第5話 ニャーマトゥ復活

 三人の悪党はアランにノックアウトされ、折り重なって倒れていたはずだ。だが、今は彼らの姿がじわじわと変貌しつつあった。陽に照らされたバターのように、三人の体がゆっくりと溶け合いかけている。依然として意識はないらしく、ぽかんと口を開けている。

「何? どういうことなの?」

 マギーは床の上でおぞましい変化を続けている三人の体を見て、恐怖を感じた。

「ああ、まずいな」

 アランは舌打ちした。

「何がまずいの?」

「三人とも意識を失った状態だ。つまりニャーマトゥが彼らの望みを現実化しようとしてもできない……」

「だったら……」

「でも、ニャーマトゥ自身の望みを叶えることはできます」

 ティムは暗い表情で言った。

「何なの、ニャーマトゥ自身の望みって?」

「元の肉体を取り戻すこと……」

 そうこうしている間にも、三人の肉体の変貌は進行していた。腕や足は微妙に縮みつつある。だが手の平や腹部は逆に風船のように膨らんでいた。特にアッシャーの顔面は膨張した肩や肘に押され、醜く変形していた。

 見ているうち、アッシャーは何かに気づいたらしく、眼をわずかに開いて、叫ぶように口を開けた。だが、咽喉からはごぼごぼという意味不明の音が漏れただけだった。

 コリーやサイクスの顔も変形していた。三人とも本来の顔が分からないようにひしゃげ、何か言いたそうに、口をぱくぱくさせている。しかしやはり意味のある言葉はまったく出てこなかった。

「く、ふあんぶ……のもうわ……じょまい……くる、めん、しん……」

 アッシャーの声がそう言ったように聞こえた。明らかに白人の言葉ではなかった。時の流れの中に置き忘れられた古い言語だ。

「どきわ……んどくう、にゃーまとぅ、うばん、きんが……ごーわ、どのくぃ……」

 突然、銃声が響いた。アランが六連発の拳銃をホルスターから抜き、発砲したのだ。全部で六発。だが、確かに命中したはずなのに、それは何の効果もなかったようだ。

「当たってるはずなのに……!」

 狼狽するアラン。だがティムは平然としていた。

「銃なんて白人のまじないでしょ? ニャーマトゥには利くわけがありません」

「ならどうすれば死ぬの!」

 マギーが悲鳴のように叫んだ。

「火炎放射器? それとも爆弾?」

「同じですよ。白人の魔法は白人が考えたものにしか効果がありません」

「ならばどうすれば!」

「槍やナイフ……」

「ええ?」

「ナイフなら、白人や先住民の区別はありません。あるいは弓や槍や吹き矢。あるいは大きな石を投げつけるとか……」

「そんなものでこの化け物と戦えって?」

「しょうがないですよ。白人の魔法なんかではニャーマトゥを倒すことなんかできないんです」

 そうこうするうち、ニャーマトゥの外見はさらに変化した。男たちの首はそのままに、他の首がわさわさと生えてくる。リカオンの首、ジャッカルの首、大蛇の首、黒豹の首、オオコウモリの首、ゴリラの首、キリンの首、ライオンの首、雄牛の首……それらがいっせいにはえ、あらゆる声で吠えて、恐ろしい合唱を奏でた。

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