エピローグ ある観測者の独白

 はてさて、いかがだったかね?


 ふむ。まぁとして及第点といったところではないか? あまりにチープでありきたりだったと言えどもね。


 だってそうだろう?


 殺人鬼が、一人の少女に恋をする。


 こんな題材など世の中には腐るほど転がっているのだから! ああ、だとすれば読み物としては落第点かもしれないね。


 しかしながら。しかしながらだよ諸君。

 私としては、この結末は些か想定外ではあったのだ。

 何故かって? 彼はもっと聡明だと思っていたのだよ。こんな選択を取るほど愚かだとは夢にも思わなかったと言える。嘆かわしいことだよ。私の右腕ともあろう者が!


 かの青年は本質的には奪う側の存在だ。


 そんな彼が、ただ一人の少女を守る?


 笑わせないでくれ給え。。人は良くも悪くも変わらないものだ。変われないのだ。

 それについては他でもない私が保証しよう。まぁ私は己の在り方に疑問を持ったことなど一度もないがね。


 彼はいつか、取り返しのつかない自身の選択を悔いるだろう。


 人も街も歴史も、いつかは老いて朽ちていく。遅いか早いかの違いだけで。

 それでも彼だけは変わらない。少女はいつか死ぬだろう。彼を置いていくだろう。今まで、彼の隣にいた大勢の誰かと同じように。

 結局彼は、スタート地点にすら立てていないのだよ。これまでの過ちを繰り返しているだけ。


 言っただろう?

 人はそう変わらないのだ。であれば、彼は未来永劫同じ過ちを繰り返す。


 こんな事なら、観察を続ける必要は無かったのだろうね。


 愚か者は御し易いのだから。


 ……ふむ、少々喋り過ぎてしまったらしい。

 それでは一度この辺りで終わっておこうか。


 私? 私は──そうだね、一先ずは観測者とでも名乗っておこう。


 なに、機会があればまた出会うだろうさ。


 その出会いが、祝福されるべきかは別にして。


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