第44話 だいたいどこの世界に妹にメロメロになる兄がいるんだよ

 自室。


 執筆活動に励んでいると、妹がの二三が急に押しかけてきた。


「なあ、二三。

 下着と言えば『ビキニ・アーマー』を連想させる言葉だよな。

 よく『下着のような鎧』と訳されることも多いよな」


 俺は頭の後ろで手を組んで、椅子の背もたれに体重を預ける。


「相変わらずお兄ちゃんは、バカなことばかり言ってるのね。

 だから友達ができないのよ。もっと役に立つ知識を身につけるべきよ」


「うるさいな。二三には関係ないことだろう。俺は独りでいるのが好きなんだよ。

 だいたい人のことを、とやかく言えるほど『コミュ力』高くないだろう」


「そんなことないもん。

 ネットの世界なら『友達』たくさんいるもん。

 お兄ちゃんよりも『コミュ力』高いもん。

 ワタシのカリスマ性を知らないからそんなことが言えるのよ」


「オンラインで友達が多いからって自慢しやがって、全然……羨ましくなんてないんだから……な」


「そう言えばお兄ちゃんって、オンラインでも友達が少なかったわよね。

 ネットの世界でも失敗した『負け組』だったわね」


「俺は孤高のソロプレイだからな。群れるのは嫌いなんだよ。

 ゲームは独りで楽しく、静かに遊ぶモノだろう。

 それが俺の流儀さ」


「お兄ちゃんって、いろいろと残念だよね」


「ざ、残念って言うな。悲しくなるから~~~ヤメテ……マジでえええ」


「ヒメちゃんはなんで……こんな……ダメダメヒトを……好きになっちゃったんだろうな。お兄ちゃんの魅力ってなんだろうな。妹のワタシには、わからないな」


「それは俺も不思議に想っていることなんだよな。

 なぜ理沙は、俺を選んだのか? 

 もっといい男なんてたくさんいると思うんだよな」


「お兄ちゃんのそういうところに惹かれたかもしれないわね。

 裏表のないところというか? あまりガツガツしてないところかな」


 照れた表情を浮かべて


「あと一緒にいて楽しいし、飽きないのよね」


「それは理沙も同じだと思うな。一緒にいて、何かと楽しいからな」


「案外似た者同士なのかもしれないわね。

 相思相愛か? なんかそういうのいいなぁ、ラブラブな感じでぇ。

 ワタシも早く理想の王子様に出会いたいな。

 ところで、お兄ちゃんの部屋って『漫画』とか、ゲームがたくさんあるわよね」


 俺の部屋を見渡しながらそう叫んだのは、妹の二三だった。


 最近は外で遊ぶことが多いため、健康的に焼けた肌は小麦色で、まるで太陽の匂いがした。


 そして彼女が身につけているのは神事の時に着る服『巫女装束』だ。


 歴史を感じさせる年代物の着物と帯。


 髪型は『結綿ゆいわた』だ。


 清潔感漂う白衣を鮮やかな紅色の襦袢じゅばんの上から折り目正しく羽織り、緋袴ではなくミニスカートを穿いている。


 全身から放たれるのは神々しいまでの清楚感。


 神職である巫女が纏う服にしては少し肌の露出が多く淫靡な感じの装いだな。


 そしてなりよりも注目するべきは首元を飾る可愛らしい『鈴』である。


 また色気も十分な太腿のつけ根から、白いタイツで引き締められた脚線を丁寧になぞり、こうして見れば脚の比率が長く、スタイルのよさに納得ができるな。


 常にヒトを惹きつける天性の魅力に溢れているな。


「まあな。魅力的なキヤラクターの作り方や物語の面白さを学ぶのに、漫画は非常に良い『教材』だと聞いたことがあるからな」


「ふ~ん。そうなんだ」

 

 二三は今、本棚を眺めているのだが、どうしてだか後方にお尻を突き出すような格好をしている。


「なんで、さっきからへっぴり腰なんだ……ぱんつ、見えてるぞ」


 女の子の一番大事な部分を隠した柔らかそうな薄布の鼠蹊部そけいぶが見え。


 康的な肌に映える可愛らしい下着で、思わず注視してしまう。


「お兄ちゃんに見せてるんだよ。

 好きでしょ? パンチラ。

 色は淡いピンクだよ」

 

 彼女は振り向き、俺を見て僅かに声を上げた


「そう言えば巫女装束や着物などを身につけるときには、下着をつけないという噂を耳にしたことがあるんだけど、あれは本当のことなのか」


「ヒトによるじゃないかしら? 

 ち・な・みにワタシは『つけない派』よ」


 小首をかしげ、上目遣いで俺のことを見つめてくる。


 無意識なのかもしれないが俺は、このポーズがたまらなく好きだ。


 だが、それを妹に知られるのは、照れ臭いし、兄としての威厳にもかかわるので


「ウソをつくな」


「お兄ちゃん、こういうの好きでしょ? 萌えちゃんでしょ?」 


「だ……誰が妹に萌えるかっ!」


「え~? だって先々週の水曜日、巫女装束姿の幼馴染が出てくる官能小説で自家発電してたよね、お兄ちゃん」


「なっ……なな、なにを、なにを言いやがるんだっ」


「先月の終わりころにも、ミニスカ巫女服にニーソの女優が出てくるアダルトビデオでハァハァしてたし」


「ぎゃあああああ」


 どちらにも覚えがあったので、つい変な声をらしてしまった。


 思春期の男の子なら、官能小説の一つや二つは読んだことがあるはずだ。


 もちろん、AVにも興味があるはずだ。


 健全な男子としてはむしろ……誇るべきだっ!


 「別に、責めてるわけじゃないんだよ? 男の人って愛する奥さんや恋人や『妹』がいても下半身は『別の生き物』だって、一応理解してるつもりだし」


「今、なんか妙なこと言わなかったか」


「お兄ちゃんが血の繋がった実妹に欲情しても、ワタシはヘンな目で見たりしないよ。だからねぇ、結婚しよう」


 どこからともなく白い紙を取り出しが迫ってくる。


 距離が近づいたせいか、ふんわりと桜の花のような甘い香りが俺の鼻腔をくすぐり、体温が上昇した。


「じゃあとりあえこれにサインして」 


「するかっ!?」


 いきなり婚姻届を出してきやがった。


 まったく油断も隙もあったものじゃない。


「えっ!」


 ネコみたいに大きく見開かれ、妹は驚きの声を上げ、たわわに実った胸がぷるんと揺れつられて視線が上下してしまう。


「なんで……今の話のながれなら間違いなくOKだと思ったのにーー」 


「だいたいどこの世界に妹にメロメロになる兄がいるんだよ」


「ワタシの目の前にいるけど?」


「いつ俺がメロメロになった?」


「もう照れちゃって」


 クスクスと可愛らしい唇に指先をあてて笑う。


 そう言って、はにかむ妹の笑顔にドキッさせられるがっ!?


「その前に法律の壁が立ちはだからな」


 俺は諭すようにできるだけ優しく、きわめて冷静に答えると。


 二三は決して歯を見せることはなく、蠱惑的こわくてきな笑みを浮かべて。


 わざとらしくスカートの裾を翻して、迫ってくる。


「まったくお兄ちゃんまで、そんなつまらないことを言うんですか」

 

 耐え切れず視線を反らすと、睨めつける目に一層の力が加わったのが分かる。


 思わずたじろいでしまう。


 笑って誤魔化そうとしたが……無理だった。


 一気に距離を縮めてくる。


 弾力のある胸元が押しつけられる。


 俺に腕に妹はぎゅっと抱きついてきた。


 その無邪気さに、思わずときめいてしまう。


 幼さない少女といったイメージがぴったりあう無垢な少女なのだが、こんな至近距離だといろいろとさすがにマズイ。


 これはシャンプーの香りだろうか?


 ほのかに甘い芳香ほうこうが鼻をくすぐり。


「もうお兄ちゃんたら顔を真っ赤に染めちゃって本当にかわいいわぁ」


 鼻血が噴き出しそうになり、慌てて片手が鼻を押さえ


「妹に欲情するわけないだろう」


 さらに二三は小悪魔的な笑みを浮かべて


「愛さえあればなんとかなりますよ! お兄ちゃん♥」


 耳もとでふぅ~と甘い息を吹きかけてくるので、反射的に 


「なるか! しれっとした顔で、婚姻届を突き付けてる来るな。

 執筆活動の邪魔だからもう帰れ」


 俺は叫び声を上げ、婚姻届をビリビリに破り捨て、妹を部屋から追い出した。


 するとスマホが鳴り、妹から電話がかかってきた。


【今日のところは、おとなしく引き下がってあげるけど、まだワタシは諦めたわけじゃないからねぇ。絶対にお兄ちゃんと結婚するだから】


【まあ頑張って女を磨くことだな。

 圧倒的に『女子力』が足りてないからな。

 一から花嫁修業をやり直した方が良いぞ】


【そんな余裕ぶったことを言っても、ワタシ知ってるんだから。

 お兄ちゃんは大人の女性よりも、ちっちゃい女の子の方が好きだってことを】


【まあ、それについては『否定』はしないけどな。

 だが俺に『妹属性』はない】


【相変わらずお兄ちゃんは素直じゃないわねぇ。

 まあ、今日のところはこれくらいにしておいたあげわぁ。

 愛してるわお兄ちゃん♥】


 電話はそこで切れた。


 末恐ろしい……とは……まさにこのことだな。


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