1-2-1 Rain of heart
暗い部屋の外で、大粒の雨が扉を激しく叩く。
物音1つしない空間で、帝は静かに俯いていた。
隣では手足が異常に長く、それでいて素肌を一切外気に晒さないように黒いスーツを身に纏うNo Nameが本を読んでいた。
「……今日来たのは帝の看病と、少しお願いをしにね。」
No Nameはゆっくりと本の頁を捲る。
その音はやけに重々しく、帝の脳裏にこびりつく。
「もうすぐ……誰かが"Trigger"を誤る。帝にはそれを止めるのを手伝って欲しい。」
帝は黙ったまま、窓に目をやった。
雨雲に覆われた空はこの部屋の空気そのものと言えるだろう。
「……僕が"Trigger"でそれを止める……けどそれって僕じゃなくてもいいんだろ?」
「そんなこと……どうしてそう思うんだい?」
「お前は、No Nameは、今まで何人の罪人ってやつに正義を執行して来たんだよ。その数だけ僕みたいな執行の証人が居るはずだろ。」
帝は自分の右手にぐっと力を込める。
今までとは違う感覚、それを現すように右手には青い光がぼんやりと放っていた。
「……No Nameの言葉に返すとしたら、僕には守る物なんて無い。この力は誰か守る為にはもう使えないじゃないか……結局、アイツと同じ、罪人になるんだよ。」
「帝に直接関係無いにしろ、確かに誰かを守る事は出来るんだ。帝を罪人になんて俺がさせやしない……それに、次の相手は俺だけじゃ無理かもしれないんだ。」
帝はゆっくりと顔を上げた。
眼前には相変わらず包帯で顔を隠したNo Nameが佇んでいた。
「確かに帝の言う通り、あと5人の証人達がいる。その中で頼れるのは2人、帝ともう1人の証人だけなんだ。」
「……じゃあ、そのもう1人に頼めばいいじゃないか。」
帝は吐き捨てるようにして布団に潜る。
「そうか、理由が欲しいんだね帝は。」
No Nameは優しく帝を撫でた。
「助けが欲しいのは本当なんだ。それに、助けが多いに越したことは無くてね。勿論、帝が関係している証拠だとかそういった物は全て残さない。」
No Nameは本を閉じた。
スーツの胸ポケットにそれをしまい、ゆっくりと背中から黒い手を出す。
「……返事を急ぐ訳ではないんだ。帝が大丈夫な時に、俺を助けてくれたらいい。」
黒い手が肥大化していき、そのままNo Nameを丸ごと飲み込み、姿を消した。
「……どうしたらいいんだよ……何も無いのに、お前に利用されて、僕は何を拾えば…………」
"拾える物は全て拾うの、助けられる人はみんな助けるの。"
"だから……どうしてなんて言わないで、ね?"
帝の頭に響く声。
その声に帝は、静かに涙を流していた。
「……ふーん……それじゃ来るかも分からないのね。」
「いいや、きっと来てくれる。あの子の呪縛の元はそこにあるんだからね。」
都市伝説、それの1つであるスレンダーマンと揶揄される男が本の頁を捲る。
その音は彼女の脳裏に酷くこびりつく。
「不愉快ねほんと、その本。」
「そんなこと言わないでくれよ、俺のお気に入りなんだからさ。」
「そもそもアンタ、そんなんで本読めてるの?」
「案外見えるよ?やってみるかい?」
彼女は悩む素振りもなく首を横に振る。
「……理解出来ないね、アタシを助けたってのがアンタってことも、何もかも。」
「あたりまえさ……それが呪縛の元なんだから。」
No Nameは本を閉じ、布越しにグラスを傾けた。
"なんでこんな事も分かんねぇんだよ!!"
"この約立たずがっ!!"
「……不愉快だね、辞書にでも載せてくれなよ。」
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