第3話 折れた剣

「どうせ僕なんか。」

 僕は自分の部屋に帰って来た。そして、今日一日の嫌なことを全て忘れるように、パソコンの電源を入れる。「どうせ僕なんか。」彼の口癖で卑屈な性格が、よく出ている。

「ゲームの世界だけが、僕の世界だ。」

 家族にも、学校にも僕の居場所はない。もし自分が生きていても許される世界があるというならば、ゲームの世界だけだ。ゲームの世界だけが、僕を受け入れてくれる。

「僕は剣物語なら、無敵なんだ!」

 ゲームのタイトルは「剣物語」。世界では「ロード・オブ・ザ・ソード」と言われている大人気のネットゲームである。剣物語は、中世ヨーロッパのような異世界ファンタジー世界で繰り広げられる冒険ゲームである。「剣の数だけ物語がある。この世は剣が全て。剣が最強。」が、剣物語のキャッチフレーズ。


「ギャア!?」

「ギュア!?」

「奥義! 夢想斬り!」

 騎士が簡単に兵士たちを切り倒す。ここはゲームの剣物語の世界。この凛々しくて強そうな騎士が、僕のプレイしているキャラクターである。アカウント名は、ドリーム。彼にとって、ゲームの世界は現実を忘れられる夢の世界であったから。

「矢を放て!」

「まだ、この世界のことを理解していない連中がいるのか。この世界では、剣が最強なんだ! 剣技、ソード・ウインド!」

 無数の矢が一斉射され、空中を飛んで僕を狙ってくる。僕は剣を1回大振りし、剣の素振りの風圧だけで、飛んできた全ての矢を払いのけ、弾き飛ばす。

「魔法ならどうだ! 放て! 魔導士軍団!」

「ファイア!」

「魔法でも関係ない。この世界は剣を極めた者が1番強いんだ! ソード・シールド!」

 無数の火が僕を目掛けて飛んでくる。僕は腕を伸ばし剣を火に向ける。剣は盾のように飛んできた火の魔法から僕を守ってくれる。

「弓も魔法も効かないだと!? この化け物め!?」

「おまえたち、どこの国の者だ? この世界では剣に弓や魔法が勝てないのは、みんな知っていることだ。あ、そうか。定期的に現れるNPCか。そうでなければ、僕に戦いを挑んでくるような愚か者はいないよな。」

「おまえは何者だ!?」

「俺の名前は、ドリーム。」

「ド、ド、ドリーム!? まさか!? あの全世界の剣騎士の1番を決める大会で優勝したという、あのドリーム!?」

 僕は、ゲームの世界では、自分のことを「俺」と呼ぶ。自分に自信があるからだろう。その自信は勉強もしないで引きこもりでゲームばかりしていて、経験値が溜まり過ぎて既にカンスト。他のカンスト者たちとの戦いを制して、僕は剣騎士大会で優勝した。ゲームの世界では僕は1番になることができた。

「お許しください!? ドリーム様!? 私たちはお金で雇われただけの傭兵なんです!? どうか見逃してください!?」

「そういえば助かったり、おまえたちに俺を殺す様に言ったやつは誰だ! なんて言うと思ってるの?」

「え?」

「俺は強いから、誰が襲ってきても大丈夫。だから死んでよ。」

「そ、そ、そんな!?」

「奥義! 夢幻斬り!」

「ギャア!」

「きれいな夢想花だ。俺は、ただ平和に暮らしたいだけなのに。」

 一瞬だった。周囲の傭兵部隊は一瞬で剣で斬られ、全員が斬られて死んだ。切り口から噴き出した血は花のようにきれいに飛び散っている。

「あ、折れた。この世界にも飽きたし、引退時かな。」

 僕の剣が折れた。僕の剣は、この世界で1番強いとされる、オリハルコンの剣。そんな最強の剣でも、鍛えすぎた僕の剣技に耐えることができなかった。強くなりすぎ、誰も戦いを挑んでこない。僕はゲームの世界でも一人。現実の世界同様、僕は孤独を感じていた。

 つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る