第3話 腕時計
十一月二十日(土)
──十六夜堂、よく覚えていますとも。いや、意識せざるをえない、といえばよいのでしょうか。私はそこで、この腕時計を買ったのですから。
いつ、どこで、ですか。……実は、はっきりとは覚えていないのです。ご協力できず申し訳ない。ただ、店員は高校生か、大学生程度の女性だったかな、というのだけは覚えております。ええ、私も男なもので。美しい女性のことはなかなか忘れられませんね。
……さて、この腕時計の話でしたね。この腕時計は、「付けている者の寿命が分かる時計」なのです。ふふふ、信じられないでしょう。しかし、これを見て下さい。文字盤には年、月、日、時、分、秒──これだけならば普通のデジタルの腕時計ですが──この数字が減るのです。ほら、今も減っているのが分かるでしょう?
………ええ、もう“年”はないのです。“月”もほぼありません。医者に行きましたが、健康そのものだと診断されました。ならばこの時計の数字が0になったとき、私は事故にでも遭うのでしょうかね?
………信じているのか、ですか。半信半疑、といったところでしょうか。人は皆いずれ死ぬのでしょう。私はその時期を知ることが出来たのです。人によっては不運かもしれませんが、私にとっては悪くない出来事です。ええ、日々を後悔しないように過ごすので精一杯なのです。両親もおらず、親戚筋をたどれるのかも分からない私にとっては、死ぬことはあまり重く見えないのかもしれません。
………ああ、でも。もし、もし私が生きていたことを後世に残せたのなら、私はとてつもない幸せ者でしょうね。これがその記録になるかもしれませんが。
一月二十二日(金)
今月二十日、○×町ニテ、■■■■氏(48)ガ池デ溺レテイルノガ発見サレタ。関係者ニヨルト、事件性ハナク、恐ラク前日ノ雨デ足場ガ悪クナッテイタトコロデ滑落シタノダロウ、トノコト。…………。
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