第6話 僕たちはなんだかんだいって、武者震いしていた。

 おじょーさまと数時間留守番をするだけで報酬額2500Gが支払われるという、 少々いわくつきの依頼を請けた僕と勇者は、さっそく依頼書に書いてある場所を目指して歩いていた。約束の時間まで、まだ余裕がある。

 あまり人口も多くないこの町は、すれ違う人もまばらで、その合間を縫うように歩いていた。ぎゅっと服のフードを深めにかぶって、人にぶつからないように。視線の行き場はきまぐれで、自分の足元と勇者の後ろ姿をいったりきたり。こうしていると、黒い服に黒い髪の僕は、金髪で白い服の勇者の影のように思える。

 歩くのに集中しすぎる僕を気遣ってか、勇者の方も何も言ってこない。しばらく無言で、足を動かす。


 『勇者』と『従者』が魔王城へ行く……。わかっていたことでも、いざ当日になると、心のどこかで緊張がほぐれないのは、お互い様らしい。

 思えば、こうして勇者と町中を歩くのは久しぶりだ。僕達は、田舎の町の外れの家に住んでいる。時折勇者が食糧調達や資金調達のために町に繰り出すくらいで、引きこもりの僕自身は、この町にあまり思い出がない。


"この依頼を完遂して、武器や防具を調達したら、本当に出発なのか……。そうしたら、もうこの町にはしばらく帰ってこられなくなるんだよね"

「ええ、そうですね。ギルドマスターによれば、国としては、この町から魔王城まで往復で1年ほどかかるそうですよ。生きて帰れれば、ですけど」


 いつの間にか、心の声が漏れていた。


”やっぱり、命を落としてしまう人も、いるんだ”

「……まぁ、魔物相手ですから。もし、途中で足が竦んだりしたら、教えてくださいね。僕は、勇者学校で戦いの覚悟だの勇者の名誉だのを、耳にタコができるほど聞かされてここまできてますけど、君はそうじゃない。残るっていう道もあるわけです。尊い、人の命ですから」

”勇者の言ってる意味がよくわからないけど、『先に進むのが怖くなったら、勇者の邪魔にならないようにする。』ってことでいい?”

「僕のことを気にせず、自分の命を大事にしてほしいってことです」

”……うん。ありがとう。勇者こそ、自分の命を大切にしてほしい”

「ふふ、まあ君が言うなら善処します」


 ふと、いつもの買い物ルートから外れた閑散とした路地に、どうしてか視線を奪われ足が止まる。なんだっけ。思い出せずにいると、先を歩いていた勇者が引き返してきた。僕の視線の先に目を遣ると、懐かしそうに呟く。

 

「たしか、このあたりの路地で君がうずくまっていたんですよね、覚えてます? 雨の中、会った日のこと」

”あ……そうか、思い出した……。ここなんだね。あのときは暗かったら、あんまり周りの景色が見えていなかったけど”

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