僕の心を聞いてくれ

柳翠

第1話 抗えないルール

この世にはいくつかのルールがある。


暗黙のルール、例えば、クラスが騒いでいる時、行けてない系男子は机とにらめっこしてろとか、クラスで騒いでいいのはそういうことをいつもしている男子とか、そんなことが数多にあるこの世界で僕は気がついたことがある。


それは、僕が不登校生になってから気がついたことだ。


まず初めに、不登校は外に出ては行けないルール。

昼食は学校より早いので罪悪感を負うルール。


そんなことが沢山ある中、僕が最も気がついた抗えないルールそれは…………


~~~~~~~~~~←~~~~~~~~


「ケンタ、サッカーしようぜ」


友達のタケルが声を張った。


「行く! ちょいまち、何時から? どこ集合?」


帰る用意をしながら横目にタケルに答える。


「放課後グランドで、帰ったらすぐな」

「おっけー」


そうして僕と友達であるタケルは学校をあとにして帰路に着いた。


新学期が始まり不安と期待で胸をふくらませていた僕にできた唯一無二と言っていいほどの親友。それがタケルだった。


まだ、桜の蕾がホンワカと開き始めた頃桃色の並木道を早足に歩く。


早く家に帰ってタケルと遊ぼう。楽しみだ。


胸の中も桜と同じくらい楽しみが詰まっていた。


家に帰ると勢いよくドアを開ける。まず初めにペットのコチョーが迎えてくれた。

まだ子供で毛先が茶色でまるんとした目が瞬き黒目に僕を映し出す。


「今帰ったぞ! コチョー」

「わふっ」


まだしっかりとわんっ、と発音できないのかわふっ、きゅーみたいな鳴き方をする。そこがまた可愛らしい。僕は玄関にランドセルを捨てて再びドアを開ける。

心の中でいってきます、と言ってから外に飛び出す。違和感があった。


なんで、ドアの鍵が空いているんだ?


鍵は僕が持っていてお母さんは今仕事のはず。祖父母も鍵は持っていない。父は単身赴任で今はいない。


鍵のかけ忘れ? いや僕は朝しっかりと鍵を閉めたはずだ。

ならお母さんか?


「かあさーん! いるの?」

「わふっ」

「かーさーん!」

「…………」


無言を返してくる空間に畏怖を覚えて、身震いをする。怖くなってきた。昨日見た特番のホラー映画のせいかな?


恐る恐る、ドアを一つづつ開けていく。

間に母さんを呼ぶ声はやめない。そばにコチョーもいるから安心だ。


最後に残ったのは2階の僕の部屋だった。なんだやっぱり誰もいないのかな? そう思って安堵の息と共に開けた瞬間、何かが飛び出した。真っ黒い服に包まれフードを被っているが、男であるとわかった。大柄の体躯であり、恐怖を覚えるのは無理もない。


その大柄の男に僕は他突き飛ばされた。

瞬く間に僕の胸元にナイフのようなものを突きつけられた。


「誰かに喋ったら殺す」

「……………ひっ」


お腹の底から、出した地獄からのお告げのようなものに僕は全身が麻痺して、動くことがも出来ず、股間当たりが濡れるのをただ、感じているだけだった。


瞬間、コチョーが男に飛び掛った。


腕に飛びつき必死に僕から男をどかそうとしているようであり勇敢に立ち向かうコチョーを勇者と思った。けど、勇者は死ぬ物だった。


あっけらかんと、胸にひとつき包丁が刺さっていた。


流れ落ちる深紅は僕には止めることも出来ずにどくどくとこぼれ落ちて床一面が真っ赤に染った。鮮血から命が次々と落ちていく。


「ケンター、おせぇーよ。早くサッカー行こ………………………………………………………………え?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ」


時が止まった。


僕らの間に流れる感情は、不安。恐怖。疑懼。そんな、あやふやで良くない感情がひたすら僕らの間を駆け巡った。


「お、お前。こ、殺した」

「ち、違う! 僕じゃない。コチョーを殺したのは僕じゃない。聞いてくれ、変な男がいて、僕の部屋を見てくれ、めちゃくちゃに荒らされてるんだ。見てくれ、なあ、そんな顔しないで、本当なんだよ! おいっ!まてよ!どこに行くんだよ! 聞いてくれ!…………はぁ、はぁ…………まって。僕じゃ………………ない。僕じゃない!!!」


次の日から着いたあだ名が、『犬殺し』。


その後、指紋や足跡で犯人は捕まったが一度着いたレッテルは剥がれることは無く、僕は不登校になった。


~~~~~~~~~~~~→~~~~~~~


例えばどうだろう、ルールとは空気だと思うんだ。


喋っちゃいけない空気、騒いじゃいけない空気。つまり空気イコールルールという事だと僕は思う。


こんなこと、布団の中に入って考える僕がどうかしていると思うよ、だってそうだろ、そこの君も僕の話を信じてくれないんだろ。


不登校になって、ネットで相談しても帰ってくる答えと言ったら『学校行かないのらくしてるだけジャーン』『それは楽する言い訳』『辛いのお前だけじゃないからな』


僕は悪くないのに。今僕の心を聞いている君ならわかってくれるかな、僕は悪くない。


学校が社会が僕に学校に行くなというルールを作りあげたんだよ。


僕の話を聞いてくれてありがとう。

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