瞬きストーリー(ルール)

つばきとよたろう

第1話

お見合いパーティーで、広い会場の楕円に並べた、向かい合わせの椅子に座った参加者へ、司会者がお箸を持つ方へ移動してくださいと言ってしまったのは、痛恨のミスだった。数人がぶつかり、転倒して怪我をした。



危険ですから、白線の内側までお下がりくださいというアナウンスと共に、一人落ちた。



威嚇射撃の弾丸が、警官を脅かす。



三秒ルールを適応する奴が居るらしい。



キスに、三秒ルールは有効なのか聞いてくる。



怖い話をした後、緊張のあまり隣の人のロウソクまで吹き消してしまった。ぎゃーと隣から叫び声が聞こえてきた。



ロウソクの代わりに、電気を消したり点けたりしていたら、スイッチを押しても明かりが点らなくなった。



百本だっけ、九十九本だっけ? 


途中で、ロウソクが燃え尽きる。


朝までに終わりそうにない。




母ちゃんは、ゴミ出しだけは厳格だ。


いつもゴミ出しは、叱られる。


そんなルールも分からないのか! 正直に答えると殴られる。


黄色は加速ではない。点滅はダッシュでもない。


可愛い女の子を見ていただけなのに。


一字下げて見る。戻して見る。


母ちゃんには、そのルールは適用されない。


月曜になると、必ず野良犬がゴミ置き場に捨てられている。


カラスも捨てられている。



父は折檻しながら子供に、俺のやり方が気に入らねえなら出て行けと怒鳴ったら、母が荷物をまとめて出て行った。夕食の時間になっても、母は帰ってこなかった。


夕食は五時と決めている。早過ぎると言った友人に、それは夜食だろうと答えている。


食べる順番は決めている。最後に好物を残しておく奴に、苛立つ。


主食を中心に、順々に副食を食べると教育された。守ったことはない。


残してはいけないと法律では決まっていない。全て食べても、ただ太る。


コース料理の前菜が運ばれてきたとき、彼は全ての料理が揃うまで、箸を付けなかった。


末っ子は、学校でもみんなが食べ終わるまで待っている。


彼は給食に銀のさじを持参する。


お店で買ってきた同じケーキを、真剣に選んでいる。粘って後悔する。


箱入りのチョコレートを選別する。世の中に平等はないと悟る。




母は外車に乗ると、必ず大事故を起こす。


年齢順に並んで下さいと、市の職員が呼びかけると、小さな子供たちを押し退けて、老人が前へ出た。


仕事は残っているが、五時には必ず退社する。


今、始末書を書いている。


女子トイレに入りそうになる。


三秒ルールは、日本の法律と一致しない。


このアパートでは、トイレは三分、夜八時以降は風呂に入らないと、壁ドンによって決められている。


十時以降は、トイレも禁止されている。


上の住人に、キーボードを使ってはいけないと決められている。息をしてはいけないという隣の壁ドンには、まだ屈していない。


母ちゃんは、隣には誰も住んでいないと言っている。



カレーに入れるのは、ルーである。


カレーライスとハヤシライス、どちらかが校則を破っているわけではない。



鳩は増える一方だ。


雀は飛び方を忘れた。


タバコが街中を何食わぬ顔で歩いていた。


靴下の右と左が分からない。


母ちゃんの後に、街人が滞る。


パフェの作法は、習っていない。


スキップは、何秒ルール?


自転車は、どこを走ればいい?


部屋で全裸は通報される?


どこまでが部屋?



割り箸は、親指と人差し指の間に挟んで割る物で、決して手刀で真っ二つにする物ではない。



その店の頑固親父は、店のルールに従わない客は平気で追い出すが、家では母ちゃんのルールに逆らえない。



卵を落とし、かき混ぜるのか。醤油を垂らしてからなのか。まだ法律で定められていない。だから、いつも掛け過ぎてしまう。


俺の知らないところで、様々なルールが決まっていく。


死んでもルールに縛られる。


死体は燃えるゴミ、燃えないゴミ? (分かってます。言いたいことは、分かってますから。俺の場合、俺の場合だから。ゴミ屑みたいな俺の場合だから)



遺体は燃えるゴミ。(俺の場合)







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瞬きストーリー(ルール) つばきとよたろう @tubaki10

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