第10話 この力を使えば……姫川さんが抱えている悩みを解決できるかもしれない
大急ぎで『二次元萌え萌え高校』に戻ってきた。
俺は薄暗い廊下を抜け教室に入ると、学園のアイドルでクラスメートの姫川 理沙さんがなんと俺の机で『イタズラ』をしている姿を目撃してしまった。
決して人前では、見せないだろう恥ずかしい姿を目撃してしまった。
美少女はどんな顔をしても魅力的なんだな。
興奮よりも感嘆のキモチが先に立つ。
それほど神秘的な輝きを放っていた。
蕩けきった金色の瞳に、口の端からだらしなく涎を垂らし、頬は緩んでいるのに、その神々しさは微塵も薄れていなかった。
イヤ、増しているような気さえした。
光輪が見えるほど神聖的なオーラが伝わってきましたから。
校章のワンポイントが入った黒のオーバーニーソックスを履いていて、学校指定の上履きすら輝いて見えた。
長い髪が風に乱れ、そのひと房が俺の鼻先をくすぐる。
かぐわしい髪の香り、熱くした肌の匂いも強く。
汗ばんだ肌は光り輝いて見え、ずっと嗅いでいたくなるような、男性の本能を刺激するような汗の匂いだった。
この世のモノとは思えないほどの存在感を放ち、穢れなき『美』がそこにあった。
心臓は跳ね上がり、身動きができなくなった。
まばたきすら忘れ、見惚れてしまう。
心臓の鼓動がぜんぜん鳴りやまない。
でもそれは『恋愛感情』とは、違うドキドキだった。
使命感からくるドキドキだった。
「い、いつから……そこに、いたの?」
艶やかな唇を半開きにし、か細い声が、耳に響いた。
ぼんやりと見惚れていたら、姫川さんの顔色がみるみる青ざめていき。
今にも倒れそうなくらいに血の気の引いた顔で、唇は小刻みに震え。
へなへなとその場にへたり込んでしまう。
まるでこの世の終わりに直面したようだった。
「そんな怯えた顔をしないでくれ。
今、見たことを、誰かに言いふらしたりしない。
それに俺なら姫川さんを助けることができるかもしれない」
「えっ!? そ、それは……どういうこと?」
伏し目がちに発したひどく小さく、不明瞭な音声の連なりが微かに聞こえ。
「神社の息子……だからか?
わかんないけど……生まれつき『ヒトの淫気を吸う』ことができるんだ。
この力を使えば……姫川さんが抱えている悩みを解決できるかもしれない。
試してみる価値はあると思うんだけど……どうする。
試してみる?」
しばらく沈黙が続いてから、姫川さんは言葉を選ぶ仕草を見せながら、乱れたブラウスと、はだけたスカートを整えってから立ち上がり。
「じゃあ、そのお願いしてもいいかな」
「わかった」
俺は強く頷いた後。
「……あっ……くぅ……ふぅんぅ……」
姫川さんの背後に回り込み、背中に触れると、姫川さんの艶めかしい声が聞こえてきたけど、俺は淫気を吸い取ることに集中する。
なんでこんな『力』を持って生まれてきたのか? 今までわからなかったけど。
今ならわかる。
彼女を助けるために神が俺に与えてくれた『力』なのかもしれないな。
「ひとまずは、これで大丈夫なはずだ。
また、抑えきれないほどの『性衝動』に襲われたら、俺に相談してくれ。
絶対に力になるから」
彼女はうつむいたまま、その高校生離れした胸がダイナミックにタプンと揺れ、スカート裾を強く握りしめ、たどたどし口調で。
「うん、ありがとう。
やっぱり神村君って」
普段、彼女は人の目をまっすぐに見て話す。
たとえそれが『どんな相手』であったとしてもだ。
だというのに、今日の彼女は違った。
目と目が合った瞬間――――気まずそうに瞳をそらすしぐさがたまらくいじらしい。
姫川さんって動揺が顔に出るタイプなんだな。
いつも優雅な雰囲気をまとってるイメージだったけど、意外な一面だ。
「紳士的で、クラスのバカな男子とは、ぜんぜん、違うね」
本気で慕ってくれているような眼差し向けてきた。
「神村君なら話してもいいかな?
実は……私……男の人の汗の匂いを嗅ぎながらじゃないと上手く描けないヘッポコイラストレーターなのよぉ。
特にアナタの汗の匂いを嗅いでいる時は、自分でも驚くほど、神憑《
かみがか》ったイラストが描けるのよ。
でもその反動なのか?
自分でも抑えらないほどの性衝動に襲われることがあるのよね」
それが『告白』だと理解するまでに数秒かかった。
いつの間にそんな話になったのか? わからなくて、俺は軽く混乱してしまう。
「ぇえっ」
いきなり見せた『女の顔』に、俺は目を丸くして驚いたけどすぐに咳払いをして。
「またまた、冗談ですよね?
俺を……からかっているだけですよね」
苦笑いを浮かべると姫川さんは子鹿みたいに膝を震わせながら、ゆっくりと立ち上がって。
「あ、あはは……いきなりこんなこと言われてもしんじられないわよね。
私、自分から告白するのって、生まれて初めてだから……なんかこう、タイミングがね。どうも上手く掴めなくて。
なら、これを見たら、信じてくれるかしら」
鞄からスケッチブックと筆記用具を取り出し、その場でイラストを描き始めた。
「ほら、見て」
真剣な表情で、スカートを翻して迫ってくる。
からかっているようにはみえない。
でもやはり実感が湧かなかったが……スケッチブックを見た瞬間。
彼女が言ってることが真実だと悟った。
「じゃあ、男性用の下着を穿いていたのも、それが理由なんですか」
「まあ、女の子には、いろいろあるのよぉ。
深く考えないことが、長生きの秘訣よ」
間近から上目遣いで見上げられ、思わずドキリと胸が高鳴った。
彼女のキレイに整った顔。
特に艶のある唇から発せられた鼻にかかった甘ったるい声。
淡雪のように白い頬は心なしか。
色みを帯びているように見えた。
「このことは、誰にも話さないでほしいんだけど。
約束できるかな?」
上目遣いで見つめたまま恥ずかしそうに話す姿に、俺は思わず見惚れてしまう。
「約束してくれるなら、エッチなお願いも聞いてあげても良いよ。
なんなら、
姫川さんが何を考えているのか? まるでわからないうえに、何か裏があるのかもしれないけど。
でも、もしかしたら、愛情表現の仕方が少し『ズレ』だけかもしれないし。
まあ『ドッキリ』だったとしても、可愛いからすべて許そう!
可愛いは正義だ。
女性に対する恐怖心はすっかりと薄れていた。
男って生き物は、意外と単純にできているものだ。
俺は……そう結論づけ、頷こうとしたら。
「……お、女の子にぃいい……こんなイヤらしいセリフを言わせるなんて、変態だわ。
できればサラっと流して欲しかったのに……普段の私なら絶対に言わないようなことまで……言ってしまったわぁ……ああぁぁ……恥ずかしい……何で私、アナタの前だと、こんなに余裕なくなっちゃうんだろう……」
言うだけ言うと、急に恥ずかしくなったのか?
顔を真っ赤にして、頭からボフンと湯気を噴き出し、姫川さんの裏返った悲鳴が教室中に響き渡り。
突然。
俺の顔面に思いっきり蹴りを入れってきやがった。
俺が何をしたって言うんだ。
間一髪のところでかわすも机が大きく揺れ、一冊のノートが床に落ちる。
「これ、何かしら?」
「あっ!? それは……」
「小汚いノートね」
妄想ノートを彼女が拾い上げ、パラパラとページをめくった後。
もう一度最初から読み始めた。
強烈なプレシャ―のなか、ストレスがドンドンと膨らんでいく。
全身にびっしょりと汗を掻いてしまう。
「ふ~ん。なるほど……なるほど……へえ~~~。クス……ふふふ……スンスンスン……滅茶苦茶……いい匂いだわ……スンスンスン……」
じっくりと時間をかけて、最後まで読み進め。
バタンとノートを閉じた。
その瞬間のなんともいえない彼女の充実した表情。
小説の世界に引き込まれた者、特有の昂揚感をまとった姿に思わず見惚れてしまう。
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