第13話



 フェリスの咳払いが聞こえ、渋々また目を開けると、今度は痩せぎすの男が口を開く。

「ほ、ほ、ほ、本物は、とっても、可愛いんだね、リアさん。よ、よく、似合ってる、その、拘束」

 吃音の彼は私を指差して、こちらの目をきついくらいににらみつけながらそう言った。

「に、にん、人形さんみたいだ」

 少しも嬉しくなかった。

 こちらを見つめながらふ、ふ、ふ、と不気味に笑う男から静かに目をそらし、床を見つめた。磨き抜かれた床はまるで鏡のようで、こちら側の風景がくっきりと映り込んでいた。

「ぼ、僕、僕はね。君と暮ら……暮らしたいんだ。だって今、君は、どこの馬の骨とも知れない、こ、殺し屋の男と、暮らしてるんだろ? だったら、僕でも、構わないだろ? お金はあるよ。い、一生、不自由しないほど。ほんとだよ。ね、だから……」

「もういいわ、ロナルド」

 フェリスがあしらうようにそう言うと、ロナルドと呼ばれた彼は話すのをピタリとやめた。期待と不安に胸が張り裂ける寸前の人がそうするように、はあはあと息を荒げる音はしているが、これ以上言葉を紡ぐ気配はない。まるで厳しく躾けられたペットのようだ、と私は思う。

「彼はロナルドといって、私の古くからの友人なの。貴方のことを心底欲しがってる。ある意味では幸福な事よ。彼は貴方を愛してくれるでしょうから。少なくとも殺しはしないはず……大人しく付き従っている限りはね。でもほら、貴方はそれが得意なのでしょう?」

 パチン、と指を鳴らす音がし、今度は水色の髪の少女が前に出てきた。彼女の手には見知った武器が握られている。まだ真新しく、色もオレンジではなくビビットピンクではあるが、それはいつか解体屋と名乗った青年の持っていたものとよく似た、土木工事用のチェーンソーだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る