第24話 井上さんって、こんなところでもバイトをしていたのね

 お帰りなさいませ、ご主人さま、お嬢さまと書かれた簡易メニュー台と、カラフルなポスターや、イラストなどが貼られた自動ドアをくぐり抜けて、店の中に入ると。


「お帰りなさいませ、ご主人さま、お嬢さま。何名様で、ご帰宅でしょうか?」


 流れてくるアップテンポな音楽。


 そしてフリフリの黒を基調としたメイド服を着た女性が声をかけてきた。


 彼女の名前は、井上いのうえ あや


 フレームレスの丸いメガネに、2本の3つ編みお下げという、まるで絵に描いたような典型的なクラス委員長のスタイルのクラスメイトだ。


 彼女の家は母子家庭で、いくつものバイトを掛け持ちして、偶然立ち寄ったコスプレ喫茶で、ウエイトレスとして働く彼女と出会った。


 そのコスプレ喫茶の制服は、パフスリープの黒いワンピースと胸を強調する純白のエプロン。

 

 エプロンは、短すぎて機能を果たしているとは、思えなかった。


 白のニーソックスとブーツで、胸元を飾るリボンはない。


 上半身は古典的な雰囲気を醸し出しているが、スカートはかなり短めで現代風にアレンジされていた。


 髪飾りは、リボンで可愛らしく飾られているタイプのホワイトブリムがいかにもメイドらしいな。


 ちょっとえっちな『制服』を目当てで店を訪れる『客』も少なくない。


「井上さんって、こんなところでもバイトをしていたんだ。

 やっぱり時給がいいからかな?」


「ええ、そうよ。貴方達はデートかしら」


 氷のように冷たい、まさしく怨敵を見るような視線とともに、感情を押し殺した声が、俺の心の奥底を抉り。


「姫川さんとは、そういう関係じゃないんだ。

 今日だってぇ『取材』に付き合ってもらってるだけなんだ。

 だからこれは『デート』じゃないんだ」


 冷や汗を掻きながら、全力で否定した。


「ええ、彼の言う通りよ。

 これはあくまでも『取材』だから。

 勘違いしないでくださいね」


「もう、恥ずかしがっちゃって、カワイイだから」


 そこでいきなり理沙の両手が素早く、メイド服のスカートを捲り上げ、健康的な太股が目に飛び込んできた。


 しかもスカートの下に穿いていたのは、もはや絶滅危惧種となった『紺色のブルマ』だった。


 あまりに唐突な出来事に『井上さん』は言葉を忘れ、俺も唖然と瞬くことしかできなかった。


 そして数秒差で我に返った『井上さん』は、慌ててスカートを押さえ、顔をボッと赤くする。


「私、スカートめくりって一度やってみたかったのよね」


 ーー天然お嬢様は何を考えているのか? 全然わからないうえに、予測不能な行動をとりやがるぜ。


 井上さんの反応を見て満足したのか? 


 姫川さんはとてもいい笑顔を浮かべながら、何事もなかったかのように話し出す。


「ここってそういうお店なんでしょ」


「なわけないだろう」


「ええ、そうなの?」


 切れ長の瞳に浮かぶ動揺の色がハッキリと見て取れる。


「もう、2度とやるなよ」


「そういうことは、もっと早く言ってほしかったわ。

 おかげで、恥をかいてしまったわ」


「ちょ……ちょっと待って、いったん落ち着こう、なっ、理沙」


 凛烈りんれつに研ぎ澄まされた気品ある顔立ちを一切崩さず。


 何段ものレースがあしらわれたスカートから、くりだされる蹴りは強烈で! 鋭く。


 なぜだが……俺に対して……物凄い勢いで攻撃を仕掛けてくる。


 これはもはや完全に八つ当りじゃないか?


「落ち着いて話し合えば、わかりあえるはずだ」


 窓際に追い詰められた丁度その時。


 強い風が吹き抜け、理沙のスカートを捲(まく)り上げ。


「きゃあ」

 

 可愛らしい悲鳴が店内に響いた後。


  真っ赤な顔で、今さらのようにスカートの裾をぎゅっと引っ張る。


「エッチ!? スケベ!? ヘンタイ」


 すらりと伸びた綺麗な脚から強烈な蹴りがくりだされる。


 間近に迫る白く柔らかそうな太ももに挟まれたい思いながら、その蹴りを受ける瞬間。


 可愛らしいお尻を包む縞パンが目に飛び込んできた。


「目つきが厭らしいわ。この変態!? 色欲魔。エロカッパ」


 さらに膝を覆い隠すと同時に、艶美さを見せる紺色の靴下と相反する上品そうなハイヒールが相まって、俺の心を震わせた。


 その蹴りを左肘で受け止め。


 素早く関節技を決める。


 何十回も理沙の蹴りをうけ続けてきたからこそ、できた芸当だ。 


「えっ! ウソ。ほんとうに全然身動きが取れないわ! もう最悪」


 あられもない姿をさらしてしまった彼女は、羞恥で顔を真っ赤に染めると同時に、屈辱的な姿をしいられている、自分に対しての悔しさもにじめ出ていた。


「ふふっ、二人とも仲がいいのね。空いている席に、案内するわ」


 笑顔ともに手近にあるテーブルへと案内してくれた。


 頭の天辺から足の爪先まで、きちんと神経の通った、まるで隙のない動きで、モデルを歩きというよりは、どっちらかと言うと『武芸の達人』を思わせるウエイトレスだな。


 何か? 格闘技でもやっているのかな?


 指示された通りの席に俺たち座る。


「ご注文がお決まりになりましたら、そこのベルでお呼びください。

 ごゆっくりしていってくださいねぇ♥」


 メニューを置いて、丁寧にお辞儀をすると、にこやかな声とともに井上さんは、カウンターらしきところへと戻っていった。


 ピンクやクリーム色などを基調とした店内は、教室と同じくらいの広さで、照明の柔らかさもあってか? 全体的に落ち着いた感じの造りになっているな。


 奥に方には何やらステージのようになっている場所があり、壁の部分には巨大なスクリーンが設置されている。


 スクリーンの中では大勢のメイドさんたちが、歌って、踊っていた。


 純白のエプロンドレスを纏った清純派メイドさんや、小悪魔系ゴズロリメイドさんや、猫耳系セクシーメイド服などなど……。


 実に多彩で、バリエーションが凄いな。


 その中でもひときわ輝いているのは、頭に乗せた猫耳のカチューシャは、彼女の髪に合わせた金色のモノで、一見しただと本当に猫耳が、生えているように見え。


 髪型も長いウェーブヘアをツインテールに結び。


 猫耳と合わせて俗に言う『萌え』の要素を盛り込まれていて、上着は胸の膨らみがピッチリと浮き出たタイトなデザインで、肘までを覆う黒い手袋に、ヘソも両肩も丸出し状態で、一番注目するべきは、首元を飾る可愛らしい『鈴』だ。


 そして背中のコウモリの羽根が、チャームポイントだな。


 スカートも、もちろん超ミニサイズで、その前にあるエプロンでよりも丈が短い。


 リングガーターと黒ストッキングが演出するコントラストが鮮やかで、彼女の美脚がより一層、輝いて見えた。


 黒で統一されシュールなイメージを強めているが、特徴的なメイド服だ。


 さらに店内を見渡してみると、あちこちの壁には様々なポスターや写真などが貼られていて、その中には色紙のスペースがあった。


 どことなく親しみやすいというか? 落ち着く感じがする店内だった。


「こういうお店には、よく来るのかな? 

 テレビで見たお店とは、少し違うみたいだけど」


「俺も……このお店に入るのは、初めてだけど。

 メイド喫茶なら何度か? 行ったことがあるぜ」


「ふ~ん。そうなんだ」


「にしても年配の客(ガチオタ)が多いな」


「それだけ根強い人気があるということでしょう。

 ほんとうに男って生き物は……」


 また俺が殴られる。


 なぜ? 姫川さんは俺にばかり攻撃するのだろうか? 


 実に不条理だ。


「そもそもこういうお店って、いくら法律で規制しても、なかなかいなくならないのよねぇ。まさにゴキブリね」


 そして完璧なやつあたりだ。


 理不尽極まりないぞ。


 ベルを鳴らし注文を頼む。


「シンデレラは、歳をとらないメルヘン・オムライスで、お願いします」


「じゃあ、私も彼と同じのでいいわ」


「はい。承りました」


 しばらく待つと、注文した料理を持って、メイドが姿を現した。


「こちらが、シンデレラは、歳をとらないメルヘン・オムライスでございます」


 普通のオムライスとは、違い。


 クレープ生地で作れたスイーツなオムライスなのだ。

 

 中には、色とりどりのフルーツが入っていた。 


「お、美味しいわね。こんなの始めて食べたわ」


 姫川さんはめっちゃくっちゃ絶賛していたな。


 飲み物は『ハーブティー』だ。


 口は悪いし、態度は尊大で、生意気だけれど、ビックリするくらい無邪気で、純粋で、素直な一面も持ち合わせているんだよな。


 カラダ全体で喜びを表現する彼女から、俺はいつの間にか目が離せなくなっていた。




++++++++++++++++++++++++




 そして俺たちは、この街でも最も『夜景』が美しく見えると評判の『デートスポット』イチャラブ公園の展望台にやって来ていた。


 月明かりでほんのりと白く輝く、柵に手を掛け。


「本当にキレイな夜景ね」


 膝上丈のスカートと金髪が風で靡き。


 大きな瞳はウルウルと潤んでいて、こちらを見つめてきている。


「ああ、そうだな」


 遮へい物の無いこの位置からだと、町全体が見渡せる。


 煌々と光る無数の星たちのように、民家からのあたたかな光が漏れていた。


 俺の抱えている悩みなって、ちっぽけなこと。


 そう思えるくらい。


 公園の展望台から見る街の夜景は、純粋に美しかった。


 空には満天の星が、輝いているけれど。


 それ以上に『建物』が、放つキラキラとした輝きは『キレイ』だった。


 言葉すら忘れて、二人で見入ってしまう。


 時間の流れを忘れてしまうような荘厳さ。


 ただイチャラブ公園という名のとおり。


 周りには、何組ものカップルが、集まり始めていた。


 みんなデートで、ここにやって来たらしい。


 肩を寄せあって、夜景を見つめている。

 

 中には、抱きあうどころか?


 キスをしているカップルまで存在している。


 自然と視線は隣に立つ理沙へと向いてしまった。


 いまだ彼女は、夜景を眺めている。


 星明かりに照らされ輝く彼女の表情は、普段よりもずっと大人びて見えた。


「今日は誘ってくれてありがとう。いい気分転換になったよ」


「それは良かったわ。

 私も今日一日ほんとうに楽しかったわ。久々のデートを満喫しちゃいました」


 下からのぞき込むようにして言ってくる。


 すぐ間近に彼女の唇があるのだと悟った瞬間、まるで蝶が花の香りに引き寄せれるかのように、俺は口づけをしていた。


「んっ!?」


 驚きをあわらにした理沙の息づかいがダイレクトに感じられたが、抵抗することなくカラダを密着させきた。


 ラブラブな時間を過ごし。


「ところで面白い小説が書けそう?」


「ああ。構想が次から次へと浮かべ上がってくるぜ」


「なら、良かったわ。

 私も素晴らしい絵が描ける気がするわ」


「それは楽しみだな」


「ええ、その期待を超える。

 至高の作品を描き上げてみるわ」


「たいした自信だな」


「それにしも暑いわね。夜になっても全然冷えないわね」


 腰まで伸びた長い髪まるで、星を散りばめたかのように高貴な金色の輝きを放ち。


 毛先の一本一本まで手入れの行き届いた、フワフワと柔らかそうな髪は上質で、理沙の胸元は透けていた。


 汗を吸った純白のワンピースドレスは、ぴたりと肌に貼りついており、彼女の可愛らしいおっぱいを半ば露わにしていた。



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