第3話 僕の相棒は、勇者だった。
勇者。そう、僕の相棒は勇者だ。
魔王率いる魔物たちに対抗するために人類が育て上げてきた人材。
今から何千年も昔、北の深い深い森の奥に、突如として漆黒の城が現れた。時刻は昼間にも関わらず夜のように辺りは暗くなり、肉眼でもその異常さがはっきりと認識できる程に大きな赤い月が空に浮かんだという。
その日を境に、各地で魔物が狂暴化し、当時は魔物を避ける術が何もなく脆弱であったために沢山の犠牲が積みあがり、地獄のような光景が広がったという話だ。
後に、その城の主は魔物を統べる王として魔王と、魔王と側近の魔族たちが棲む漆黒の城は魔王城と呼ばれ今でもその名を知らない者はいない。
どのようにして、最初の地獄を乗り切ったのか…?
国王が自分の愛娘を魔王のもとへ遣わせ、戦いを終わらせようと訴えたようだ。
ここについては詳しい文献が驚くほど残っていないから僕の推測だが、訴えたというよりは懇願したのだと思う。
王女が魔王のお気に召したんだかどうだかよくわからないが、とにかく戦いは一時的な終わりを迎えた。
自分の足で魔王城から遠く離れた
勇者と、冒険者の誕生である。
勇者は類まれに秀でた戦闘の才と判断力、そしてカリスマ性をもちあわせた職で、魔王を倒すことができる最有力候補だ。なんでも、勇者学校で特別な教育を受けているらしい。勇者学校は魔王のいない平和な世界の中で一番死に近く、血と汗に塗れて厳しい鍛錬を行い、その果てに人としての枠を超越した力を授かり制御するための施設と噂に聞く。
一般人が易々と入れるところではない。原則として、部外者立ち入り禁止なのだ。僕の相棒は、当時のことを語らないのでその実態は謎に包まれている。
部外者の僕にもわかるのは、国が勇者育成にとても力を入れているということだ。入学後すべての費用が国から補助される。さらに勇者として卒業できれば、将来も末永く安泰だ。そういう、国のお墨付きがもらえるのだ。具体例を挙げるときりがないが、おいおいわかると思う。僕も全部を知っているわけではない。…悲しいことに。
一方、冒険者は国との結びつきがない分自由に行動ができる。勇者学校のような育成施設は、大きな街に数えるほどしかないが、その道を究めている人に教えを乞うて力をつけていくこともできる。自分の特技を生かして戦闘に参加したり、町を守ることに役立てたり、国力の底上げというところだろうか。魔王城へ挑戦する者もいる。歴史に名を残す英雄も冒険者から多数輩出されているのだ。
その強みは、数の多さだ。勇者が一つまみの砂だとすると、冒険者は砂場だ。圧倒的な人数の差がある。
日常生活を営むだけではなく、魔物を狩る能力を得た人間が多いほど、国の自衛力は高まる。
各地に散らばっている冒険者たちのため、ギルドリンクというシステムが構築され、各地で魔物討伐などの仕事を請け負うことが可能となった。大型の魔物に対し大人数の冒険者を、ギルドを中継して派遣できるといった利点が生じる。町を脅かす存在を協力して潰していくことができるほかに、勇者の負担軽減ともなっている。
で、僕は多分…冒険者だったんだと思う。
とても、勇者の器ではない。
僕は、初めて勇者と出会ったとき自分の居る場所がどこなのかわからず蹲っていた。所謂、記憶喪失だ。
今は町にもだいぶ馴染めてきたと思うし、自分の能力の使い方もなんとなくわかってきたところだ。
僕は魔術師。勇者の従者として傍にいる。まぁ…従っているというよりは居候とか…共生とか?
今のところ、確かなことはそれだけ。
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