三月十八日

 十二時三十分頃、私の保険会社の担当者から電話が入った。

「相手の保険会社が直接連絡してきた。どうやら過失割合のことらしい」

 そう言われたので、私は自分の担当者に当日の出来事を再度伝える。

 そして、

「最初に『なんでそんなところにいるんだ』と言ったり、謝罪もしなかったりで、今回の件は私も相当に憤っています。ですから、過失は一切認められません」

と付け加えた。


 *


 午後八時過ぎに、相手の保険会社の担当者から電話があった。

 当日の状況を確認したいと言ってきたので、同じ話を繰り返す。


 それを聞いた上で、担当者はこう言った。

「店舗の駐車場が一箇所しか空いていなかったので、そこに停めようと思ったそうです。ですから、そこにバックすることは明らかだったのではないでしょうか」

 これは事実ではないので、私は訂正した。

「少なくとも私の隣に三台分のスペースがありました。確かに一番相手の車に近いスペースに停車しようとはされていましたが、そこしか空いていなかった、は間違いです。現に私も事故後に二つ隣に停車しましたし、事故後から私が駐車場に車を入れるまでの間は、そこに車はありませんでした。だから、すくなくとも三台分以上のスペースは空いていましたよ」


 すると今度は、

「車間距離が近かったと聞いておりますが」

 と言われたので、私は即座に回答する。

「それは事実ですが、車間距離が近すぎるとしたら、相手の車のバンパーは私の車のバンパーの中央部分に当っていたはずです。相手の車の後方右側側面と、私の車の前方左側前面が当ったわけですから、それなりの空間が空いていたことが分かるはずですが」


 その点は確認するとした上で、さらにこう言われた。

「前の車が左によって停車したのですから、駐車する可能性に気がつくことができたのではありませんか。だからそちらにも過失があるのではないかと思ったのですが」

 その質問に対して、私はこう答えた。

「最初に頭を右側に振ったのであれば、分かります。狭い道で左側に寄せてからバックして左側の駐車場に停車するのは、普通ではないと思いますが」


 さらに担当者が加える。

「後ろから車が来ていたのは分かっていたそうですが、まさかそこまで接近しているとは思ってもいなかったそうです」

 私も反論を加えた。

「それでは警官に説明した内容と食い違っていますよ。大丈夫だと思ってバックしたと証言していますから」


 まあ、相手の保険会社の担当者の立場も分からないわけではないし、非常に親切な口調だったので、交渉相手として不満があるわけでもない。

 しかし、さすがに論理が無茶苦茶である。

 最後に、

「過失の有無について、ご相談はできませんか?」

 と言われたので、こう答えた。

「論外です。相手がまず謝罪していたのであれば考えようもありますが、説明した通りの状態だったので、こちらとしては全く考慮できません。ただ、修理工場のご紹介はお受けできますし、修理内容にも基本的には同意します。それに、合理的に過失割合を説明していただければ、それに合意することはできます。ただ、現時点では感情的に受け入れがたい、というのが本音です」


 相手の担当者は、

「分かりました。それでは相手の方に再度確認いたします」

と言って、電話を切った。


 なんだか空しさだけが盛大に残った。

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