回想

「ここから遠く・・・。ほら、あの動かない星があるでしょ。あれを頼りに歩いて行った先に【幸い】があるんですって」


屋根裏の窓から見える動かない星。

それを荒れた指で示しながら、母は遠くにある土地に思いを馳せる。


「うそだー。そんなの、うそにきまってるよ」

「あら、見てもないのに決めつけちゃダメよ。そうねぇ、信じなくてもいいわ。お母さんは信じるけどね。私は、いつかあそこに行きたいの」

「・・・おかあさんが、しんじるなら、ボクもしんじる。じゃあ、ボクが、おおきくなったら、そこにつれていってあげる」

「ふふ。じゃあ心待ちにしているわ」

「うん。すぐおおきくなるからね」


争いもなく、素晴らしい場所があるという抽象的な事しか知らなかった。

それでも、この華やかな国の底辺にいる親子は、旅人から聞いた【幸い】の国に焦れた。


遠い日の優しい約束。

誓った相手は、搾取され続け、小さくなって首にかかって共に旅をしている。

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