第1巻 最終章 再びラノベ作家として返り咲くまでの道のり。

第32話 物書きとしての引き出しは、多い方が絶対いいに決まっている。

『龍一視点』


 翌日。


 放課後。


 開かれた窓から吹く風がカーテンを揺らし、図書室の机の上には、アニメやゲームのイラスト集が山積みになっていた。


 小柄なゆえ一生懸命つま先立ちして、高い棚に手を伸ばす理沙の姿は、めっちゃくっちゃ可愛かったな。


 俺のすぐ横の席に理沙が座り、足元に荷物が置いてある。


 お互いの肩が触れ合うほどの距離で、机に向かって伏しふしめがちに本を読む姿は、ほんとうに美しく。


 乳液のように艶のある透き通った肌は、うっすらと静脈が透けて見えるほど繊細な白さと柔らかさを兼ね備えている。


 爪の先が桜色で綺麗に手入れされているな。


 前髪をそっと払うしぐさはとってもキュートだ。


 彼女は姿勢が良いというかスタイルが良いので、ただ本を読んでいるだけでも絵になるんだよな。 


 あの大きな胸は読書の邪魔にならないのかな? 


 カラダと机の間に挟まれてちょっと潰れるように見えた。


 つい彼女の大きく開いた胸元に目が行ってしまう。


 制服の生地を大きく押し上げる豊満なバスト。


 わざと小さいスクールウェア風のブラウスを選んでいるのかと疑ってしまうほど今日も『パツパツ』だった。


 何かのはずみでボタンが一つでも外れたら、全部見えてしまいそうだな。


 ちなみにこの時期の女子は、ブラジャーの上に直接ブラウスを着ている可能性が非常に高い。


 これにもう一枚プラスすると、かなり暑くなるからな。


 そして彼女も例外にもれず、上半身はブラウスとブラジャーの二枚だけで、涼しげな印象を与える真っ白なスカートだ


「昔に比べて、シャッターを降ろす店が増えたと思わない」


 それはフルートのように透き通った。


 とても綺麗な声で、憂いを帯びた彼女の横顔も同じぐらい綺麗だ。


 俺は両手を膝の上に置き、視線を胸から逸らし、真面目な表情を浮かべ。


「言われて見れば、そうかもしれないな。

 不景気のあおりで、職を失っている人も多いみたいだからな」 


 一時、社会現象にもなった『メイド喫茶』も軒並み潰れたしな。


 膝の上に置いた手を強く握りしめて。


「東京都千川区でも、例がなく。失業が出てるのかもしれないな」


 オタク経済も衰退しているのかもしれないな。


「昨日、お気に入りの本屋に、本の予約に行ったんだけどね。

 経営状態があまり良くないみたいなのよ……」

 

 机の上で両頬を押さえ、彼女はときどき夕焼け空に目をやりながら。


「インターネットが普及したことで、わざわざ本屋さんに行かないでも、本は買えるようになったでしょ。

 それに紙の本って、意外と重いからね、持って帰るのが大変なのよねぇ」


 俺は苦笑交じりに頬掻き、おどけた感じで。


「まあ確かに!? 通販や電子書籍は便利だもんな」


 同意の声を上げる。


 とはいえ、俺は生まれてこの方『通販』や『電子書籍』は一度も利用したことがない。 


「電子書籍なら倉庫代や、在庫ロスの心配もいらなくなるし。

 さらに人件費も大幅に削減できるからねぇ。

 色々とお得なのよねぇ」


 白くて細い脚をさっと組み換えて、しゃと髪をかきあげるといった仕草がこれまた可愛らしくて。


 俺は背もたれに体重を預けたまま天井を見上げ。


「経営者とっては、魅力的な話だよな。

 ただ俺……個人としては、やるせないキモチになるけどなぁ」


 そう答えると理沙は演説をするように両手を広げて、パイプ椅子から立ち上がり。


「紙には、紙の良さがあるからね。

 紙媒体の書物がなくなることは、ないと思うけどぉ。

 紙離れが進んでいるのも、事実として受け止めるしかないのよねぇ」


 しっかりとくびれた腰に手を当て、自分の意見を述べた。

 純白のスカート越しでもセクシーなヒップラインを想像できてしまう。


 反則じみたプロポーションに目が釘付けになりながらも俺は思考を巡らせる。


 若者の紙離れは深刻だ。


 某ニュースサイトによると。


 20代の6割以上が『スマホ』で『電子書籍』を利用していて、スキマ時間に読む書籍ジャンルは『小説』がトップだったな。


 ネットに投稿できる小説サイトも昔に比べて増えたからな。


 その影響もあるのかもしれないな。


「スマートフォンやタブレットが普及した影響かもしれないな。

 それと紙の良さか? それはやっぱりインクの独特の質感かな。

 デジタルにはない、わびさびがあるんだよな」


 あのインク用紙の肌触りと匂いが大好きなんだよな。 


「あとは日常的に利用しているデジタル端末から離れることで、日々の慌ただしさや悩みを忘れることができるのも、紙の魅力の一つだと思うな」


 オタクが『萌かわいい展』に行く理由も、そこにあるのかもしれないな。


「若者だけでなく、お年寄りの人たちもスマホやタブレットを上手く活用している『時代』ですものね」


 手を頭の後ろに組み、再び背もたれにカラダを預け、天井を見上げながら。


「もうすっかりと『デジタルな』世界になっちゃったんもんな……ハァ……っ……万年筆で執筆している作家もめっきり減っちゃったもんな」


 ってぇ……いつの話だよな……。


 そう思っている読者も多いはずだ。


「私の知る限り、龍一ぐらいよね♪

 今どき『ノート』なんかに『小説』を書き溜めているのわぁ。

 ネット投稿が主流な『時代』でさあ。

 逆に凄いと思うなぁ」


 後ろから抱きしめように耳元で優しく囁き。


 圧倒的な質量で、制服をハチ切らんばかり膨らませた『豊満なオッパイ』を後頭部に押し付けてきた。


「ノートパソコンを買う金がないんだから、仕方ないだろう」


 悲壮感漂う表情でうつむいたまま答えると。


 理沙は呆れたような口調で


「なら、バイトでもすればいいのに、それすらも、しないんだもんね。

 どうしようもない『クズ』よね。

 本気で小説家を目指しているかも、怪しいわねぇ、うふふ♥」


 いぶかしげな視線を向けてきた。


 痛いところを突かれた。


 彼氏としての甲斐性のなさは自覚していたつもりだけど。


 それを言葉にされると精神的なダメージが大きいな。  


「俺だって頑張っているんだよ。

 まだちゃんとした結果は、出せていないけどさ。

 もちろんバイトをして……いろいろな『経験を積む』大切さも知っているつもりだ」


 物書きとしての引き出しは、多い方が絶対いいに決まっている。


 俺はコミュ力低い上に、根性も度胸もないからな。

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