鴛鴦
愛されたいと、思ったことはありますか。
鴛鴦火鍋、というのは、ひとつの鍋をふたつに区切る様子が睦まじい鴛鴦のようだからだという。赤と白のスープはなるほど、目前のシンプルなシャツを着た白髪の夫と、真っ赤なカシュクールワンピースを着た妻を彷彿とさせた。
「……美しい問いですね」
操は黙って、薄い羊の肉を湯にくぐらせた。返事が来ようが、はぐらかされようが、その端正なかんばせは湯気の向こうで人形じみた白さを保っているように見えた。
「ありませんよ」
くたくたに煮た葱を白湯からすくって、淡々と睿は答えた。低く、ともすれば店内のざわめきや鍋の煮立つ音に紛れてしまいそうな囁き声だったが、操は手を止めた。
睿は薄い唇を引いて、笑みの形を作る。操は眉ひとつ動かさず、氷の割れるような表情の変化を見つめている。
「愛されたいなんて、人間の考えることでしょう」
その微笑は自嘲だったのか、それとも。
尖った獣の歯の先端が、白い繊維を噛みきった。
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