第4話 自殺

「どうせ僕なんか。」

 僕は学校の屋上にやってきた。現実の世界では、世間体を気にする両親から疎まれ、優秀な兄や妹と比べられ、学校では、いじめられ、僕に生きる居場所はない。また自分の居場所だと思っていたゲームの世界でも、長年、共に戦ってきた剣が折れた。まるで僕を必要としていないように、さよならを言われたように悲しく感じた。

「僕は誰にも必要とされていない。生きる意味がないよ。死のう。自殺しよう。」

 仲の良い友達もいない。血を分けた家族すら僕を必要としてくれない。このまま生きていても辛いだけだ。死のう。死ねば、僕の罪も許される。僕の罪? 生まれてきたことかな。僕なんかが生まれてきて、ごめんなさい。

「さようなら。」

 学校の屋上から飛び降りる。空虚な僕だが、礼儀正しく最後はお別れの言葉を述べた。瞳を閉じて、落下する体が地球の重力を感じる。ああ、僕はこのままミンチになって死ぬんだ。悔いの気持ちはなかった。ただあったのは、生きることを諦めた気持ちだけだったのかもしれない。


「救世主だ!? 救世主が現れたぞ!」

「おお!」

「いたたたた。ここはどこだ? 僕は死んだはず。ということは、ここはあの世?」

「救世主様! 万歳! 万歳! 万々歳!」

 僕の周りには、たくさんの人々がいた。誰もが僕のことを「救世主」と称えている。確かに自殺した。学校の屋上から飛び降りた。ここは天国? それとも地獄?

「皆の者! 静まれ! 姫の召喚の儀式により、救世主様が現れた。これで、この世界は邪悪なる者から救われるだろう!」

「おお!」

「救世主! 救世主! 救世主!」

 人々は僕を見て喜び叫んでいる。な、なんだ!? この光景は。どこかで見た様な、見ていないような。その時、この光景を僕は、ハッと思い出した。

「同じだ!? 剣物語のオープニングと!?」

 だから僕は見た記憶があった。僕が生前、プレイしていたネットゲーム、剣物語のゲーム開始時のオープニングと同じである。ゲームのプレイヤーは救世主として、異世界に召喚される。その話の展開と同じなのである。

「剣物語には、伝説の騎士の言い伝えがある。邪悪なる者が現れ世界を闇が覆いつくそうとする時、剣騎士が現れて、邪悪なる者を倒す、と。だからプレイヤーは救世主と呼ばれ、人々から神の様に称えられる。ということは、僕は救世主!?」

 なんだ!? 本当にゲームの世界にいるみたいだ。天国でも地獄でもなく、人は死んだら、ゲームの世界に行くのか!? まさか!? これが異世界転生というやつか!?

「違うな。おまえは死んでいない。」

「え?」

「おまえが飛び降り自殺をしようとして、地面にぶつかって死ぬ前に、私が、この世界に転移させた。」

「さ、佐藤美姫!?」

 僕の目の前に、一人の女が現れた。その女はクラスメートの高嶺の花、佐藤美姫だった。なぜか服装は、ドレスアップされている。

「姫様の御成!」

「ひ、姫!?」

 剣物語の中では、佐藤美姫は姫であった。

 つづく。

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