第21話



 不気味なほど静かで広い屋敷に迷いながらも、何とかリアのいる部屋を見つけた。ドアを開くと、真っ先に血の匂いが鼻をついた。豪華絢爛なシャンデリアの輝きの下、血濡れの滑らかな床に彼女は倒れていた。

「リア」

 私は慌てて駆け寄った。ことは終わったあとらしかった。顔や腕の打撲の跡はひどく服は血まみれだったが、幸い体に切り傷や出血はなく、赤子のような健やかな寝息と、穏やかな心音が聞こえてくる。彼女は電源の切れたチェーンソーを大事に抱え、オリビアの無残な死体の隣で、ぐっすりと眠りについていた。

「よかった……」

 とにかくこんなところからはさっさと逃げなければ、とリアを抱えようとした時、背筋にぞっと悪寒が走った。背後を振り返ったが、そこにはやはりアヤセしかいない。しかしアヤセの態度は、先ほどから見せていた陽気で怠惰なものからは一転していた。

「どうしたんだ……?」

 突然のことに思わずそう聞いたが、答えは返ってこない。

「へえ」

 目の前の化け物は、リアの姿を見て、ただおどろおどろしく笑っていた。手錠を引きちぎった時のような恍惚感に満ちた笑みでは決してない。瞳孔は開き、禍々しくつり上がった口の端は、ユウのそれともアヤセのそれとも、全く似ていないように感じた。私はゆっくりと唾を飲んだ。

「お前は、今度は……誰になったんだ?」

 その問いにも彼は答えなかった。私の存在など気づかないような、リアに全ての意識を持っていかれているような、凶悪な笑みには似合わない虚ろな目で、こう呟いただけだった。



「やっと、会えた」


 

 

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