第4話 2回目

「……はぁ」

 2回目は無いと思っていた。けれど、成瀬先生から何度も着信と留守電が入っていて、やめてもらおうと思って直接心療内科へと来た。


「失礼します」

 名前を呼ばれてドアを開けると

「なんで電話に出ないんだよ。つれないなぁ」

 と、明らかに見え見えの態度でため息をつかれた。

「電話も留守電も、やめてください」

 そうハッキリ言っても

「本当は嬉しいくせに」

 と、ニヤニヤ顔で言われた。つっこむのも面倒くさくなって、席へ黙って腰掛ける。


「今日は……デートをしようと思って」

「はぁ」

「もっとテンション上げていこうな」

「上がりませんね」

 ツンデレちゃんかな、なんてふざけてる先生の呟きは聞こえなかったことにする。


「とはいっても、この部屋だけになるけどな」

「そうですか」

 さっさと終えて、早く帰りたい。

「とりあえず、そこに座れ」

 指さされたのは、やっと二人で座れるくらいのベンチ。拒否しても時間が無駄に過ぎるだけなので、さっさと座る。

「なんだ、やけに素直じゃないか」

 そう言いながら、肩に手を回して隣に座ろうとするので、すっと手をどかす。


「まずは……そうだなぁ」

 すっ、と私の手に先生の手が重なる。少し骨ばった一回り大きな手に、包み込まれる。

「どうだ」

「どうだ、と言われても」

 手を繋ぐのなんて、幼稚園以来だななんて感想しかない。

「そうか……。こうすれば少しは思い出してくれるんじゃないかと思ったんだが」

 彼の表情が少し曇った気がするけれど、それは一瞬で。すぐにいつものだらしない笑顔に戻る。

「まぁ、そう簡単にはいかないよな」

 ……なんだろう。いつもはぐらかしてばかりの先生の本音が垣間見えた気がして、思わず手をぎゅっと握り返す。


「泣かないで、ください」

「……は?」

「何だか先生、泣きそうだったから」

 そう言ったら、先生が驚いたような顔をする。その後、いつもと違った。泣きそうだけどふっと笑う。


「やっぱり『月城』は『月城』のままなんだな」

 それが愛おしい人に向けるような笑顔に見えて、心臓がぎゅっと苦しくなる。……なんだろう、これ。

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