枯葉と雪

けんじろう

第1話

 空を見上げるのが怖かった。けれど目の前の景色を見たからって何かがあるわけじゃない。だから僕は地面を、じっと見つめて過ごすのが好きだ。


 この施設で暮らすようになってからもう1か月は経つ。最初こそ多くの人と一緒に暮らす共同生活に慣れなかったけど、今では何も気にならなくなった。きっと僕以外の人たちも同じような気持ちなのだろう。


 昨日、隣の部屋のよく僕のことをかまってくれた年上の女性が自殺をしたと聞いた。20歳だったらしい。僕より8つも年上だ。それでもまだまだ若い。


 自殺の方法は屋上からの飛び降り自殺だったらしい。屋上への扉は厳重に閉められているはずなのに、どこから忍び込んだのか、それとも誰かが鍵を閉め忘れたのか。


 いずれにしても自殺志願者はどんな手段を取っても自殺を実行するだろう。この施設に入ってから、もう何人が自殺をしたっけ……。僕は途中で数えるのを止めてしまった。


 施設の生活は何も不自由はなかった。三食暖かいご飯は出るし、施設のスタッフの人たちも僕たちにとても優しい。僕のような年代の子供たちは簡単な授業を受けて、大人は何か軽作業をして働く。施設外にいた時より、人によってはもしかすると充実した生活。


 それでも僕たちの中から自殺する人が絶えないのは根本的な解決にはなっていないからだと思う。


「純君は将来何になりたいの?」

 施設の人が何気なく聞いたことに僕は、

「わかりません」

 と答えることしかできなかった。

 その時、僕は自殺した人たちの気持ちがわかったように思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る