第35話 奉納の舞・巫女神楽
学校の敷地内にまっすぐに伸びた杉の木が並ぶ鎮守の森がある。
そのなかに埋もれるようにのびる長い石段をあがったところには、立派な鳥居と、奥に風格のある佇まい社殿があり、
古くから行われている伝統的な祭りで、神輿や山車がいくつも出ていて。
神社の下の道路にわた菓子や焼きそば、リンゴ飴や金魚すくいなど色々な露店が立ち並び、全国各地から大勢の人が押し寄せる。
鮮やかな提灯が並び、すっかりお祭りという雰囲気だった。
境内では厳格な行事も催される。
その一つが『巫女神楽』だ。
神楽は、天岩屋に隠れたアマテラスを誘いだすために、アメノウズメが躍った舞が起源だと言われています。
また『
ちなみにご利益は子宝・安産、豊作、商売繁盛、そして開運だ。
「さすがはねぇ、なんてキレイな舞のかしら♪」
浴衣姿の理沙が感嘆の声を上げる。
いったん、家に帰って『浴衣』に着替えてきてくれたのだ。
「ダンスなら負けない自信があるだけどな。
一朝一夕ではどうにもならないわよねぇ」
ニッコリと、夜の闇に優しく溶け込む、明るい月のような笑顔を浮かべて。
「でも、今の生き方を変えるつもりもないんだけどね」
「理沙らしいな考え方だな。
懐が広いというか? 確固たる自分を持っているというか?
でも俺は、そういうところに、惹かれて、好きになったんだけどな」
「調子のいいことばかり言って、おだてても何も出ないわよ」
理沙が肩を寄せてくると、甘く官能的な香りが漂ってきた、浴衣に合わせて匂い袋でも懐中に忍ばせているかな。
淡いブルーの浴衣には、大小さまざま花がちりばめられ、オレンジ色の帯が色鮮やかに映える。
髪型は、結ったものを後頭部でクルクルとまとめているみたいだな。
前髪も髪留めで押さえ、向かって左半分だけ、はらりと垂れているのがコケティッシュだな。
「普段のお転婆な姿からは想像できないほど、可憐な姿だよな。
お淑やかで大人っぽくて、同一人物とは思えないほど、今の二三は神々しかった。
「悔しいけど、今の彼女は某有名アイドルグループよりも光り輝いて見えるわぁ。
はぁ~っ。
やっぱり黒髪ロングヘアって憧れるわねぇ」
そして拝殿前の境内に舞台が設置され、大勢の人が見守るなか『舞』が披露されている。
微笑み浮かび、スッ、スッ、と滑るように舞う姿に余計な気負いは微塵もない。
ふわり、ふわりと翻る白衣の袖と鮮やかな緋袴に包まれた肢体から、清冽な気が発しているのだ。
夜気にひそむ草木の香りに混じって、彼女たちの甘い体臭や吐息を感じる。
舞といっても、そんな本格的なモノではなく、太鼓やフルートの音に合わせてシズシズと足を進めながら、扇を持った手を優雅に翻す程度のものだ。
だが、その『シンプル』さが観る者を酔わせるのだ。
今日の主役である『二三』は、ちゃんと巫女の格好していた。
重ね着した
外側に羽織られた丈の短い広袖の上衣は、
古式ゆかしさを感じる、優美で上品な和装だな。
巫女は神の意志を伝える、神聖な役割を努めているのだ。
音楽に関しては、吹奏楽部と軽音部がやってくれいる。
また彼女たちのユニフォームは、修道服のように襟を詰めた白いブラウスに、足首までを隠しつつもスリットを入れて脚線をチラリと覗かせる白のロングスカート、そして肩の部分が膨らんだデザインの紅いブレザーだ。
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「お待たせ、ヒメちゃん、お兄ちゃん」
奉納の舞が終わり、私服に着替えた二三が拝殿からできた。
「お疲れ様。二三の好きなリンゴ飴だよ」
そう言って俺は、割り箸を刺した小さなリンゴの表面に、琥珀色の飴が薄くからめてある『リンゴ飴』を二三に差し出す。
「ありがとう、お兄ちゃん」
お礼を口にすると二三は、カリッと音をたてて齧った。
その姿を見て、俺は思い出したことがある。
幼い頃……あまりにも練習が厳しくて、逃げ出したことがあった。
父も母も一生懸命、探してけど見つけ出すことができなかった。
もちろん俺もかりだされ、その時見つけ出したのは、俺だった。
拝殿から少し離れたところにある、小さな
「こんなところに居たのか? どうりで、見つからないわけだ。
でも見つかって本当に良かった。
お腹を空かせていると思って、二三の好きなリンゴ飴を持ってきたんだ」
そう言って俺は、『リンゴ飴』を二三に差し出す。
「このリンゴ飴……めっちゃくっちゃ美味しいよぉ。
でもどうしてお兄ちゃんは、ワタシが困っているといつも助けてくれるの?」
「それは二三が俺の『妹』だからだよ。
兄は妹を守るものだろう。
俺はお約束ごとは絶対に外さない男だ」
「お、お兄ちゃんぁああっ。 ふぇえええっ。」
「よしよし、コワかっただな。もう大丈夫だ。
お父さんもお母さんも怒ってないから、一緒に帰ろう」
「うん」
手を出し出すと二三は抱きついてきた。
「やっぱり二三は甘えん坊だな」
俺たちは両親にこっぴどく叱られた。
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三人で並んで神社の長い階段を降りる、俺の左側は理沙で、右側は二三だ。
階段の両側にはかなり樹齢の杉林がうっそうとしていて、足元をよく見ないと踏み外しなる。
「ねぇ、お兄ちゃん。手をつないでいいかな?」
「ほんとうに二三ちゃん、怖がりで甘えん坊なんだから」
「そういうヒメちゃんだって、お兄ちゃんの腕に抱きついてるじゃない」
「私は彼女だから、彼に甘えるのは、当然でしょ」
「なら、妹が兄に甘えのもの当然のことだよね~」
「左右から引っ張りな!? 転げ落ちたらどうするんだ」
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