第2話
この施設は国が運営していて、僕たちは一切お金を払っていない。正確に言えば、大人たちは軽作業とはいっても働いているから、わずかながらそれが資金の足しにはなっているのかもしれない。
世間では僕たちのことを「税金泥棒」だとか言う人がいると、誰かが教えてくれた。誰か。その誰かはあの自殺をしたお姉さんだったかもしれない。だって僕はあのお姉さんと、施設の人としか話していないのだから。
「ねぇ、純君」
僕は施設の女性に呼ばれ、個室に入った。部屋には机とパイプ椅子があって、僕はうながされて、それに座った。
「実はね、あなたのことを養子にもらいたいって人がいるの」
「養子……?」
ええ、と言って施設の人は一枚の写真を取り出した。目付きが鋭いわけでもないのに、どこか表情に威圧感のある、そんな男性が写っていた。
「この人に会ったことはある?」
「いえ……」
「あなたのお父さんの友人だった、って言ってるの。御木本大輔さん」
ミキモトダイスケ。どこかで聞いたことがあるような気がしたが、その顔にはやっぱり見覚えはなかった。父さんの友人……。
「何となく名前、聞いたことあるような気がしますが、よくわかりません……」
はぁ、と施設の人は大きくため息をついて、「やっぱり」と言った。
「あのね、私、正直この話はあなたに勧められないの。この御木本大輔さんは」
僕は施設の人が話している中、いつか見たニュース番組を思い出していた。
ミキモトダイスケ……研究者……隕石症候群……治療薬……。
「あなたたちの病気の治療薬を作っている、研究者なの」
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