私がルール!ー社長の独断で世界を滅ぼすー

夜月 祈

第1話 社長の独断で世界滅亡!?

 草原に一人、 男が立っていた。

彼は見渡す限りの草原に止め息をつき一服し始める。


 ―—― 時は遡ること30分前。


 男は、 この日も社員に罵声を浴びせながら仕事をしていた。

無能なカスどもを下に持つと、ストレスがたまって仕方ねぇ。

そう思いながらも自身のパソコンと睨み合いながら作業をしていると

一つのメールが届いた。

彼のパソコンには業務用のメールしか届かないため何かのチェックだろうと、

特に警戒する様子も無く開き、 瞬間違う世界へと飛ばされてしまったのだ。


 今思うと開く瞬間社員の顔が少しにやけていた気がするが、

まさか自分がめられるとは思わなかった。

しかもこんな形で。

しかし今はそんなことを考えている場合では無く、

これからどうするか煙草を吸いながら考えていると上空を何か黒い塊がものすごい勢いで飛んでくるのを感じたのですぐさま何かが来るほうに目をやった。

それを見た瞬間、男は驚いたと同時に興奮した。

飛竜ドラゴンがこちらへ近づいてきたからだ。


 男は自身の携帯で撮影を試みたが、

人間の姿を確認した飛竜は無情にも自身の口から炎を放射する。

もちろんそれは辺り一面を焼き払うほど強力で彼自身にも

襲い掛かった。

しかし次の瞬間、 魔物としての本能なのか炎を吐いた主はすぐさま

そこから逃げようした。


 「まぁ、 待て。 ゆっくり話でもしようじゃないか? なぁ? 」


 目をぎらつかせて炎の中から現れる男の姿。

携帯は熱風の勢いで飛ばされたが彼は無傷だった。


 「流石の私も死んだと思ったが、 まさか能力? 何てものが実在するとはな。 」


 男は自分の能力について把握していた。

使い方についても何もかも、頭と身体がそれを理解しているようで、

炎で焼き殺される瞬間に、 それは発現したのだ。


 「さっきはよくもやってくれたな? 礼を返そうか。 」


 飛竜はすぐさま飛び立って逃げようとしたが男がそれを

許さなかった。

身体が硬直して動かせない、 挙句の果てに悲鳴をあげる。

その様子を見て男は能力を発動した。


 せいぜい俺の部下となって働いてくれよ。


 男は飛竜と契約を交わし、自分の使役する魔物ぶかとした。


 では男の能力は何なのか。

 魔物を操る能力、否。

 相手を束縛する能力、否。


 「これが私の能力、社長特権マイルール! 」


 男は誰も聞いていない草原でそう叫びドラゴンへと飛び乗った。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 某、 王国。


 「国王様、 大変です!! 」

 「何事だ。 」


 国王の側近と呼ばれるものが慌てた様子で近寄ってきたので、

すぐさま冷静になるよう威圧する。

しかし、 そんな場合ではないと緊急避難するように助言する。


 「この私に命令か? しかも逃げろだと? 貴様は何を言ってるのか

分かっているのか?」

 「す、 すみません! しかし、 このままだと殺されてしまいます! 」


 胸倉を掴まれた側近は苦しそうに、 必死に国王を説得するが聞く耳を

持ってはくれない。


 「誰が誰に殺されるって? ふざけんのも—― 」


 「私にだよ。 」


 不敵な笑みを浮かべて正面から堂々と男が入ってきた。


 「ほぅ。 誰だね君は。 ここは許された者しか入れないのだが? 」

 「私か? 私は社長だ。 」

 「シャチョー? 聞かない名だな。 」

 「覚える必要はないさ。 クズには何を言っても無駄だからな。 」


 相手の期限が明らかに悪くなった、 自分にとって最大の侮辱。

過去に国王に無礼を働いたものは死刑すら普通だった。

しかし彼は平然と冷静に国王へと歩み寄る。

その様子を見てか、側近は武器を捨てて逃げ去ってしまった。


 「ほぉ、 部下に見捨てられたか。 」

 「勘違いするな、 あんな奴いくらでも手に入る。 」


 二人の殺気が頂点に立った時、

それは起こった。

国王の元へ厳重な装備をした兵士が次々に乱入しては、

社長へ向けて発砲し始めたのだ。


 「ハハハハハハ! 勝つのは私だ! 害虫が国王である私に歯向かうからだ! 」


 銃声が無くなり代わりに白煙が辺りを包む。

国王は満面の笑みで満足気だったが、

この時、国王は興奮状態から外の様子には気づいてなかった。

死体を確認しようと近づいた瞬間、驚愕した。

彼が傷一つ負っていないことに。


 「なっ!? 馬鹿な! 確かに殺したはずだ! 」

 「その程度でお終いか? 」


 国王が焦りを感じると同時、 兵の一人が部屋へとやってきた。

かなり慌てている様子でその様子を見て社長は全てが終わったんだと悟った。


 「何事だ! 私は今—―」

 「国が魔物によって陥落しました。 」


 相手にとっては耳にしたくなかった言葉だろう。

そして彼にとっては一番聞きたかった言葉。

国王が物凄い剣幕で睨みつけてくるが、社長はそれを

涼しげな眼で嘲笑う。


 「貴様、 私の国に何をした! 」

 「貴様の国は私が貰う。 そのために無能なこの街を一掃しただけだよ。 」

 「悪魔め・・・ 」

 「何とでも言え、 聞けば税に税を重ね民衆を困らせていたと聞く、 そしてあんた   に逆らえば死刑。 そんなの私の会社でも取り入れなかったぞ。 」

 「黙れ黙れ黙れ! 貴様はこの王自らが滅ぼしてやる! 」


 国王は自身の腰につけた剣を引き抜き、 突然周りの兵士を斬り始めた。

いきなりの行動に困惑する兵士、 逃げる者も容赦なく斬りつける。

明らかに今までの様子とは違う。

よほどあの剣に信頼を寄せているのだろう。

社長は何をするわけでもなく、 ただそこに突っ立っていた。


 「これは斬りつけた相手の血を吸収することで力を発揮する言わば呪われた

  魔剣。いくら害虫と言えど無事では済まない、まさに掃除するのにピッタリの   剣ってわけだ! 」


 襲い掛かる魔剣、 しかし社長は片腕を前に出しただけで、

やはり突っ立ているだけだった

激しく血しぶきを上げながら無残にも散っていく相手。

その様子が国王の頭の中で再生されたのだろう。

にやりと笑いながらその腕めがけて剣を振り下ろした。


 パキンッ。


 しかし現実はあまりにも素っ気なく魔剣が、

いとも簡単に折れてしまったのだ。

国王が混乱する中、 一発。

社長の右ストレートが綺麗に国王の頬を捕らえた。


 「ぐふっ。 なっ、 なぜ。 」

 「これが私の能力、 社長特権マイルール私の前では如何なる攻撃も効かな    い。 更にいうなれば私の思った通りに事を進めることが出来る。 理解頂けたか   ね? どちらがクズか。 」

 「クソが。 」

 「それは国王は言うセリフではありませんね。 もう元ですがね。 記憶改変《メモ

  リーコントロール》。 」


 国王、 あなたの記憶を全て消し、 代わりに別の記憶を植え付けましたよ。

私の支配下ぶかになって働いていたという記憶をね。


 それから社長は街を戻した。 自身の能力で街は魔物が襲来する前の、

それよりも綺麗で立派な街が誕生していた。

民衆は社長の手によって別次元へと隔離されていたが全て解放。

悪人だった者も記憶改変により彼の部下だったという記憶を植え付けられていた。


 これも全て予定通り。 残るは—―


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 社長は飛竜に乗りある場所へ向かっていた。

沢山の飛竜を連れて、 一直線に。


 「大変です! 侵入者が!! 」

 「騒がしい。そんなことは分かっている。一国を滅ぼしたってやつが来たんだろ」


 ズドン!!


 正面の分厚い扉が、社長の手によって破壊される。

これも彼の力、 扉を破壊できるほどの筋力を身に着け魔王の前へ姿を現す。


 「ほぉ。 あんたが魔王か。 」

 「だったら何かな。」

 「おいおい、 随分と落ち着いているじゃないか。 魔王っていうくらいだから私が   何者か分かっているんだろ? 」

 「私を倒しにでも来たのか。 」

 「違う。 引き抜きに来たのだ。 私の部下として働いてもらうためにな。 」

 「この私が人間の下につくと? なんと愚かな考え方よ、 と言いたいところだが良   かろう。 ただし私に勝ったらだがな。 」

 「話の分かる相手じゃねぇか。 取引先がまさか魔王になるとは思っていなかった   が面白い。 」


 魔王は社長の身体を目掛け雷撃を放射するが社長はそれを手で腕で振り払う。

しかし相手に焦った様子はなくむしろ、 楽しんでいるようにも見て取れた。


 「久しいぞ。 この感覚、 この高揚感。 貴様と出会えたことに

  感謝せねばならんな。 」

 「もう勝った気でいるとは、 魔王と言っても所詮カスの部類じゃねぇか。 」

 「そのカスにあんたは負けるんだ。 」


 魔王は暗黒領域ブラックホールを生成し、その場へ発現させる。


 暗黒領域。 いかなる攻撃も受け付けず呑み込んでしまう、 また

技の発動者以外近づいた者をも呑み込んでしまう。


 「どうした、 先ほどまでの威勢は何処へいった。 と言っても怯えるのは仕方ない

  私の暗黒領域は全てを飲み込む。 それが仲間であっても全てな。」


 魔王の言葉を聞きながら、 社長は胸ポケットへ手を伸ばし煙草を手に取る。

そしてゆっくりと一服をしながら魔王の方を見ていた。

決して怯えてたわけでは無く、むしろその逆で自身があまりにも強大な能力を

手に入れただけに魔王と言う存在がちっぽけに見えたのだ。

それでなくても彼は今、世界を支配することしか考えていない。

それがこの世界を支配するために一番の近道だと知っていたから。

何故自分のするべきことが分かっているか。それも社長特権マイルール

の力。この世界の攻略法は既にこの男の中にあるというわけだ。


 「・・・さてと。」


 男は近づいてくる暗黒領域に自ら進んでいく。

その様子に魔王も血迷ったかという目を見せていたが、

次の瞬間魔王は背筋が凍り付いた。

この世界において最強の魔法、 暗黒領域が社長の力によって、

無かったことにされたのだ。 正確には彼の目の前でその技が霧散した。

瞬間、 魔王は悟った。 どうやってもこの男には勝てないことに。

それ程までに彼の力は常軌を逸していた。


 「自ら敗北を認める勇気は誉めてやろう。 」

 「私の負けだ好きに殺せ。 」

 「勘違いするな。 私は部下が欲しいと言ったはずだ。 」

 「では私に何をすれと。 」

 「そうだな。一先ず—―」


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 これは決して語り継がれることのない、おっさんの話。


 とある世界にて国を数十分でわが物が物とし

魔王を数分足らずで負けに追い込むという

社長と呼ばれる人物がいた。


 

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