第21話 仇敵(2)
(だめだ、強すぎる……)
フェリスの敵討ちと、いきり立った悠真だったが、戦闘は一方的だった。
ワーウルフの素早い動きに全くついていけていない。
相手の攻撃は一貫してヒットアンドアウェイである。
剣の間合いの外に距離を取り、そこから猛烈なスピードで突っ込んで来る。
そして、悠真の剣をかわしながら、すれ違いざまに横から鋭いツメで一撃を食らわして、即座に距離を取る。そして、スキあらば間髪入れずに突っ込んでくる。これの繰り返しである。
だが、そうと分かっていても、動きが速すぎて避けきれないし、剣もことごとくかわされる。
それならばとこちらから距離を詰め、ブンブンと剣を振り回しても全くかすりもせず、ただ体力を消耗するだけであった。
今のところ、シールドのおかげで致命傷には至っていない。
ただ、ワーウルフの強さはシールドのダメージ吸収力を凌駕しており、完全には攻撃を吸収できない。そのため、浅いとはいえ至る所に傷を負っていた。それだけではない。あまりの攻撃の強さで、一、二発食らっただけで、シールドが消えてしまうのだ。
呪文の発動は、強いイメージと精神力を必要とする。すでに悠真は脳に疲労が生じ鈍い頭痛を感じていた。そのせいか、イメージから魔道エネルギーへの変換がスムーズに行かない。より強く念じなければ発動しないのだ。ゲームで言えばマナ切れが近い状態なのかもしれない。
(くっ……)
ワーウルフが、距離を取ったところを見計らって、足元に置いたカバンの外ポケットから素早くポーションを取り出し、一気に流し込む。
体が緑色に発光し、ケガが治る。だが、脳の疲労は回復しない。
(このままじゃまずい……)
悠真は荒い息をつきながら、カバンのポーションを見て考えた。
すでにこの戦闘で3本飲んだ。残るはあと1本。
そして、相手はほとんど無傷だ。
現実的に考えて、このまま戦い続けたところでジリ貧になるのは間違いない。
何かやるならここしかない。
(こうなったら、刺し違えてもいいから倒すしかない)
悠真は考えを変えた。
傷を負わずに戦おうとするのが土台無理な話なのだ。
一撃で即死さえしなければ最後のポーションで回復できる。
こちらが重傷でも相手に致命傷を与えれば生き延びられる。
心は決まった。
悠真は段取りを頭でまとめると、剣を右下段に構えた。
「来い!」
その声に反応したのか、ワーウルフが唸り声を上げ、猛然と正面から突っ込んできた。
間合いに入った瞬間、悠真は下から剣を振り上げる。だが、ワーウルフは難なく左に避け、そこから鋭いツメで引き裂こうと悠真の脇に潜り込む。
だが、悠真はそれを読んでいた。左に避けさせるために、右下から剣を振り上げたのだ。
そして、ガラ空きになった左からワーウルフのツメが横薙ぎで飛んで来る。
悠真は全身の筋肉を引き締めた。そして、避ける代わりにワーウルフに向かって思い切り体を投げ出した。
(グウッ)
あらかじめ備えていたとはいえ、脇腹がツメで引き裂かれ血しぶきが舞う。防御壁は一撃で消えた。
だが、勢いをつけた悠真の体はワーウルフにそのままぶつかった。
これには相手も不意を突かれたらしく、足を取られ、悠真ともども地面にもんどりうって転がる。
だが、最初からそのつもりだった分、悠真が起き上がる方が早かった。
「ウワアアアッ!」
訳のわからない叫び声を上げながら、悠真は剣を逆手に持ち替え、起き上がろうとしていたワーウルフの胸に突き立てた。
「ガハッッ」
血を吐くワーウルフ。しかし、それでも悠真を切り刻もうと両手を伸ばす。
「フェリスの仇だ!」
悠真は、剣にありったけの念を込めた。突き立てた剣から猛烈な炎が吹き上がり、ワーウルフを包み込む。
「ギャアアアアア」
業火に焼かれ、ワーウルフが断末魔の叫びを上げもがき苦しむ。
悠真は剣を抜いて、よろよろと下がる。
やがて、炎が消え、真っ黒に焼け焦げたワーウルフはピクリとも動かなくなった。
「や、やった……」
完全に死んだのを確認すると、疲労でもはや立っていられなかった。その場に崩れ落ちるように座り込む。
「仇は討ったよ、フェリス……」
大きく息をつき空を見上げた。涙で雲が滲んで見える。
「だけど、君に会いたかった……」
もっと早く来ていれば、彼女は死ななくてすんだだろう。その後悔の念に流されそうになる。実際、ゲームでは二人でワーウルフを倒しているのだ。
無論、どうすることもできなかったのも事実である。昨日までこの世界が現実とさえ知らなかったのだから。
だが、それでも後悔の念を押し止めることはできなかった。
「ごめん……僕は、君を助けることができなかった……ごめんよ……フェリス」
悠真は、地面に手を付き、溢れてくる涙も拭かずにただ嗚咽を漏らした。
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