眠り

今までに見て来た街や住んでいた場所、旅路で美味しかった食べ物、面白い生き物などと他愛もない話に交え、母との思い出を語る。


ボーン・ボーンと時計が10回音を奏でた。

すると、今まで黙って聞いていたスヴェンが口を開いた。


「もうこんな時間か。旅で疲れただろうし、子供は寝る時間だな。隣に客間がある。そこを使いなさい。・・・飲み物をもう一杯注いでやるから、のどを潤したら寝るんだよ」


どうやら夜も深まってきたようで、外は重苦しい雲から白い綿がひっきりなしに落ちている。


長く話したことで口は乾いていた。

飲み物でホッと一息つくと、余計なことを言ったなどと後悔も浮かぶ。


モヤがかかったように頭が重くなった気がする。

眠くて動けなくなる前に移動しなければ危ないかもしれない。


「飲み物を戴いたら移動します。これ以上の長居は迷惑でしょうし、砦の外に宿だってありますよね。そっちに泊まります」

「村には、宿屋はないんだ。だから客人は体外、隣の客間に泊まる」

「・・・そうなんですね。では、一晩おじゃまします」


普段なら、会ったばかりの人間に身の上や宿を借りることはないが、スヴェンの人柄のせいか、眠いのも相まって、少し心を許してしまっているようだ。


きっと祖父というものがいたら、スヴェンのような人間なのだろうかなどと有りもしない空想をしてしまう。


「一晩と言わずに、ずっと居てくれたらうれしいんだが。私の意見を押し付けてはいけないね。明日のことは、また明日決めよう」


口ごもるように何かを言ったスヴェンに客室を案内され、疲れのままにフラフラとベッドに乗ると、毛布を掛けてくれた。


おやすみという優しい言葉を頭の片隅で聞きながら、旅の疲れからぐっすりと夢の世界へ堕ちて行った。



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