第1話 準備はOK?
帰りのHRが終わり、教室が一気に騒がしくなった。
私は鞄を肩にかけると一緒に帰れそうな人がいないかと思い、教室をぐるりと見回してから一人の親友に駆け寄った。
「空桜、一緒に帰ろ!」
「あ、ひよ!うん、良いよ。」
そう言って、空桜は鞄を肩にかけると私と一緒に歩き出した。
昇降口では多くの人が集まっていて、部活に行く人や帰る人やで賑わっていた。
「あちゃー、この人だかりだと外に出るまでに結構かかるかもね。」
「だね、この学校人数が多いから学年ごとに昇降口の場所分ければいいのにね。」
私は苦笑しながらそう言うと、空桜も「本当だよー」と苦笑しながら呟いた。
そんな風に、他愛もない話をして時間を潰していると、ふと顔を上げた空桜が「あっ、ひよ見て!」と急に声を出した。
何かと思い、空桜が見ているであろう場所に目を向けると私は「あっ...」と声を出してしまった。
「一ノ瀬くん...」
人混みの中でも目に入る二人組。
その二人のうち一人の名前を、私は無意識のうちに呼んでいた。
一ノ瀬要くん、私の初恋の人。
二人の友達と楽しそうに話していて、時折可笑しそうに笑う一ノ瀬くんの笑顔を見ていると、胸が暖かくなるような締め付けられるような感覚がした。
「やっぱり一ノ瀬くんのこと、好きだなぁ〜」
そんなことをポツリと呟いた。小さな声で呟いたはずなのに、空桜にはしっかりと聞こえてたみたい。
「そんなに好きなら告白すればいいのに〜」
無意識のうちに一ノ瀬くんのことを見ていると空桜からそんな爆弾発言を言われて、私は我に返りながら空桜に振り向いて「えぇっ!!」と声を張り上げた。
「ちょっ!ひよ声でかい!」
思いの外私の声が大きかったらしく、数人の視線が刺さった。
「うっ...ごめんなさい」
ショボーンとしてると誰かの視線を感じたので顔を上げてみると一ノ瀬くんと目があってしまった。
「!?」
私は驚いてそのままフリーズしてしまったが、一ノ瀬くんはこちらを見たままだった。
(もしかしてさっき大声あげてたの見られてた?!)
そう思うと同時に、恥ずかしさと情けなさで顔が一気に熱くなる。あんな場面を見られるだなんてー−−−−−
赤くなってアワアワしてる私を見て、一ノ瀬くんは声を抑えて可笑しそうに笑いながら手を振ってくれた。
「っ!一ノ瀬くん、その笑顔は反則だよ」
そう小さく呟いた私は微笑んで手を振り返した。
すると、今まで黙っていた空桜がニヤニヤしながら話しかけてくる。
「ひよ〜?私をほたったまま一ノ瀬とラブラブしてたの?」
「し、してないよラブラブなんて!ちょっと手を振っただけだもん!て言うか絶対に私の片思いだもん!」
「へぇ〜、私からしたらどう見ても両思いにしか見えないけどな〜!」
「もう!空桜、からかわないでよ!」
空桜は「はいはい!」と言うだけ、絶対分かってないでしょ!
「ひよ、とりあえず帰りながら話さない?人も大分いなくなったみたいだしね」
空桜の言った通り、昇降口には先程の賑やかさはなくなり、一ノ瀬くん達もいつの間にか帰っていて、数十人がいるだけになっていた。
「そうだね、帰ろっか!」
そう言うと、私達は靴を履き替えて昇降口の外へと駆け出していった。
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外に出ると、綺麗な夕焼けが私達を待っているように見えた。
「わぁ!見て空桜、とっても綺麗!」
「これは綺麗なオレンジ色だね!」
綺麗な夕焼けを見ながら私達は家までの道のりを歩いて帰る。
「で?さっきの話の続き!ひよは告白しないの?」
「ふぇ?!またその話?!」
「当たり前でしょ?さっきも答えてくれなかったし」
うっ...さすが空桜、そのまま忘れてくれても良かったのに...
言葉に詰まった私は、少しずつ沈んでいく夕日を見ながら小さくため息をついた。
「できないよ、告白なんて。一ノ瀬くんはみんなから人気だしモテるし、私なんかが告白しても一ノ瀬くんを困らせるだけだyー」
「ひより!!」「?!」
「私なんかがって言葉、前にもダメって言ったでしょ?!ひよりはそうやっていつもやる前から諦めてる!そうじゃないでしょ?何でもやってみなきゃわかんないんだよ!結果なんてその後からついてくるの!努力もしないでそんなこと言うのはダメ!」
私は空桜の言葉を目を丸くしながら聞いていた、空桜がこんな言葉を言うなんてー−−−−−
「...ごめんなさい」
そう言うと、空桜は息を整えながら私に向き直った。
「私はひよりに謝ってほしいわけじゃないの、もっと自分に自信を持ってほしいの!ひよりは可愛いんだから大丈夫だよ!」
そう言うと空桜は満面の笑みを浮かべて私に親指をグッと立てた。
私も負けじと親指を立てて笑った。
「ありがとう、空桜!なんだか自分に自信が持ててきた!告白はまだできそうにないけど、一ノ瀬くんにアプローチしていこうと思う!」
「そのいきだよ、ひよ!頑張ってね、私はいつでもひよの味方だからね!応援してるよ!」
空桜からの応援パワーを貰って早速家に帰ってから明日からの準備準b--
「って、アプローチって何すればいいんだっけ?」
「そうだね、髪型を変えるのとかどうかな?」
「今から美容院に行くのは無理だよ〜」
それに一ノ瀬くんは髪が長いほうが好きみたいだし
「髪型を変えるのって、切るだけじゃないからね?例えば髪を結んだり可愛いピンで止めたりとか、そんなのでいいんだよ」
「一ノ瀬くん、そんな小さな変化で気づいてくれるかな?」
「大丈夫だよ、一ノ瀬ならちゃんと気づいてくれるはず!多分」
多分って、空桜自信ないんだね...
それから私達は、恋話やらファッションのことやらを話しながら帰っていると家に着いた。
あ、いい忘れてたけど私と空桜の家はめっちゃご近所なの!私の家から5m先が空桜の家なんだ。
「それじゃ、また明日!楽しみにしてるからね〜!」
「うん、ばいばい!」
空桜と別れたあと、私は玄関の扉を開け家に入った
「ただいま~!」
「おかえり、ひより!」
夕食の準備をしていたお母さんが台所からひょこっと現れながらそう言った。
「夕ご飯そろそろ出来るから、着替えていらっしゃい」
そう言うと、お母さんは台所の中に戻っていった。
私は「は~い」と言いながら階段を上って自分の部屋に行った。
制服を着替えて部屋着になると、私はベランダに向かった。
ベランダの戸を横にスライドさせると、カラッと音がして戸の滑るような感触がした。
スリッパを履き、ベランダに出て夜風に当たりながら、一時空を眺めていた。
深呼吸を一つして、もう一度空を見上げた。
「明日は頑張らなきゃ!」
そう呟いて、お母さんの呼ぶ声が聞こえる台所へと降りていった。
空には綺麗な星空が浮かんでいた。
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