第6話 3回目

「お、今回は素直に来たか。えらい、えらい」

 そう言って頭を撫でてくるのを、すっと避ける。最近家にいても二人の話し声が聞こえて本に集中できない。なら、この先生の所に来た方がマシかななんて思った。ただそれだけだ。他にやることもないし。


「今日は、お互いに褒めちぎってみようと思うんだ」

「はぁ」

「アレだな。『ねぇ、私のどこが好き』『それはな……』みたいなベタなやつ」

「先生の良い所なんて、数回会っただけじゃ分かりません」

「もっと会いたいか。そうか。カウンセリングの回数を増や……」

「結構です」

 俺の彼女はつれないなぁ、なんて嘘泣きしている先生は無視する。

「で、挙げていってどうするんですか」

「それだけだな」

「意味、無いんですか」

「ノープランだからな」

 はっはっは、っと自慢げに言われても。まぁ、良いか。


「なら、俺からな」

 ずいっと手を握られ、近づかれる。

「近いです」

「そうか。普通だろう」

 貴方の普通は普通じゃないですと、心の中だけで思っておく。

「月城は、まず可愛い」

「どこがですか」

「ツンデレな所とか?」

「ツンデレじゃないです」

 ぐぐっと押し返してみるけど、手は離れない。

「確かに、デレがもっと欲しいところだな。マイハニー」

「誰がハニーですか」

「あとは……とても努力家だ。毎回メモを取っているだろう」

 気づいてたんだ。まぁ、やるからにはと思ってメモを取っているんだけど、今の所メモすることはあまりないんだけど。

「前向きだし」

「……」

「何にでも一生懸命だ。それに……」

「なんですか」

「優しい」

 すっと、頬に手を添えられる。壊れ物を扱うようなその手に、まるで本当に彼氏が彼女に対してするような手つきだななんて思う。けれど、彼はあくまで「先生」で「ごっこ」なんだ。

「……少し会っただけで、先生は私の何を知ってるって言うんですか」

「……知ってるさ。だって……」

 すっ、と頬に再び添えられた手。私を見つめる眼差しは、いつもと違い悲しげに揺れている。

「し、失礼します」

 ばたん、とドアを閉じる。何なんだろう。私はおかしくなってしまったのかな。


 先生に触れられると、恥ずかしくて。胸が苦しくて。でも、嫌じゃない。……こんな自分は、知らない。


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