第3話
僕はあのあと、養子の話を受け入れた。
施設の人は最後まで反対していた。この人の目的はあなたを「隕石症候群治療薬」の実験台にしたいだけなんじゃないか、と言って。
けれど、僕にとっては施設にいても、実験台にされても、どちらも大して変わらないと思ったからその話を受け入れた。
あの自殺をした名前もよく知らない隣の部屋にいたお姉さん。カラッとした性格で、施設にいる人にしては珍しく社交的な人だった。
そんなあの人がたまに「今よりも何か楽しくなる気がしない」というようなニュアンスのことを言葉を変えて何度か言っていた。
あの人は僕にとって、きっと大切な人に分類される存在だったと思う。「思う」というのは確信が持てないからだ。
普通、大切な人が亡くなったら涙のひとつ出てもおかしくない。けれど、僕には涙どころか「悲しい」とか「寂しい」という感情が少しもなかった。
「感情の著しい欠落」。それが僕たち隕石症候群患者に見られる症状だった。あの比較的明るい性格だったお姉さんも、内心ずっとこの症状に苦しんでいたのだと思う。
だからこそ、今より楽しくなる気がしないという言葉が出たのだ。楽しいも悲しいもなければ、僕たちの見る景色はどこにいたって何も代わり映えはしない。
それで僕は養子の話を受け入れたのだ。何も変わらないなら断る理由がない。
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