第39話 女の子は仲良くなるのが早いものなのよ

『龍一視点』


 近所の公園。


 辺りに咲き誇る花々は、風に揺れ、晴れ渡る空。


 ジリジリと肌を焼く真夏の太陽が照りつける中、理沙と斎藤さんが仲良く会話をしている現場を目撃してしまった。


 斎藤さんは薄手のブラウスに太ももの付け根が見えるデニムのホットパンツとミュール。 

 あられもなく丸出しの太ももは、弾むほど脂を乗せながらも、瑞々しい張りに恵まれて綺麗に引き締まり。


 肉感はたっぷりに線は、うっとりするほど美しいな。


 ごくごく平凡な大きさの胸元を飾る、丁寧に形良く結ばれたタイ。


 涼しい感じの夏服だな。


 首元で切りそろえた可愛らしいボブカット黒髪に、花柄の髪飾り。


 クラス内でも目立たず、いつも教室の角や図書館にいるような後輩キャラだ。

 

 また男子の間では、密かに注目度の『高い』女子生徒で、いっけん無防備なようにも見えるが、決して全ては見せてくれないそんなミステリアスな女性だ。


 理沙の方は緩めの無地のTシャツにフレアスカートとスニーカー。


 ひらひらしたミニスカートから垣間見える健康的な太股を包むニーソックスはめっちゃくっちゃ眩しくて。


 とてもラフな格好だが、よく似合っているな。


 ただ高校生離れした『胸の大きさ』で、Tシャツはちょっと扇情的すぎるような。


 声をかけようか? 迷っていると


「そんなところでコソコソしてないで、こっちに来なさい」


 あっさりと見つかってしまう。


「奇遇だな、理沙。斎藤さんと仲が良かったけ?」


「ふふん。女の子は仲良くなるのが早いものなのよ」


「相変わらず猫被りがうま……いたぁあああ……」


 いきなり足を踏まれた……。


「だ、大丈夫ですか?」


「気にしなくてもいいわ。

 龍一はドMの変態さんだから、これも一種の愛情表現なのよ。

 ホラ、彼も喜んでいるでしょ」


「そ、そうなんですか? いろんな『愛の形』あるんですね」


「ああ、俺は理沙のことを世界一愛しているからな」


「な、な、ななな、なに……さらりと恥ずかしいこと言ってるのよっ」


「て、照るなるなよ」


「だ、誰も照れてなんかいないわよ」


「ほんとうに仲がよろしいんですね」


「このバカの相手をできるのは、私ぐらいなものですもの。

 って、な、なによ、にやにやしてるのよっ」


「本当に理沙は、ツンデレだなと、思ったさあ」


 理沙はピクピクと肩を震わせ、眉間に皺が寄り、怒りを露わにし。


 丈の短いスカートからくり出される渾身の回し蹴り。


「ぐがぁあああ!!! ああああああ」


 みぞおちにクリティカルヒットし。


 俺は空中を3回転し、地面を転がり、ピクピク痙攣を起こす。

 

「ほんとうに、だ……大丈夫……なんですか?」

 

 斎藤さんが心配そうな表情で聞くと、理沙は苦笑いを浮かべて


「ちょっと、やり過ぎたかもしれませんね。おほほほっ。

 でも心配はいりません。いつものことですから。

 それに彼はとにかくカラダが頑丈ですからね。

 大丈夫だと思います」 


「なんだか? ほんの少しだけ羨ましい関係ですね」


「そんなこと言われたのは、初めてです。

 斎藤さんって、とっても不思議な方なんですね」


「姫川さんの方がよっぽどミステリアスですわ」


「アナタは本当に面白いヒトね」


 理沙はとても柔らかな笑みを浮かべた。




++++++++++++++++++++++++




 目を覚ますと、なぜか? 俺は……女子更衣室のロッカー中に入った。


 しかも絶賛使用中だった。


 汗と香水が混じり、独自のハーモニーを奏でている。


「斎藤さんに龍一の看病を任せてしまったけど、大丈夫かしら? 

 陸上部から助っ人を頼まれてなかったら……」


 理沙はロッカーに鞄を入れると、腕を交差させて服をまくし上げ、Tシャツを脱ぎ。


 下着姿になった。


 青いスポーティなブラだ。


 窮屈そうにくっつきあい、美しい谷間を作っているな。


 髪はゴムでまとめられ、綺麗な肩胛骨けんこうこつの見え、何とも言えない清楚な香りに包まれており、健康的な艶を誇る肌が美しくきらめいていた。


 そして漂ってくる石けんのような香りは、服のものか? それとも髪からか?


 異様にエネルギッシュで、それでいて可愛らしさと気品を見る者に感じさせる、よくお似合いのニオイだった。


「そんなことを考えても仕方ないわよね」


 後ろ姿しか見えないが、思わずつばを飲み込んでしまう。


 だが残念ながらすぐにトレーニングシャツを着てしまった。


「目の前のことに、ちゃんと集中しないと」


 そして彼女は鞄からスパッツを取り出した。


 いよいよ下を着替える。


「みんなに迷惑をかけちゃうもんね」


 スカートを脱ぐときだ。


 しかし彼女は、スカートを穿いたままスパッツを穿いた。


 だから見えなかった。


 愕然がくぜんした。


 ただ、スカートの中に手を入れ。


 もぞもぞ動く姿は、ちょっと好きだった。


 スカートを脱ぎ。


 運動着姿に変わった。


 雨音が聞こえてきた!?


 携帯電話が鳴り。


 理沙は鞄から取り出す、電話に出る。


 試合が中止になったという報告だったみたいだな。 


 悪いことは重なるモノだ。


 スマホにつけていたキーホルダーが取れてしまい。


 どうやらロッカーの隙間に入ってしまったようだ。


 彼女は四つん這いになって、隙間を覗き込んでいる。


 そして息を飲んだ。


 これが噂に聞く『ドッグ・スタイル』か。


 スパッツだから綺麗な丸い形がくっきりわかるだな。


 可愛らしいけど色っぽいお尻が上に突き出される形となった。


 しかも彼女は肩を床につけているため、よりお尻を突き出す格好になっていて、下着のラインが透け。


 時折、しゃぶりつきたくなるような肉付きのよいお尻を左右に振っている。

 

 まさに『犬』だ。


 それだけではない。


 シャツがめくれ上がり、彼女の胴体が見えているのだ。


 ブラジャーと下乳が見えている。


 これは、これでめっちゃくっちゃエロいな。


「あと、もう少しで……と、届きそうなのに……ふぁあっ……ンンン……ああんぅ……」


 吐息混じりのやたら艶めかしい声が聞こえてきた。


 官能的なポーズのまま理沙は、ロッカーと格闘している。


 そのとき、上でガタガタと変な音がした。


 隙間から見上げると、ロッカーの上に積み上げられたダンボールが、今にも崩れそうなのである。


 そしてそれは崩れた。


「きゃあ!?」


 ダンボール箱から文化祭の時に使った様々なコスプレ衣装が飛び出した。


「きゃあ!? なにこれ!? カワイイ!? ちょっと着てみたいかも」


++++++++++++++++++++++++


 ただいま『着替え中』です。しばらくお待ちください。


++++++++++++++++++++++++


 身に纏っているのはチュチュドレスだろうか。


 ガラス細工のようなに華奢な肩から肘の上までの柔肌が惜しげもなく露出していて、斜め後ろから見ている俺の目には、しなやかなS字を描く背中の透き通るような白が眩しい。


 柔らかく膨らんだ胸元には金の縁取り誇らしげに輝き、ふんわりと広がった純白のフリルスカートが小振りな尻を隠している。


 細い腕を肘の上まで包んだ長い手袋も伸びやかな脚を膝の上まで諦めつけいるニーソックスも地面を踏むハイヒールパンプスも鮮やかなピンク色だ。


 理沙はなんとも満たされた気分に酔いしれていた。


「せっかくだし、これも着てみようかしら」


 チュチュドレスからミリタリースタイルにクラスチェンジした。


 真っ白な襟詰のミリタリージャケットに、ボリューム感のある純白のスカートは、身体のラインを可愛らしく見せ。


 厳粛な感じがまったくしない。


 特に胸のラインが綺麗に出るタイトな作りでダブルボタン。


 一見軍服のようにも見えるが、独自の改造が施されているせいか? 理沙が着ると荘厳なドレスのように見える。


 服に合わせたすごく子供っぽく髪が揺れ、足元は膝下までの白いソックスと真っ赤な紐つきの革靴を履いている。


 続いて、ミリタリースタイルから『ネコのコスチューム』にクラスチェンジだ。


 身体のラインをくっきりはっきりしっかり浮き上がらせるほど密着した黒のレオタード。


 ヘアバンド型のネコミミと肉球付きのグローブ&ブーツ。


そして臀部でんぶから伸びた尻尾というフルー装備だ。


「にゃ~あ~ん」


 胸を見せびらかすように、理沙は四つん這いになって『ネコ』のように、そろりそろりとロッカーに近づいてくる。


 きれいな鎖骨がちらりとのぞく胸の谷間に、どうしても目がいってしまう。


 おまけにふんわりとどこからか、甘い蜂蜜みたいな良い香りまでする。


「やっぱり理沙は何を着ても似合うな。

 しかも勝気な性格だからいつもよりも、魅力的に見えるぜ」


 と、思わず声を上げってしまった。


 致命的なミスだ。


 こ、殺される……。

 

 そう思った次の瞬間。


 理沙はロッカーを開き、俺を引っ張り出すと、必殺技『コブラツイスト』が放たれる。


「ぎゃあああああああああ」


 女の子とは思えないほど強烈なパワーが襲い。


 カラダ中の関節が悲鳴を上げた。


 痴漢行為に対する因果応報。


「ギブ、ギブアップ……っ……」


 不自然な『く』の字型にねじ曲げられ、トドメのスリーパーホールドがキレイに極まり、目の前をチラつく星を見え、その場にノックダウンしてしまう。「さすがTVでも紹介されただけあって、女の子の水着がたくさんあるわねぇ」


「そうだな。男性用は相変わらず少ないけどな」




++++++++++++++++++++++++




 とある休日。


 駅前にあるショッピングモール。


 ここは理沙の行きつけの店らしく、どこに何がるのかを、把握しているみたいだな。


 斎藤さんを誘って、海に行くことになったので。


 俺たちは新しい水着を買いにきていた。


 水着……それは女性であることを『最も』特徴づけることができるコスチュームだ。


「色もバリエーションいっぱいだし。

 ん~、どれにしようかな? 

 迷っちゃうわねぇ。

 やっぱり定番のビキニにかな?」


 べったり左腕にくっついてくる理沙に向かって


「好きなのを選べばいいんじゃないか」


「はぁ~。まったく龍一は気が利かないわね。

 女心というものが、まるで分かっていないわぁ」


 抱きつく手に力が入り、豊満な胸を強く押し付けて


「ここは男らしく、彼女の水着の一つでも、選んでみせなさいよ」


 鋭い目つきで睨めつけられ、背筋に冷たいモノが走った。 


「でも俺……流行とかよくわからないし、センスがあるとも思えないんだよね。

 理沙が自分で選んだ方が失敗しないと思うんだよね」


「わかったわよ」


 とっかえひっかえ水着を選ぶ彼女は、どこか楽しそうだった。


 それを俺は遠目で見守っていた。


 そして締め切ったカーテンの向こうから、妙に艶めかしい理沙の声が聞こえてくる。


 理沙がどんな水着を買ったかは、当日のお楽しみということのになった。


 今から楽しみで仕方がないぜ。



 

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