第40話 砂浜って、予想以上に熱いんだな。でも海に来たって、気がするぜぇ
『龍一視点』
俺、理沙、斎藤さんの3人で海に来ていた。
「砂浜って、予想以上に熱いんだな。でも海に来たって、気がするぜぇ」
砂浜にレジャーシートを広げて場所を確保し、パラソルを広げて日影を作り終えると
「だからぉ、案内してくれるだけでいいんでだって。
なにも『ホテル』に連れ込むわけないんだからさあ。
それくらいは良いだろう」
「もううっさいわねぇ。
ほかを当たってって言ったのが、聞こえなかったの?
もしそうなら、耳鼻科へ行くことをオススメするわ」
照りつける太陽。
砂浜を滑る白い波頭。
潮の匂いを運ぶ海風と何処までも、続くマリンブルーに彩られた景色。
ここは『姫川家』が所有するプライベートビーチのため、砂浜には……俺たち以外は誰もいないはずなのだが?
どういうわけだか、サングラスにアロハシャツのチャラそうな男と、麦わら帽子と水着の上からパーカーを羽織った理沙が口論していた。
「ほかに見かけた女の子は一人じゃなかったんだよ。
暇そうにしてなかったからさ。
なあ、頼むよぉ~~~」
「私も一人じゃないから。
彼氏と一緒に来たって、何度も説明したわよねぇ」
めっちゃくっちゃ不機嫌な顔で、男の胸ぐらを掴み、怒鳴り声を上げ。
ピリピリした空気がここまで伝わってくる。
だがチャラ男は、まったく動じることなく。
下卑た笑みをうかべて。
「またまた、どう見ても一人じゃない。
そんなエロい身体見せて。
さぁー、声かけられるの待ってたんだろ。
そうなんだろう、グヘヘヘぇぇぇ」
理沙の腕を振り払い。
男は理沙のカラダを舐め回すように見る。
「あなたにどう見えてるのか知らないけど! 私、こんな風に声かけられて、ホイホイついてくほど軽くないから。あまり調子に乗るんじゃないわよぉ。
だいたいここはアナタのような下賎な男が、立ち入っていい場所ではありません。今すぐに出ていきなさい。ここは『姫川家』の敷地です」
「下手に出ればいい気なりやがって。人質の分際で俺様に盾突くな」
「そこまでだ。
理沙から放れろ、下郎」
理沙の手首を握るチャラ男Aに向かって殴り掛かる。
「ちっ!? 邪魔が入ったか?
運のいいヤツだ」
茶髪の男は、拍子抜けするぐらいあっさりと逃げって言ってしまった。
「大丈夫か? 理沙」
気恥ずかしくて、ぶっきらぼうに手を差し出すと、理沙はすぐに握ってきた。
小さな手はちょっぴりひんやりしていたが、スベスベで柔らかいな。
「龍一、助けに来てくれてありがとう。
とてもカッコよかったわよ。
今も心臓がドキドキしてるモノ」
それまで強気な態度しか見せなかった理沙の声が、突然トーンダウンした。
金色の瞳が俺をまっすぐに見つめて来る。
とても優しく愛おしそうに、そんなことを恥かしげもなく言ってくるものだから。
「そんなに褒めるなよ。彼氏として当然のことをしただけだろう」
「だって、走ってきてくれたでしょ。
息も乱れてるし、汗も凄いわよ」
「これくらいどうってことないよ。
斎藤さんが心配するといけないから、戻ろうか」
「もう龍一たら照れ屋さんなんだから」
金色の長い髪を靡かせながら笑う姿は、素直に可愛らしく、思わずドキっとしてしまう。
ちなみに斎藤さんは、ずっと入り江でキレイな石や貝殻を探していたらしい。
理沙は、羽織っていたパーカーをパサリと脱ぎ捨て。
「ねぇ、龍一。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……いいかな?」
うほぅっ!? 惜しげもなく晒されてる胸部が、豊満なオッパイが、俺の腕を挟み込んでくる。
「別にかわまいけど」
「ホント!? じゃあ、これを塗って欲しいな。背中の方は自分じゃ上手く塗れないんだよねぇ」
理沙は手に持っていたポーチから小さなボトルのようなモノを取り出し、手渡してきた。
太陽のマークが入った手のひらサイズの褐色のボトル。
日焼け止めだ。
海の定番イベントとの一つが発生した。
紫外線対策だ。
照りつける太陽から肌を守るという趣旨のイベントが発生みたいだな。
「ホラ、はやくぅ~」
レジャーシートの上に寝そべった理沙が催促してきた。
もぎたてフルーツのような瑞々しいヒップ。
うおお、と思わず鼻血まで出てしまいそうな状況で、もちろん嬉しいだが、スポーティ な水着姿で、背中が丸見えだった。
さらりと伸びた金髪と静脈がうっすら透けて見えるほどの白い肌の
滑らかな曲線を描くそのラインは美しく、活発な彼女のイメージと相まって、とても良く似合っていた。
その魅力的な姿に一瞬、心を奪われ。
「それならアタシが代わりに塗ってあげるわよ」
名乗りを上げた斎藤さんは、真っ白なチューブトップの水着姿だ。
「どうせなら龍一に頼みたいんだけどな。
いつも彼に塗ってもらっているから」
そう言って胸元に手を回し、 ファスナーを下ろし微笑んだ理沙から日焼け止めを受け取り。
「ごめんね、斎藤さん。これは、彼氏である俺の仕事だから」
「本人の希望じゃ仕方ないですよね。
でもアタシが見てる前でふしだらなことはしないでくださいね。
例えば胸を触るとか? 絶対にしちゃダメですからね」
「それくらいわかってるから。
少しは俺のことを信用してくれてもいいと思うんだけどな」
「龍一っ!? はやくぅ~~~~。いつまで私を待たせるつもりなのよ」
「背中全体に塗ればいいのか?」
「うん。お願い♥」
再び視線をキレイな背中に向け、相変わらず手入れの行き届いたスベスベな肌だな。
肌が白いから、やっぱり日焼けすると赤くなるのかな。
絶対に塗り残しがでないように、まんべんなく、念入りに塗らないとな。
俺は手のひらにクリームを出して、理沙の滑らかな背中に塗っていく。
おお、結構ヌルヌルしてるんだな。
女の子らしく脂質が多めの太ももは驚くほど滑らかで、弾力ももうしぶんない。
「んぅ……あっ……いいわぁ。
あぁ、あああ……んぅ……くすぐったぁい……」
鼻にかかったような声を上げた。
「が、我慢して?」
役得とばかりに俺は理沙のなだらかな背中を触りながら
「別に変なことしようってわけじゃないんだから」
日焼け止めを丁寧に塗る。
続いてふくらはぎから太ももまで両手で、挟み込むようにして塗っていく。
あ、これ……エロいイベントの定番『マッサージ』ぽくないか。
「うわぁ、なんだか? すんごくいやらしいわ。
でも凄く気持ちよさそうだわ。
機会があったら、アタシも塗ってもらおうかしら」
「えっ!? 斎藤さんも塗って欲しいの?」
「いえっ! やっぱり何でもないです。
気にしないで下さいっ、聞かなかったことにして下さいっ」
「うん、わかった」
一通り日焼け止めを塗り終え、お終いだと声を上げた。
「どうもありがとう、龍一。じゃあ、私はちょっとひと泳ぎしてくるねぇ」
半ば強引に俺の隣に『斎藤さん』を座らせると、理沙は砂を蹴り、海へと駆けていった。
まったく余計な気を回しやがって。
とは言え……なぜ? あんなことをしたのか? 正直なところ俺も気になってはいた。
「……ご、ごめんなさい。
アナタと姫川さんが、イチャイチャしているところを見ていたら『イラっと』して」
「で……あんなことをしてしまったと……」
「ほんとうにごめんなさい」
そう言って、斎藤さんは黙ってしまった。
「なら仕方ないな。
斎藤さんの気持ちもわかるし。
俺には斎藤さんを責めることはできないよ。
今でも、姫川さんのことが好きなんでしょ」
「は、はいっ」
ちょっと声がうわずっている。
「もうちょっと離れていたほうがいいな?」
少女らしいあどけない胸の膨らみに、目がいってしまい。
「ホラ、水着だと男だってことを意識しやすいもんな。
斎藤さんって、男性嫌いで有名だし」
「そうですよね。全然違いますよね。
主に肌の露出とか。
そのせいか? 凄く男らしく見えます」
自分と俺の身体を交互に見る。
俺はトランクスタイプの水着で、斎藤さんは真っ白なチューブトップの水着だ。
「なら、やっぱり、は、離れた方がいいよな。
お、落ち着かないだろう」
「二人っきりだと、恥ずかしさが増すっていうか……なんだか、いつも以上に、胸の奥がムズムズしちゃいます。
でも……い、嫌じゃないです……神村くんは大丈夫、だと思います。
だってぇ……姫川さんが選んだ男性ですもの。
だから、もう少しだけアナタのことを教えてください」
「そうだな。記憶に残るは『秘密基地』を作ったことか?
男なら一度は通るビックなイベントだよな。
誰にも邪魔をされずに『エッチな本』を読むためのプライベート空間は、必要だろう。親に見つかる可能性も、限りなくゼロになるしな」
「実に神村君らしい理由ですね、ふふふ」
くすりと笑う。
お、イイ感じだ。
こういうふうに自然に笑えるのは、かなりいいことだ。
そして何よりもカワイイ。
カワイイは『正義』だ。
「……他にはどんな遊びをしたんですか?」
「そうだな~」
子供の頃にやったバカなことを思い出しながら話す。
水鉄砲で友達と遊んだことや、砂のお城を作ったこと。
カブトムシやセミなどの虫取りをしたこと。
木登りや、肝試しをしたこと。
とにかく沢山の話をした。
「……いいですね、男の子って……私も……男性に生まれてきたかった……な。
夏なんて、エロい目で見らるし、汗かくし、いいことなんて何ひとつないと思っていたけど……」
目を細め、そんなことを言う姿に、ドキっとしてしまう。
「その気持ちは、何となくわかるな。
性転換のどうという話じゃなくて、『異世界転生』にも憧れるし。
第2の人生という言葉も好きだ。
なりたい自分があるから、人は頑張れるんだと思うからさあ」
「神村君って、すんごく変わっている。とてもユニークで面白いヒト。
姫川さんがなぜ? アナタに惹かれたのか……少しだけ分かった気がするわ」
斎藤さんはスッと滑るように移動すると、俺にしなだれかかってきた。
肩に乗せられた形のよい頭。
その心地よい重みを感じながら……。
「斎藤さんの子供の頃はどうだったんですか?」
「……聞いても、あまり楽しくないですから……ごくごく普通の幼少期を過ごしましたら……本当に面白みの欠片もない話です。
窓際の席で本を読み、ときどき空を見上げ物思いにふける……物静かな女の子でした」
「悪いこと聞いちゃったみたいだな」
「神村君が気にすることじゃないですから……。
別にイジメられていたわけでもないですし、それにせっかく海に来たんだから。
ちょっと、泳ぎにいきませんか?」
「あ、ああ」
斎藤さんに誘われ、しっかりと準備運動をした後。
二人で海へと向かった。
いくら泳ぎ慣れてるとはいえ、足を吊ったり、心臓麻痺は怖いからな。
そして俺たちは海を満喫したのだった。
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