第8話
一通り、義父に家の中を案内してもらった。ここがトイレ、ここがリビング、と言ったように事務的な様子はここでも変わらなかった。
さっき、義姉が二階に上がっていったように、上の階が子供部屋になっていた。てっきり僕もこの階に自分の部屋があるのかと思っていたが、義父は僕を外に案内した。
この母屋の裏には正面から見えなかった平屋の「離れ」が一棟立っていた。
「ここが、君の部屋だ」
そう言って義父はドアを開けると、離れの中はそこそこ広く、ベッドやトイレ、テレビに洗面所があって一通りの生活がこの中だけでできるようになっていた。
また特徴的だったのは壁一面に並べられた大きな本棚たちだった。中にはぎっしりと本が詰まっていて、一体何冊あるのかとても数えきれないほどだ。
「ここは、昔私が仕事部屋として使っていた部屋だ。今は母屋を増築したから、ここは使っていない」
義父は靴のまま部屋に入って本の背表紙を指で撫でる。
「隕石症候群の患者には読書も有効だという。物語療法と言うものだ」
僕も靴を脱いで、義父のあとに着いていくようにして、本の背表紙にざっと目を通した。もともと本を読んでこなかったのもあるが、ほとんど知らない題名だった。
「本を読むのは嫌いか?」
「どちらでも……ありません」
ふぅ、と義父はため息をついてから、
「どちらにせよ、君はこの部屋で過ごすことになる。食事や入浴の時は母屋に来て、あとはこの部屋にずっといればいい」
「あの、学校とか、行かなくていいんですか」
僕の年齢であれば、本来中学校に通っているはずだった。それを聞いて義父はむっとした顔を見せて、
「いいから君はこの部屋にいればいいんだ」
と、淡々とした調子は崩さなくても、明らかに語気を強めて僕に言ってきたから「わかりました」と返事をするしかなかった。
まるで、虫かごみたいだな、と思った。
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