第2話 主役にはなれなくても...
朝、少し早めにセットした目覚ましのアラームを止め、いつも通りまた布団に潜り込んで二度寝をー−−−−−
なんてできることもなく布団から飛び起きる。
部屋のカーテンと窓を開け、雀の鳴き声を聞きながら朝日を浴びて「よしっ!」と意気込む。
いつもより少し早めに起きたことには1つの理由がある。
そう、昨日空桜に言われたアドバイスをしてみようと思ったからだ。
制服を少し可愛くみえるように着て、身支度をしてから鏡の前に立つ。
「ちょっと前髪目にかかってきてるから切ろうかな?」
髪を整え、ハサミを手に持ち前髪を綺麗に切ろうと、鏡とにらめっこをしながら丁寧に整えていく。
「もうちょっと、もうちょっとだけこっちを切って...」
震えてしまう手で前髪を切りすぎないように細心の注意をしながら少しずつ切っていく。
「...よし!できたぁ!!」
なんとか切りすぎることもなく丁度いい感じに切ることができた。
仕上げに、星形に小さな星空が描かれたピンを付けて完成!!
いつもよりちょっと違う自分を見て、鏡の前でポーズをとったりドヤ顔をしてみせる。
準備は完璧!後は朝ごはんを食べて学校に行くだけー−−なんだけど...
「一ノ瀬くん、気付いてくれるかな?」
一ノ瀬くんが気付いてくれることへの期待は半分、でもそんな想像は頭の中で考えてみては煙のように消えてしまう。
せめて私の気付いてっ!ていう心の声だけは聞こえてしまわないように口元を手で隠す。
「さて、学校に行かなきゃ!今日はいつもより早く起きたんだし、少しゆっくりしても大丈夫でs」
笑顔で時計を見ると私の言葉は途中で止まった。
只今の時刻、8:00
学校の教室にいなければいけない時間は8:30
今からご飯を食べたりすると5分はかかる
そうすると残り25分で教室につかなければならない
家から学校まで歩いて約35分
そこまで計算するのに約0.5秒
私は笑顔で固まった
次の瞬間ー−−−−
「遅刻しちゃうぅぅぅう!!!!」
大声でそう叫ぶやいなや、バタバタと自室に戻り本日授業のある教科書やら必要なものやらを鞄の中に押し込んでから、また階段をバタバタと駆け下りる。
駆け下りながら私は、(おかしいな?今日は6:30に起きたはずなんだけどな~、いったい何時間前髪を切ってたんだろう?)と考えてた。
そんなことを考えていたせいで、途中でこけそうになったがなんとか踏ん張り台所へ向かう。
「遅いわよひより!今日は朝早くから起きていたのにどうしてこんなに遅くなるの?!」
「ご、ごめんなさいお母さん...それより時間ないからパンだけでいい...うわ!もうこんな時間!」
鞄の中に教科書などをいれる時間を考えてなかった...
もうすでに5分たっていた。
「ひよりが準備に時間がかかるから悪いのよ」
はい、ぐうの言葉も出ません...
私はパンを片手に玄関へと駈け出す
「いってきまーす!!」
「いってらっしゃい!気を付けて行くのよ〜!」
お母さんへの返事もそこそこに、私は学校までの道のりを転びそうになりながら走っていった。
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こ、こんなに全速力で走ったのは久しぶりだ...
昇降口で靴を履き替えながら、乱れた呼吸を整えようとするが中々整わない、それもそのはず
只今の時刻は8:25
普通は35分かかるところ、ものの20分で学校に着いてしまったからだ。
これには自分でもびっくりしてます
「あ、教室に行かなきゃ」
やっと呼吸が整ったので、1−6の教室へと向かおうと、教室へと続く廊下を歩き出した。
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1−6の教室前で、乱れた髪を整える
深呼吸を2回繰り返し、「よしっ!」と意気込んで教室の扉に手をかける
祈るように瞳を閉じて手を引くと、扉がカラッと滑るような感触
瞳を開けて満面の笑みでー−−−−−
「おはy」「うわぁー!すごく可愛いー!」
私の声がクラスの女子の声にかき消された...
そんな悲しいことってある?!
私の心が折れそうになるのを必死に耐えて、先程私の声をかき消してくれた女子に何があったのかを聞く。
「どうしたの?」
「あ、ひよりちゃん!見てみて!空桜ちゃん!!」
え?空桜がどうかしたのかな?
私は空桜がいるであろう場所に目を向けると、空桜はクラスのみんなにかこまれていた。
何があったのかと思い、クラスの人達をかき分けて空桜のところに行くと、私の目は見開かれた。
「え、空桜?!」
声をかけると空桜は「あ、ひよ〜!」と私のところに駆け寄ってきた
「ひよ、前髪切ったんだね!それに前一緒に買い物に行った時に買ったピンも付けてきてて、前よりもすごく可愛くなってる〜!」
と言いながら私に抱きついてきた
しかし、私はそんなことより目の前の空桜が昨日とは全く違う姿になっていたことに混乱した
「え、空桜だよね?どうしたの、その姿!」
空桜は今まで学校にしてきていた三つ編みではなく、フワッと緩く巻かれた髪を横で結んで花飾りを付けていて、メガネではなくコンタクトに変わっていた
見る人を魅了してしまうその姿は、まさに美少女そのものだった
「ひよと同じくちょっとイメチェンしてみようかな〜と想ってね」
フワッと笑ってそう答えた空桜は、綺麗な天使に見えた
いや可愛すぎかよ!!
言葉を失って突っ立っている私に不安を感じたのか「変かな?」と聞いてきて、私は我に返った
「そんなことないよ!むしろめっっっちゃくちゃ可愛くなっててびっくりした!」
その言葉を聞いて、空桜は「良かった〜!」と安心していた
他の人に話しかけられている空桜を横目で見ながら私は席についた
ふと窓を見ると、そこには綺麗な青空と綿菓子のような雲が浮かんでいる
そんな空を見つめながら、私は小さくため息をついた
「...やっぱり、主役になんてなれないか」
どうせ誰にも聞こえないだろうと思い、つい心の声がポロッと漏れてしまった
しかし、その心の声をしっかりと聞いていた人が、私の机まで来て話しかけてきた
「誰が主役になれないって?」
その声の持ち主が誰なのかがわかって、私は驚いて机の前にいる人物を振り返った
「い、一ノ瀬くん!」
そう言うと一ノ瀬くんは「おはよ、綾瀬!」と笑顔で挨拶をしてくれたので、私も「おはよ〜!」と微笑んで挨拶を返した
「で?誰が主役になれないの?」
「ふぇ?!」
一ノ瀬くんからそんな質問が飛んできたので、私はさっきの心の声が聞かれてたことに気付いて顔がじわじわと赤くなっていくのがわかった
赤くなった顔を隠そうと、とっさに机の上にあった学級日誌で顔を隠すけど、不自然だったから顔が赤いのバレたかな?
そんなことを考えながら、一ノ瀬くんからの質問に「何でもないっ、何でもないよ!」と答える
一ノ瀬くんは「ふーん?」と言いながら、私の手から学級日誌を取り上げる
学級日誌がなくなったことで顔を隠すものがなくなり、一ノ瀬くんに赤くなった顔をまじまじと見られる
ただでさえ好きな人と目が合うだけで心臓バクバクなのに、そんなに見つめられると心臓爆発しそうだよー−−−−−
「い、一ノ瀬くん?」
声をかけてみたものの、一ノ瀬くんからは「んー?」という声しか返ってこなかった
私は手で顔を隠すこともできずにただただ一ノ瀬くんを見上げるしかなかった
数秒私の顔を見た一ノ瀬くんは、何かに気付いたのか「あっ!」と声を上げる
その声にびっくりして、私の心臓は飛び跳ねた
もしかして前髪切ってピンをつけたこと、気付いてくれたのかな?
次に言われる言葉に期待している自分がいるー−−−−−
「そういえば、今日古典の時間に小テストするって言ってたよ!」
「え?そうなの?!やばい、勉強しなきゃ!」
って、そうじゃないよ!いやそれを教えてくれたのはありがたいけど、そうじゃないんだよ!!
涙ぐみそうなのを必死に耐えて小テストの勉強をいそいそと始めようとするとー−−−−−
「綾瀬、やっぱり前髪切ったよね?」
なんと、一ノ瀬くんからのかいしんのいちげき!効果は抜群のようだ!
私に10000のダメージが入った!!
「一ノ瀬くんっ!不意打ちは酷いよ!」
酷いと言いながらも私の顔はニヤけてしまう
「?不意打ち??」
一ノ瀬くんには分かっていなかったようなので「なんでもないよ!それより良く気が付いたね!!」と言って紛らわした
「そりゃ気付くよ、だって前髪切って、前より可愛くなってるし」
「んなぁ!!」
またまた一ノ瀬くんからのかいしんのいちげき!効果はもちろん抜群だ!私に10000のダメージが入った!!
私はもうすでに瀕死状態だ
「ありがとう!!」
満面の笑顔でなんとかそう言うと、一ノ瀬くんも笑顔で「うん」と言ってくれた
その後、担任の先生が入ってきたので、一ノ瀬くんは学級日誌を私に渡して「また後で」と言って手を振ってくれた
学級日誌を受け取り、私も「また後で」と言って手を振り返した。
朝のHRは夢見心地で受けていた
から、連絡事項なんて全く耳に入ってこない
一ノ瀬くんが私の小さな変化に気付いてくれたことがとても嬉しかったからだ。
「よし、明日からも頑張ろう!」
私のノートの端っこに書かれた落書き、その言葉は『フレーフレーひよりの恋!』
多分空桜が勝手に書いた落書きなんだろうけど、今はその落書きの言葉に背中を押されてるような、そんな気がした。
かいしんのいちげき! 未桜 @miou_0415
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