義姉の夏樹の顔を思い出す。顔と言っても前髪でほとんど見えなかった、あの姿。

「……不思議な感じの子だったね」

「どういうこと?」

 僕にもその不思議に感じた意味はよくわかっていなかった。ただ、あの佇まいはどこか落ち着いていて、無感情でまるで隕石症候群患者に近い、そんな感じだった。


 僕が返事をしないでいると、「そういえばさ」と和也君が切り出した。

「近所に義兄ちゃんと同い年で、姉ちゃんの友達の男の子が住んでるんだ。会いに行こうよ!」

「義兄ちゃん……?」

 和也君は、はっと口を押さえて、

「義兄ちゃんって呼んじゃ不味かったかな……」

 僕は何だか照れ臭くなって、頭をかきながら「別に、いいけど……」と言った。

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枯葉と雪 けんじろう @toyoken

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