1-1-3 this power is "Emperor"

「Triggerの引き方、つまり帝の"Emperor"の使い方を教えてあげるよ。」


 No Nameは男へ左手を向けた。


「と言ってもね、的確な方法は無いんだ。Triggerなんて結局は幻想、イメージ、妄想、言わば2次元の産物にしか過ぎなかった。そうした物が作り出されるのはいつの時代も人の深層心理だったんだ。」


「……僕にTriggerなんて無いんだ。」


「あるとも、帝にもね、仮だけど俺が授けた。基盤は俺の"No Name"と一緒なはずだから……自分の体を強くすることが帝の能力さ。守りたい物を想像して、守る為に必要な力を想像して、正義を執行しよう。」


 帝はそっと瞳を閉じた。


 そうだ、僕には守るべきものがある。一二三がいる、神楽さんだって……生きてるかもしれない。


 希望は捨てない、拾える物は全て拾う、救える物は全て救う。それが神楽さんの教えだろ。


 帝はゆっくりと瞳を開き、その目には確かな熱を持っていた。


「……茶番劇はおしまいかい?……あいにくだけどね、宗教地味たやつとショタ以外の男はお断りなんだよっ!!」


 男はNo Nameに拳を振るう。


 No Nameへ一直線に伸びた拳は、届くこと無く帝の手のひらで受け止められた。


「……"Emperor"」


 青い光が右手から溢れ出す。光だけでなく、確かな力もそこにあると帝は確信した。


「ッ!!」


 帝は男の腕を掴み、そのまま体を半回転させて男を壁に叩きつける。


 そのまま男をボロ雑巾のように壁に打ち付け続ける。


「ッ!!ーーーーっはぁ!!……馬鹿げた怪力だねキミは……!!」


 男は帝になされるままで挑発を続けた。


「耳を傾けてはいけないよ帝。彼は罪人、罪を背負うのに口なんて無必要なんだ。無いものに意識を割かないでいい。」


「……お前の声、耳にクるな。」


 帝は打ち付けるのを止め、今度は足に力を集中させた。


「"Emperor"……多分120%。」


 思い切り振り上げられた足は男の首を確かに捉え、へし折った。











「……一二三?」


 青白く、冷めきった肌をそっと撫でる。


「なぁ……一二三……答えてくれよ。」


 一二三の傍に捨てられた、嫌悪感溢れる道具達が帝をかき乱す。


「な……なぁ、僕、やっとTriggerを手に入れたんだよ……もう……一二三に笑われないで済むんだよ……守ってやれるんだよ。なぁ……」


 糸が切れた人形は……動かない。


 一二三の手を強く握りしめる。しかし、何の反応もしめしてはくれない。


「すまない、帝。こっちも手遅れのようだ……」


 No Nameは神楽さんの手首に手を触れながら、ゆっくりと呟いた。


「じきに安全装置Safetyがやってくる、いいかい?全て俺がやったと答えるんだ、何を聞かれてもだよ?……もちろん、2人のことはそのまま素直に答えておいて欲しい。そして、忘れないで。」


 No Nameは僕の手を握った。


 布で覆われたその顔から表情を伺うことは出来ない。


「守ることは叶わなかった。手から零れる砂はもう拾えない。帝の手は今は空っぽかもしれない。だけど、帝みたいな、こんな酷い仕打ちを受ける人が増えてはいけない……Triggerの引き方を誤る者達への制裁の為に、どうか今日という日を忘れないで。」


 No Nameは背中に大きな翼を広げた。


 真っ黒な翼がNo Nameの体を包み込み、部屋の影へと消えていく。


「そう遠くないうちに、また会いに来るから。」


 一言言い残し、彼は姿を消した。















 騒ぎを聞きつけた近隣住民の通報によって、あの後すぐに安全装置Safetyが家にやってきた。


 僕は言われた通り、男をやったのは白い布を頭に巻いた男だと答えた。


 そしてしばらくして2人の死を知らされた。

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