第6話 解放された邪神
「まずい。外に出よう」
アランがマギーとティムを連れて外に出た。その頃になると、行方不明のマッドドッグ・デュガンを追っていた男たちも集まってきていた。アランが発射した銃声を聞きつけたのだろう。
「おい、あの少年は素っ裸じゃないか?」
一人がティムに目を止めた。だがそんなことにためらっている余裕はティムにはない。走り回って、デュガンに奪われた槍を取り返すのに精いっぱいだ。
「あれはアラン・シーリングじゃないか?」エリックが疑問の声を上げる。「確か奴は何年か前に死んだはず……」
「詳しい話は後だ」アランは面倒なことになりそうな議論を避けた。「それよりもあいつを倒すのに手を貸してくれ」
「あいつ?」
「アフリカの精霊だ。とんでもなく危険で厄介なやつ」
「精霊? そんなもんがどこに……」
「ああ、俺も信じられないな!」アランは失笑した。「自分の身に起きたんじゃなければな!」
ちょうどその時、ニャーマトゥがその姿を地上に現した。
おぞましい姿だった。地上のどんな生き物にも似ていない。いや、すべての生き物
を合成した姿のようだ。顔の周りには何百という獣、野鳥、爬虫類の頭がごてごてとくっつき、角、たてがみ、翼などが無秩序に生えている。下半身も蛇の鱗、タコの脚、カニの鋏、ムカデの節足のようなものが生えている。人間のような手足は見えない。体重は人間のゆうに数百倍はありそうだ。
ティムはどうにかがらくたの山から聖別された槍を見つけ出したが、それをニャーマトゥに向けるのはためらった。というのも、こんな巨大な怪物に対して役に立ちそうに思えなかったのだ。
「うわあ、バケモンだあ!」
馬に乗った男たちは、たちまちパニックに陥った。それでもどうにか馬を押さえつけ、ニャーマトゥに向かって発砲しはじめた。だが、きいているようには見えない。男たちの手にしている最大の口径の銃であっても、ニャーマトゥには小さすぎるのだ。
「くはり・ん……ぐのぬ・いん・ころは……てぇりに・ももり……」
怒りの声をあげるニャーマトゥ。しかし苦痛に対して怒っているのではない。むしろ蚊や蠅のようなちっぽけな虫に顔の周りを飛び回られてるような感覚……。
まったく効果があるように見えない。
しかしニャーマトゥの方でも、人間に対して腹を立てているのではない。人間に比べて足が短すぎるので、積極的に攻撃できないのだ。
人間はニャーマトゥを攻撃できない。しかし、ニャーマトゥも人間を攻撃できないのだ。
じわじわとニャーマトゥが移動を開始した。人間の中の一人にねらいを定め、攻撃を集中させるつもりだ。
そう、ティムに。
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