第4話 出発の儀で、武器と防具を失った
魔王に連れ去られたお姫様を救出するために、勇者や冒険者たちは旅立つ。
これは、ある勇者とその従者の物語。
「そなたたちに、王女奪還の任務を与える! 魔王城から無事に王女を救出した者たちには、褒美を与えようぞ」
城の大広間に集められた人々に向かって王がそう言い放つと、拍手とともに大きな歓声が上がる。
大広間にも入りきらないほどの勇者や冒険者たちが集うため、出発の儀と呼ばれるこの催しも人数を区切って開かれる。もう3度目で、最後らしい。受付で撤収作業を始めていた係員を呼び止めてなんとか受付をしてもらった。
係員の男は非常に面倒くさそうに目を細めながら、困るんですよねぇそういうの…と不満そうにこぼしていたが、勇者が身分証明カードを見せるとその表情は一変し、案内までしてくれた。
勇者と僕は歓声と熱気が収まらぬうちにそろりそろりと慎重に後方の扉を薄く開けた。僅かな隙間に体をねじ込むようにして広間へ侵入し、コソコソと忍び足で人の中に紛れ込む。
周囲の怪訝そうな視線が刺さり、僕は思わず視線を足元へ逃がし身を縮こめた。一方連れは全く意に介さないどころか、暢気に小声で僕に囁く。
「良かった、間に合いましたね」
”あ、ああ。王様の話が長引いてて助かった…”
まったく、どこからその神経の図太さがくるのやら。謎だ。
僕の隣でぼんやりと王様を見つめる金髪の男は、勇者。
豪華な鎧装備もなく、上は白いポロシャツという恰好ではあるが、勇者である。
魔王城へ出かける前には、この『出発の儀』と呼ばれる会へ参加し、王様に謁見することが決められている。
これは一部の地域だけで、ざっくり言うと王都周辺部の勇者とその冒険者が、旅立ちの前に城に出向く。
それによる利点は、売名もあるが、褒美をもらうためには事前に登録しておかなければならないという謎の決まりがあるからだった。
ちなみに、褒美とは、望みを一度だけ叶えるというもの。道徳を外れた突拍子もない願いでなければ大抵のことは叶うらしい。
僕の隣の勇者の願いは、『即死勇者』の称号を『勇者』に改号すること。
そう、勇者には実は2種類あるのだ。
『即死勇者』とは、勇者学校の問題児に付与される人生のレッテル…のようなもの。国から支援されている『勇者』とはかなり生活に落差が生じる。
今勇者がポロシャツにズボンというとんでもなく貧乏な服装でいるのも、その称号のせいといっても過言ではない。
『勇者』には、国から武器や防具が支給されるようになっているが、勇者はそれをもらうことができないし、何よりも国から給料がもらえないため、ギルドなどの施設を介したりして自分でお金を稼がなければ明日の生活も危ういという、ぎりぎりの生活を強いられている。
僕がそんな勇者と共にいるのは、彼が唯一僕の声が聞こえる相手だし、結構頼りになるということがわかっているからだった。
勇者は、『即死勇者』ではあるけれど、とても強い。強いのだ。
どんなに危険な状況に遭っても、奇跡的に帰ってくる、そんな男なのだ。
一方僕は見た目の通りの打たれ弱さで、魔術くらいしか取り柄がないし…運動神経もそんなに良くない。自分の身を守り切れない。勇者にとても助けられている…。
「従者くん、列に並びましょう。大丈夫、君の代わりに僕が喋るので、立っているだけで平気です」
そうして、ひたすら並ぶこと2時間。
さらに個別に呼び出された勇者を待つこと数十分。
勇者は、『即死勇者』だからという理不尽極まりない理由で武器を没収され、手ぶらで戻ってきた…。
「…」
"…勇者、ここまで待遇が悪いんだね…"
「僕も驚いてますよ、まさか旅立ちの日に武器を没収されるなんて思わないでしょう。生きて帰ってこないでほしい…そういう心理が見え隠れしてますね」
ここまでくると、同情する。
…って、そんな他人事じゃない!そんな勇者と一緒に旅をするんだ、僕は!
”武器屋、行こう”
「そうですね、ちなみにどのくらい所持金残ってますっけ。確認してませんでしたね」
”……”
まぁ…案の定、僕たちには武器を買うお金もロクになかった…。
前言撤回して、お金を稼ぎに行かなきゃ、勇者。
まだ旅も始まっていないのに、こんなんで大丈夫なのかな…僕たち。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます