ルール オブ ザ ゲーム

亜未田久志

さあ戦え


「さあ始まりました『ルール・オブ・ザ・ゲーム』のお時間です!』

 バニーガール姿の司会者がマイクを持って高らかに宣言する。

 フェンスに囲まれた広場の周りには観客席。

 そこには満員の人々がひしめき合っていた。

『今回のチャレンジャーはこの方! 五十畑耕司いそはたこうじさん!』

 ワァーッと完成が上がる。

 拍手が鳴り響く。

 しかし、それに反して現れたのはスーツ姿の冴えないサラリーマンといった風情の男性だった。

「クソッ、なんでこんな事に……!」

『そしてー! 我らがチャンピオン! ジャック・サンダース!』

 ウオオオオッと先ほどとは比べ物にはならないほどの歓声が沸き起こる。

 地響きかと思うほどの興奮の嵐、拍手の音が洪水のように降り注ぐ。

「アイアム。チャンピオン! ヘイ、チャレンジャー? ワタシはニホンゴも話せるから安心していいヨ! HAHAHA」

 マントを羽織った金髪の大男ジャックが現れ、五十畑に向かってそんな事を言う。


『さて、改めてルール発表をしましょう、やる事は極めて簡単。互いに会話して相手からNGワードを引きだした方の勝ち! 互いのNGワードは相手のモノだけが分かっており、自分のNGワードは分かりません!』

 五十畑は自分が持つジャックのNGワードを確認する。

『リンゴ』

(クソックソッ、普通過ぎて逆にどう相手に言わせていいか分からねぇ!)

「さあコージー? 黙っていては観客の皆さんが冷めてしまいますヨ!」

「わかってるよ!……なあ、アンタ歳は?」

(とりあえず普通の会話から糸口を掴む!)

「トシ、ですか? 今年で21にナリマース!」

「若っ!? 俺より十も下じゃねーか!?」

「どうしました? 若者の命を奪うのは惜しいとか考えてます?」

「今更そんな事……っ!」

「デスヨネ! 互いにウラミッコ無しでいきましょう」

 その時、五十畑に天啓としか言いようのない唐突なひらめきが思い浮かぶ。

「ああ、せっかくなら仲良く戦おうぜ、例えばあだ名とか付け合うのはどうだ?」

「ふむ、あだ名ですか、イイデショウ! どういう風に呼ばれたいですか?」

「イソリン……ってよく呼ばれてたんだ」

「イソリン! HAHAHA 良いですネ! 私の事は、そうですねぇ、ワタシ実は、日本の名前も持ってるんですヨ、田中一郎ってイイマース。だから、そこから取ってイチと呼んでクダサーイ!」

「ああ、イチだな、分かった、互いに話しかける時は名前を必ずあだ名を呼ぼう」

「賛成デース。おっと、賛成デース、イソリン」

「イチ、呼び合うんだ、話す時は一番最初に名前を付けよう」

「イソリン、勝負を急ぎすぎデース、もう少し楽しみマショウ?」

 冷や汗が浮かぶ、あと少しで届くというのにルートが思い浮かばない。

「イチ、お前、家ではどんな暮らししてるんだ?」

「イソリン、暮らしですカ? そうですネ、一人暮らしですネ」

「イチ、き、奇遇だな。俺もだ」

「イソリン、ではゴミ出しとか自分でしなきゃですね!」

「イチ、g」

(ちょっと待て、まさかジャックの持つ俺のNGワードは!?)

 ゴミ出し、生活の話題から引き出そうとしていた五十畑。

 それを先に出されチャンスかと思い、話を掘り下げようとした瞬間だった。

 何故、急にゴミ出しの話を。

 何故、俺と同じルートを。

 アイツの指定した無理のありすぎるあだ名「イチ」つまり、五十畑のNGワードは。

(『イチゴ』か!? クソッ、分かったのはいいがこっちの戦略を逆手に取られて危うく言いかけた! 落ち着け、相手だって自分のNG ワードは分かっていない。まだ何とかなる)

「イチ、がゴミ出しするところなんて想像できないな」

「イソリン、私だってゴミ出しぐらいしますよ! HAHAHA!」

(どうする、こっからどうする……!)

「イチ、いつもゴミ出ししてるのか?」

(何を言ってるんだ俺は!)

「イソミ出しは日にちが決まっているモノでショウ?」


(…………あっ)


 勝った、五十畑は賭けに勝った。

「イチ、NGワードだ」

 五十畑は懐にしまっておいたNGワードの記されたカードを取り出しジャックに見せつける。

「そんな……オーマイガー! アリエナイ! ワタシが負けるなんて!」

「どうせお前も一日限りのチャンピオンなんだろ、観客席から何度もチャンピオンが入れ替わるのを見てた俺には分かるよ」

「イヤデス! 死にたくない!」

「俺だって死にたくないさ、でもこれがルールだ」

『新チャンピオン五十畑耕司の誕生だー!』

 会場が熱気で燃え上がる。

『あと五回、勝てば賞金百億円! さあ新チャンピオンは五回防衛達成なるかー!?』

(多分、無理だろうな)

 五十畑は他人事のようにそんな事を思う。

 こんな賭け分が悪すぎる。

 観客席にいていつかあの舞台に立つと願っていた自分が恨めしい。

 汗が止まらない。

 だが一度、参加してしまったら、途中棄権は許されない。

 それもルールだ。

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