第9話

 義父が出ていってから、僕はあらためて今後自分が暮らすこの部屋を見渡してみた。外の空はあれだけ広大なのに、この中は施設よりもむしろどこか無機質な雰囲気だった。

 施設の人が僕が養子に行くのは反対だと言っていたのを思い出す。

 疲れたな、と僕は思った。朝の早い時間に施設を出たのに、この家に着いたのは結局夕方近くだった。


 少し寒いな、と思った。この部屋にはエアコンも準備してあって、食事さえあれば本当になに不自由なく暮らせそうだった。

 僕はエアコンの暖房ボタンを押してからベッドに横になった。今は十二月。隕石の災害から三か月が経とうとしていた。まだ、三か月だった。今まで過ごしてきた時間の中で、一番色々なことを考えて、一番苦しんだ時間だった。だから、楽しい時間よりもよっぽど濃密で、この分、「僕たち」は壊れてしまった。


 横になっていると、うとうとと、まどろんでくる。とにかく今は眠ろう。そう思った矢先、ドアをノックする音が聞こえた。

 義父かな、と思い慌てて立ち上がり、ドアを開けると目の前に立っていたのは、僕よりいくつか年下と思われる男の子だった。

「あの、純さん、ですか?」

 僕は名前を呼ばれて「うん」と返事をすると、男の子は自分の名前は「和也」だ、と名乗った。話に聞いていた義弟らしかった。

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