第二節 魔導属性と竜契約
ステラの両親、父の名はアルバート、母の名はシフォン。
特にシフォンはサミュエルの実の娘でもある為、魔導士としては相当の実力を持っており、他の魔導士や魔獣を寄せ付けない程の実力を持っていた。ただ一体の魔獣を除けば、だが。
呪竜・ティアマト。ティアマトは神々と戦うために11の怪物を生み出した女神としても知られている。だがこの世界では最凶最悪の呪いをその身にやつし、魔導士の操る魔法、魔術を解呪する特性を持つ。
魔法魔術のみを操る魔導士では、ティアマトにはまず勝てない。そもそも魔法魔術が効かない相手に魔導士が勝てるわけがないのだ。
そしてステラの両親は、このティアマトの出現時、討伐隊として狩りだされ、そのまま行方が知れなくなった。軍の見解は戦死、しかし私がシフォンに掛けた魔法の効果が途切れていないことから、少なくともシフォンは死んではいない事は確かだ。なぜ軍はシフォンの死を偽造しなければならなかったのか、その理由は分からない。だが私は、その真実を知らなければならない。母親として、そして・・・魔を司る者として
※ ※ ※ ※ ※ ※
〈トワイライト魔導士育成機関学園入学式の翌日〉
魔導師の家:一階書庫
「あの、おばあ様。魔導のクラスについてお聞きもよろしいですか?」
書庫に置かれた丸いテーブルと背もたれ付きの椅子。その椅子に腰かけ、テーブルに置かれたソーサーとティーカップ。カップに注がれた紅茶をすする白を基調とした部屋着姿のサミュエル。そのサミュエルにステラはそんな質問を投げかける。
魔導クラス、魔導には大きく分けて二つの種類がある。それが魔術と魔法だ。
魔術は魔力を利用した初歩的な技術、魔法はそれをさらに応用し複雑化した物となる。
例えば、火を起こす程度であれば魔術レベルの物だが、それを火球として打ち出すのは魔法に位置づけられる。そもそも火球を打ち出すと言うのは大きく分けて三つの工程を要する。
まずは火を起こす事。次にその火の相対位置の固定、これは火が霧散しない様に火の中心を原点とし、その周り一定の範囲に火が留まるようにする為。最後にその火を相手に飛ばす。その三つの工程を必要とする。
その他に魔導クラスと言うのは細かく分ければ、上位・中位・下位。そして最上位と分けられ、更にその魔法・魔術の分類分けも含まれる。分類と言っても魔法・魔術における”どういう物か”と言うクラス分けだ。
『幻術』『炎』『水』『氷』『風』その他にも色々とあるがよく使われるのはこの辺りだ。
因みに先日、サミュエルが生徒の火球魔法を跳ね返すのに使った魔術二つはどちらも幻術系に分類される。
だが、この辺りは基礎中の基礎。ステラも知っていて当然の事なのだがと思いつつも、サミュエルは何について知りたいかを問う。
「何について聞きたい?」
「五賢聖の皆さんが持つ固有魔法のクラスについてです」
固有魔法と言うのは最上位魔法の中でも等位と呼ばれるランク付けを超えた強力な物や特殊な物ばかりだ。しかし、その魔法はただ一人しか使えない。更に、固有魔法を有しているのは上位魔導士以上の実力を持つ者のみ。まぁ、五賢聖レベルになるとその固有魔法を複数習得している者も数人いる。
「誰の固有魔法について聞きたいんだ?」
「おばあ様の物は昔教えてもらったので、他の方々の物を」
「ならまずは、歴代最年少の五賢聖、第五席。カルネロ・サルヴァトーレ。彼の固有魔法、『孤独の世界』から」
「固有魔法『孤独の世界』は対象者の『オド』つまりは体内魔力を使用不可にすると言う物。強力な反面、術者自身も他の魔法の行使ができなくなるデメリットがある。」
一見意味のないような魔法・・・だが、重要なのはその魔法の『対象』だ。『孤独の世界』は術者自身が対象とした者にしか効果が無い。術者が単体であれば戦いを泥沼化させる程度しか出来ないが、術者に仲間がいれば別だ。術者に仲間がいれば、相手の魔法、魔術だけを封じると言う、アドバンテージを一方的に押し付ける事が出来る。基本的な攻撃手段が魔法、魔術のみの魔導士にとって、そのディスアドバンテージは敗北の色を濃厚にさせる。
「この『孤独の世界』があったからカルネロは五賢聖に成り上がれたと言いても過言ではない。だが、それには血のにじむような努力があったに違いない」
「カルネロさんの固有魔法は集団戦において高い効力を発揮すると言う事ですね?」
「まぁそうだ。じゃぁ次は、五賢聖第四席のシャルティア・ナーヴ。彼女は最大十個の大型魔法を同時発動でき、今現在の魔導士の中でも屈指の才能を持っていると言える。そして彼女はその才能を最大限生かした固有魔法を二つ保有している。一つは『リンボ』さまよえる死者の魂に仮の肉体を与え、アンデットとして使役する大型の魔法。これに似た魔法はいくつか存在するけれど、それでも大体は50工程から100工程の魔術工程を必要とし、そこまでしても操れるのは精々一、二体。だが、シャルティアの『リンボ』は200から220工程の魔術工程を必要とするが、最高で百体のアンデットを使役できる」
『リンボ』は云わば召喚系統の死霊魔法。一口に召喚魔法と言っても使役できる物は、アンデット・精霊・妖精・幻獣と様々。中には、自分自身の分身を召喚し、使役する者も。だが召喚魔法は高度な魔法で、使える者は王都中でもシャルティアを含め精々四、五人。等位は第七等位、王族直属の護衛魔導士は第五等位魔法までは使えるが、それ以上は使えない。
「アンデットを呼び出す召喚魔法は、召喚魔法の中でも幻獣を呼び出す者に比べれば、習得はまだ容易な方だな。そして二つ目は、『冥界の檻』対象の魂を魔力で創り出した檻の中に幽閉する魔法だ。魂を抜かれたものは『生きていながら死んでいる』様になる。云わば廃人になると言う所だ。しかし、術者より腕の立つ者や、そもそも死と言う概念が無い者には効果が無い。更に、最大効果対象者は五人と心もとない。この二つの魔法の詳細を聞いて分かると思うが、シャルティアは魔術工程の多い死霊系魔法を得意としている」
死霊系魔法は制約や前提魔術が多いため、自然と魔術工程が多くなる。その数、最低でも50。最大で300工程にも及ぶ、シャルティアは大型魔法で十個の同時発動。魔法に必要な魔術工程だけであれば500工程までは余裕でこなせる。王族護衛魔導士の一人が個人で処理できる魔術工程はせいぜい120工程程度。だが、術者の限界ギリギリの魔術工程の魔法を発動しようとすれば、発動までに時間がかかるようになり、その魔法発動中は他の魔法はおろか、魔術すら発動できなくなる。
「おばあ様は『孤独の世界』や『リンボ』『冥界の檻』の様な他人の固有魔法すらも使えるのですか?」
「そうだ。私の眼は一度見た魔法、魔術の全てを見通す事が出来る。だから他人の固有魔法であったとしても、一度目にすれば発動も解呪すらも自在にできる。まぁ解呪に関しては、私の固有魔法が対抗魔法と言うのも有るんだが。しかし、この事は公表してはいけない。もしも公表すれば、五賢聖と言う砦そのものが崩れてしまうからな」
五賢聖と言うのは何も小綺麗な椅子でふんぞり返っているだけの存在ではない。無法者への抑止力や大型魔法の管理、その他細々とした事務仕事など、することはいくらかある。とは言っても五賢聖の殆どはその仕事をいともたやすくこなし、日がな一日ごろごろしている者も居る。
しかし、その五賢聖でもサミュエルの素性を知っている者はいない。それは、サミュエルの素性が、無限の刻が秘匿されるべきものだからだ。国も公表しなければサミュエル自身も公言しない。よってサミュエルの素性を知っている者は、血縁者を除けば国の、政府のトップ数名のみ。
「話がそれてしまった。それなら次は第三席のティアラ・イヴリース。使える固有魔法は『星々は宝石の様に輝く《ラ・キュベルト・ルナ》』。星や宝石には魔力が宿ると言われている。魔導士が体内で生成する魔力『オド』、大気中に充満している魔力『マナ』そのどちらでもない魔力、宝石や星の瞬きに宿る魔力『オーブ』。その『オーブ』の他の魔力には無い特性を生かすのが『
「第三席のティアラとその双子の兄の五賢聖、第二席のアラン・イヴリースは第四席のシャルティア並みの才能が有ったわけじゃない。彼らは確かにそれなりの才能はあった。だが、五賢聖になれたのは二人の努力が故だろうね」
ティアラとアランは双子ではあるが、性別は違うし、得意とする魔法属性も正反対。ティアラが聖属性の星と光に分類される魔法が得意なのに対し、アランは闇属性の精神干将と幻術を得意とする。顔もさほど似ていないので、二人でいる所を見た者は、こぞってカップルと見間違える程だ。
「そんな五賢聖第二席のアラン・イヴリースの持つ固有魔法は『
「アランさんの物だけ、他の方の物に比べたら地味じゃないですか?他の方も幻術魔法と精神干将魔法を組み合わせれば『
「確かに個人を対象とする『
「大人数相手に発動できる幻術精神干将魔法は確かに強力ですね」
固有魔法は何一つの例外なく強力な物ばかりだ。『全ての属性を併せ持つ物』『どの属性にも含まれない物』本当に様々な物がある。様々な相性がある中でどれが一番と一概には言えないだろう。しかし、それが『対抗魔法』の場合は話が別だ。
「でも、そんな強力な固有魔法にも対抗策はあるんですよね?」
「あぁ、どんな強力な魔法にも対抗策は必ずある。それが対抗魔法だ」
対抗魔法とは特定の魔法発動工程に干渉し、その魔法の発動を阻害すると言う物。基本的には対抗魔法は細い効果対象の魔法にしか発動できない上、制約も多い。更に魔術工程が他の魔法に比べ段違いに多い。その燃費の悪さから、教育機関ではその存在は教えられるが、使い方などは教えない。そもそも教えられたとしても使う者は居ないだろう。
「私の固有魔法の一つも、その対抗魔法にあたる」
「それは、『祖は全てを拒絶する者』ですか?」
「その通り、私の固有魔法の一つ『祖は全てを拒絶する者』は魔法、魔術の発動工程の一部を改変もしくは破壊する事で、術者が予期しない発動ミスを誘発させることが出来る」
『祖は全てを拒絶する者』は対抗魔法の中でも一番魔術工程が多く、その発動に必要な魔術工程は最低でも800工程。最大は未知数だが、シャルティア『冥界の檻』を無効化する事を例に挙げるなら、1200以上の魔術工程が必要だ。魔術工程に関しては優れた才能を持つシャルティアでも、最大で組める魔術工程は500工程ほど、それに比べ五賢聖第一席に君臨するサミュエル・レージスは最大5000以上の魔術工程を組め、100以上の魔法を同時に発動できる。
「そう言えば、おばあ様の正確な実力って・・・」
「私の実力か・・・少なくとも指を鳴らせば国一つは簡単に滅んでしまうからな。全力ともなれば、もしかしたらこの世界を終わらせられるかもしれない」
サミュエルの世界を終わらせられるという発言は、何の確証も無い物だ。だが、彼女が数百年という長い月日を経ても、今尚不完全な研究、それが完全な物となった時。本当に世界を終わらせることが出来るだろう。しかし、それはすぐには果たされない事だ。
「世界を終わらせる・・・ですか?」
「冗談だ、冗談。いくら私でも、流石に世界を終わらせることはできない。まぁ星の一つや二つ消滅させる事は出来るかもしれないがな。だがまぁ、そんな私でも未だに勝てない存在は居る」
「その存在と言うのは、一体」
ステラが不思議に思うのも無理はない。それほどまでにサミュエルは強いのだ。五賢聖の残り四人が手を組んで、サミュエルに戦いを挑んだとしても万に一つも勝つ事は出来ないだろう。それ程までにサミュエルの力は強力なのだ。
「ティアマトだ。文献位は見た事あるだろう?魔法、魔術の類の一切を完全に無力化する特性を持ち、その身に宿した呪いで他者を呪い、強力な炎魔法で魔導士たちを焼き殺す災厄その物ともいわれる呪竜だよ」
「でも、ティアマトは大昔に封じられたんじゃ」
「あぁ、だが十数年前にその封印は解けてしまった。原因は不明、そしてその問題のティアマトの所在も今は不明」
「おばあ様でも勝てないんじゃ、誰がそのティアマトを倒せるんですか?」
誰がティアマトを倒せるか、そんなステラの問いは愚問中の愚問だ。魔導の道を歩んでいく者達、その中でもずば抜けた実力を持つ五賢聖第一席のサミュエルすらも倒せないティアマトを他の誰かが、いや、魔導士が倒せるわけがないのだ。
「この国の軍に所属している戦闘専門の人員は皆魔導士だ。そもそも騎士じゃ魔導士には勝てないからな。その魔導士ではティアマトには相性的に絶対勝てない、つまりはこの世界の最高戦力で勝てないのだから、誰も勝てるわけがないんだよ。っと、もうこんな時間か。ステラ、そろそろ学園に行く準備をしなさい」
サミュエルが魔力時計に目をやると、短針はⅫを指してた。
「今日の授業は昼から魔導実技と自由授業の二限だからね」
「は、はい。準備してきます」
ステラはサミュエルに促され、一階にある書庫から二階の自室に荷物を取りに行く。一方サミュエルは呼んでいた本を閉じ、本棚へと戻す。そして、ティーカップとソーサーを手に取り、書庫と同じく一階にあるリビングへと向かう。
サミュエルがシンクにカップとソーサーを置くのと同時に、階段を駆け下りる足音が聞こえ、その足音の主のステラが肩に子竜のミュウを乗せ、キッチンにいるサミュエルに顔を見せる。
「行ってきますね、おばあ様」
「あぁ、気を付けてね」
ステラは前日同様玄関から飛び出し、肩に乗せたミュウを揺らしながら転移門へと駆けて行く。
そのステラの姿を見送ったサミュエルも、二階にある自室に向かい、昨日と同じデザインのドレスを着て、ジャケットを羽織る。だが、昨日の様に転移魔法を使い学園に行く事が出来なくなった。理由はまぁ、学園長に有った。
学園長は、サミュエルを教員として雇った際に、他教員達にサミュエルの『虚偽』の情報を渡して回っていたらしく。その内容は、『サミュエルが最上級第二等位魔法まで使える』と言う物だ。だが、転移魔法は最上級第三等位魔法。
そもそも、最上級第二等位魔法だって一般の魔導士学校の教員には手に余る。しかし、学園長直々の推薦と言うのも考え、最上級第二等位魔法を使えると言う事にしたのだろう。
サミュエルには、最上級第三等位魔法を詠唱破棄で発動させることが出来る。それ程の実力がある事が知れれば、生徒達だけでなく教員達にも恐怖の対象としてみられかねない。それは学園長の優しさか、畏怖か。
「転移魔法は使えないし。仕方ないか」
魔導師の家:二階バルコニー
二階にある書斎。そのバルコニーに移動したサミュエルは、右手の親指と人差し指を唇に付け、指笛を吹く。すると、どこからその音を聞きつけたか、サミュエルの家の裏にある泉に『それ』は降りてきた。
それは、全身が白い鱗に覆われており、透き通る羽を持つ一頭の翼竜だった。
「やぁ、カルト。久しぶりだな、いつぶりだったか」
「まともに会うのはもう、30年にはなるな。我々竜種にとっては短い時間だが、普通の人間にとっては相当長い時間だ。っと、そう言えば汝は普通の人間では無かったな」
サミュエルに『カルト』と呼ばれた翼竜は、口を開閉させながら、テレパシーの様にサミュエルと言葉を交わす。
彼は、ステラの使い魔となったミュウと同じ竜種で色も同じ白。だが、ミュウは身体中を柔らかく魔力を或程度遮断する体毛で覆われているのに対し、カルトは強固で純白の鱗で翼以外の全身が覆われている。この2つから察せる人も居ると思うが、この世界の竜種・ドラゴンには2種類の種がある。一つがミュウと同じ羽を含めた全身が体毛で覆われている猛禽竜と呼ばれる種。カルトの様に羽以外を鱗で覆われているのは、鱗鎧竜と呼ばれる種。ドラゴンと言えばカルトと同じ種のものを連想する者も多い程メジャーな種。それに対してミュウと同じ猛禽竜種は、鱗鎧竜種と違い人間慣れしておらず、人もあまり関わり合いが無いので広く知れ渡っていない。
そもそもミュウをサミュエルに託したのは誰有ろう、カルトである。種が違えど大きく見れば同じドラゴンには違いない。その為、親の居ないミュウをカルトが育てていたのだが、種が違えば習性や生活環境に違いが出るのは当然の事。その為カルトは、猛禽種に比較的に習性や生活環境の近い人間のサミュエルに預けたのだった。
「それでサミュエル、今回はなに用だ?用もなく我を呼んだ訳ではないんだろ?」
「話が早くて助かる。実は、私と再契約して欲しい」
「ほう、それはまた何か起きるのか?」
「いいや、今はまだそう言う訳じゃないんだ。少しややこしい事になって転移魔法が使えない、それに私が街を長時間歩き回ると面倒な事になるのは知っているだろ?」
「汝の魔力は他の魔導士に比べて圧倒的に膨大だ、無意識に垂れ流しになっている魔力も他と比べるまでもなく多いからな、魔獣を引き寄せやすい。それならなぜ学園で教師として働く事にしたのだ?」
「その事をなぜお前が知っているかは問わないでおこう。あの学園で教師をする理由は・・・まぁ話しても仕方のない事だ。だが魔力の方なら問題ない、この辺りに張ってある結界と同じものを昨日中に張っておいたからな」
魔導士の持つ魔力は、その魔導士が無意識のうちに垂れ流している。その為、一般人が受ければ致命傷になりかねない下級魔法程度であれば、流れ出す余剰魔力のおかげで威力の大部分を削がれる為、酷くとも多少火傷する程度ですむ。
しかし、サミュエル程膨大な魔力を保有していると流れ出る魔力も一般の魔導士の数十から数百倍。そして膨大な魔力は魔獣を呼び寄せる。それを防ぐため、サミュエルは自身の家と学園の周りに特殊な結界を張ってあり、自分の膨大な魔力を悟られないようにしている。
「成程心得た。して、契約の手順はどうする?」
「昔と同じでいい。私の事を、喰え」
「了解した」
カルトはそう言うと、サミュエルを頭から丸呑みにする様に喰らう。これは魔獣と魔導士が魔導契約をする為の契約形式の一つ。契約自体は互いの魔力を混じり合わせれば可能だ。だが、正攻法での魔道契約には様々な障害がある。
まず、魔獣は魔導士の魔力を喰らう事が出来るが、魔導士は魔獣の魔力を食う事が出来ない。それも十分な障壁だが、そもそも魔導士が体内に魔獣の魔力を注入されると、その魔導士の魔力が変質し、魔獣化してしまう。その為、サミュエルは一番安全な方法として、カルトに自身の魔力と共に肉体を喰わせた。更に言うと、ドラゴンとの魔導契約は他魔獣との魔導契約と違い。魔導士の魔力ではなく、存在そのものを変質させる。つまりは、ドラゴンと契約した魔導士は、普通の魔導士ではなくなり、竜魔導士となる。
サミュエルを丸呑みにしたカルトはその姿を光に変え、人の形に姿を変える。光が引くと、そこに居たのは、カルトに飲み込まれたはずのサミュエルだった。
「ふぅ、この感覚も久しぶりだな」
(そうだな、私と一つになれるものはそう多くない。それは私の魔力が一般的なドラゴンと比べ物にならない程の量を誇っているからだ)
サミュエルに話しかけているのは、サミュエルと契約を交わし、その身をサミュエルの中に窶したドラゴン、カルトだ。元の姿の時からテレパスで話していたが、契約した後はその声は契約者であるサミュエルにしか聞こえない。それは、カルトとサミュエルが一つの存在となったからに他ならない。
「さて、それじゃ・・・行くか!」
サミュエルはそう言うと、虚空から背に翼を編み、その翼を広げ、空高く飛翔した。
賢者魔導師と孫娘 小山愛結 @Kanzaki00
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