短編24話 数あるあたしたちのバーポイント
帝王Tsuyamasama
短編24話
新しくこの中学校へ入学したあたしたち。
この中学校は部活に力を入れているらしく、あまり聞かない名前の部活もいっぱいある。
今日は体育館で舞台を使って部活紹介がされていたけど、部活紹介と部活見学だけで一日終わらせちゃうなんて、よっぽどこの学校は部活大好きなのかな? それとも他の学校でも当たり前のことなのかな?
明日から授業は始まるけど、部活見学は今週一週間行われて、来週一週間は仮入部。再来週から本入部だって。
教室で先生の話を聴きながらあたしは部活一覧の冊子を眺めてるけど……
(ドミノ部って何? ドミノ倒しするだけの部活なの?)
チャイムが鳴って帰りの会……じゃなくって帰りの短学活っていうのが終わった。帰りの会とどう違うのかな。
あたしはカバンを持って、すぐに
「将司ー、部活見学一緒に行こうよ!」
「
あたしの名前は
あたしたちは部活棟へつながる渡り廊下にやってきた。この学校は部活専用の建物があって、普通の校舎とつながってるらしい。
先輩たちがあちこちで勧誘を頑張ってる。いろいろおもしろい格好してる。
「ねぇどこから行こっかー」
「とりあえず片っ端から行ったらいいんじゃね?」
渡り廊下から部活棟に入った。すぐ角だったので曲がると、
「バックギャモン部、いかがっすかー!」
今まででいちばん気合入った先輩が勧誘をしていた。なんかお弁当屋さんみたいに板? をぶら下げてる? 三角形がたくさん描かれたマントみたいなのを羽織ってる。
「お、君たちどう!? バックギャモン部、よかったらどう!?」
その先輩が近づいてきた。あ、大きいネームプレートをしていて、三年生の
ネームプレートはあたしもみんな付いてるけど、わざわざ大きなネームプレートをしてるなんて、確かに印象に残りやすいかも。
「バックギャモンってなに!?」
「おもしろいよーバックギャモン! 敵の駒を蹴散らして勝つ快感がたまらないぞ! よかったら中でルール覚えてってよ! サイコロ振るゲームだから覚えやすいと思うよ!」
「雪芽いくか?」
「うん、入ってみよっか」
あたしたちは入ることに決めた。
「よっしゃ! じゃあ空いてる席へ適当に座ってよ! 部員が説明するからさ!」
「わかった!」
こういうときはいっつも将司が先に突撃していく。
中に入ると、部室内に机があちこちに散らばってあって……遊ぶための板? とかが各机の上に乗せられてあった。それぞれの机に一人ずつ先輩が座って担当しているみたいで、すでに説明を受けてる一年生もいる。
ネームプレートが普通のとスリッパの色で一年生がわかる。あたしたちは赤色。
(あ、目が合っちゃった)
あたしと目が合った先輩。イスがふたつ空いてるから、あそこ座っていいのかな?
「かわいいなあの先輩!」
「あのねぇ……」
将司のくせはこれ。かわいいとかきれいとかすぐ言っちゃうの。
……まぁ、いいところでもあるけど。
(でも本当にあの先輩かわいいかも。なんだか優しそう。髪も長いなぁ)
目が合った先輩はにこっとして、手を出した。あ、どうぞ座ってっていうことかな。
将司はそれを見るなりすぐに座りにいったので、あたしも座ることにした。
あたしと将司は向かい合わせに座る形で、あたしの右横に先輩が座ってる。さっきの表にいた先輩とは全然違うなぁ。ここからでも表で呼び込みしている先輩の声が聞こえてくる。
「こんにちは」
「こ、こんちは!」
「こんにちはー!」
(うわー声かわいい!)
「はじめまして。私は
先輩がネームプレートに手を添えながら自己紹介をした。
「お、俺は鷹村将司です!」
「あたしは村居雪芽です!」
「雪仲間だねっ」
「はい!」
ちょっとうれしい!
「バックギャモンって、ご存知ですか?」
「いや知らない!」
「あたしも!」
なんだかすごく大人って感じ!
「バックギャモンは、それぞれふたつのダイス……つまりそれぞれふたつのサイコロを投げ合って、相手より先に自分の駒を全部ゴールさせた方が勝ちなの」
「すごろくみたいなもん?」
「うん。西洋すごろくって言われることもあるよ。でもバックギャモンは、相手の駒を弾いたりじゃましたりするの。いろんな戦い方があるし、逆転することもよくあるから、楽しいボードゲームなんだよ」
先輩は笑顔で説明をしている。これ好きなんだろうなぁー。
「へー! 早速やってみたい!」
「ほんと? じゃああなたたち二人で対戦してみよっか」
「あたしと将司で!? でもどうすればいいかわからない!」
「今この駒の配置は、バックギャモンを始めるときの初期配置なの。あなたはこっちからこうぐるーっと。あなたはこっちからぐるーっとこう。それぞれここがゴールになるから、相手をじゃましながら自分たちはここを目指すの」
板……というか箱? が横にふたつ並んでいて、三角形がたくさん中に描かれてる。
駒はこの丸いのかな。オセロみたい。あたしは右下がゴールなんだって。
「この三角形ひとつひとつが一マス二マスっていう感じなのだけど、自分の駒がふたつ以上重なってるところは相手は入ることができないの。ひとりぼっちでいてたら弾いて振り出しに戻すことができるから、なるべくひとりぼっちにならないようにしてあげてね」
先輩が駒を置いたり動かしたりしながら説明をしてくれている。
「飛び越えられんの?」
「うん、飛び越えることはできるよ。でもダイスの目は合計じゃないから、途中でふさがれてたらだめだけどね」
例えば二・三と出て、二も三もじゃまされてたら飛び越えられないっていうのも、動かしながら教えてくれた。
「ダイスはこの筒みたいなのに入れて振って出すの。同じ目が出たら倍の四回動かせちゃうから、もし出たらどんどん前に進めてね」
「なるほどな! よし、雪芽勝負だ!」
「もー気が早いわねー。でもいいわ、勝負よ!」
あたしはこれまでたくさんの勝負という勝負を将司とやってきた。負けるわけにはいかない!
先輩に動かし方を教わりながら、なんとかゲームらしいゲームができている。
「ゴールするときは、いったん全部あなたは右下のここ、あなたはこっちの左下のむっつ目まで集めてからじゃないとゴールできないの。頑張ってね」
「ゾロ目来い! あーなんだよ一・二って!」
「どっちが早くゴールするかなー」
「その駒に攻撃できる?」
「うん。これを三、四って動かせば」
「あ、そっか。ひとつの駒を続けて動かしてもいいもんね! はい!」
「げ! こいつどうなるんだ?」
「弾かれちゃったら、このバーポイントっていうところに飛ばされちゃうの。振り出しって感じかな。次ダイスを振って、一はここ、二はここ、三四五六って感じで戻さないとだめなの。埋まってるとこは戻れないから気をつけてね」
「おーっし……」
将司は気合入れて筒を振ってる。
「来い! だーーー!! なんっでこんな時に限って六六なんだよぉー!」
あ、先輩が笑ってる! かわいい!
先輩がふたつ重ねるとそこは入れないって言ってたから、それで守りながら進んでいったら、ゴール目前に駒が集まってきた。
「次からゴールできちゃうね」
「俺まだ全然進めてないぞ!」
「あたしがいっぱいじゃましたもんね!」
結局、あたしがそのまま勝っちゃった。
「はい、あなたの勝ちっ」
「勝ったわー!」
「うわー! 雪芽に負けたー! ちっきしょー動かし方はわかった! もう一回だ!」
「え、もっかいやっていいの?」
「うん、いいよ」
先輩は笑顔でうなずいていた。
「ほら先輩こう言ってんだしさ!」
「よーし、次もやっつけてやるわ!」
あたしたちはもう一度戦うことになった。
今度はゴールがお互い接戦だったけど、二回連続で五五を出したあたしが一足お先に全部ゴールさせちゃった。
将司はすんごく悔しがってたけど、他のところも回るから、バックギャモン部はここで終わりにした。
最後の手を振るところまで先輩はかわいかった。
いつもなら将司はさっきの先輩のことを話題にしてると思うけど、バックギャモン部を出てからはずっと勝負の話題ばっかりだった。
他の部活も楽しく回った。モノポリー部もおもしろかったけどなぁ。ドミノ部はやっぱりドミノ倒ししてたけど、それだけじゃないのもしてた。
「楽しかったな!」
「なんだか遊んでばっかりだった気がする……」
下校時間になったので、あたしたちはさっきの部活見学の流れのまま一緒に帰ってる。
「将司は今日見た部活で入りたいとこあった?」
「うーん、バックなんとか部の先輩がかわいかったなぁ」
「質問に答えなさい」
落ち着いたと思ったらすぐこれだもん。
「運動部見れなかったしな、明日考える! 雪芽は?」
「あたしも全部回ってから考えるー」
「そっか! どうせなら一緒の部活入ろうぜ!」
「えっ?」
将司は親指立ててる。
「だって雪芽と勝負すんの楽しいし!」
「あ、あたしだって、将司と勝負するの楽しいし?」
「じゃ決定だな! 気になる部活あったら言えよ! 俺は雪芽と同じ部活ならそれでいい!」
え、えっ、なにこの気持ち。ちょっと胸が……なにこれっ。
「あーでも部活見学一週間あるもんな! あの先輩と戦ってみたいな……」
あれ。胸落ち着いた。さっきのなんだったんだろう。
「ま、将司はあの先輩と戦いたいの? それともあたしっ?」
「どっちもに決まってんじゃん! 男は戦いの道に生きるんだ!」
男の子ってよくわからないや。
「バックギャモンのときの将司の悔しぶりったら……ぷくくっ」
「男は勝負に全力なんだ! しかも雪芽に負けるとかよけー悔しい!」
あたしも気分爽快!
「だから雪芽、一緒の部活入ろうぜ! これ絶対ルールなっ!」
あれあれっ、またこの胸……もうこれなんなのよぉーっ!
短編24話 数あるあたしたちのバーポイント 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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