第6話 痴漢から助けた美少女は、なんと!? 姫川さんだった。*3回目の運命的な出会い。アナタは運命の赤い糸を信じますか

 とある休日の出来事。


「やっぱり生で見ると迫力が違うわよねぇ、お兄ちゃん」


 そう叫んだ。


 妹の二三ふみは『超絶美少女』だ。 


 漆黒の瞳。


 黒曜石のようなツヤツヤとした黒髪は、ストレートのロングヘアで、毛先までキューティクルに包まれた見事な直毛。


 胸元は若干控えめで、起伏の乏しい細く引き締まった筋肉質の肢体は、日焼けしていた。


 騒がしいぐらいに元気いっぱいの女の子だ。


 あと服装はカジュアルな感じの真っ白なフリル付きのキャミソールに、裾に軽いダメージ加工が施されたホットパンツという軽装だ。


「ああ、そうだな」


「今日はとっても楽しかったわ、ありがとうねぇ、お兄ちゃん」


 そう言って、はにかむ妹の笑顔にドキっとさせられ。


 そのためあどけない表情のわりに、口元だけが大人びて見えた。


 白い歯がとても綺麗だった。


 俺の腕にぎゅっと抱きついている柔らかな感触。


 間違いない。


 妹のささやかだけどもちゃんと存在している二つの女性的な膨らみだ。


 日に日に女らしく、魅力的になるその姿に心躍らせ。


 事件は、妹が大好きな某アイドルグループのイベント後の『帰り電車の中』で起こった。


「ねぇ、お兄ちゃん。あの子なんだか様子がおかしくない」


「……そうか?」


「うん、絶対におかしいよ。

 なんか顔赤いし、苦しそうだし。

 もしかしたら『痴漢』にあってるのかもしれないよ」


「なら助けた方がいいよな。

 でも……もし間違ってたら、イヤだな。

 どうしよう?」


 そんなことを考えていると、ふっと視線があってしまう。


 確かにどこか辛そうで、助けを求めているようにも思えた。


 でも勘違いだったらどうしよう。


「お兄ちゃん、やっぱりアレ痴漢だよ。

 ワタシにはわかるよ。

 絶対にあの人痴漢にあってるよ。

 ねぇ、助けてあげてよ」


「わかった!? ここはお兄ちゃんがびしっと注意してやるぞ。

 痴漢はれっきとした犯罪だからな。

 任せろぉ」


 親指を立てるサムアップポーズを取る。


「きゃあっ! お兄ちゃんカッコイイ」


「じゃあ、行ってくる」


「うん、頑張ってねぇ。

 痴漢なんかコテンパンにヤッつけちゃって、お兄ちゃん」


「おお、任せとけって」


 妹の手前。


 カッコつけたものの。


 膝はガクガクと震え。


 へっぴり腰で上手く足が進まない。

 

 めちゃくちゃコワイよ。


 今すぐにでもこの場から、逃げ出したい。


 できればああいう輩とは関わりになりたくないんだけど、妹の悲しむ顔はもっと見たくないから、なけなしの勇気を振り絞って前に進む。


 でも、混んだ車内では、思うようには進めない。


「すいません、道を開けてください」


「……んっ……やぁ……んっ……ヤメテ……んっ……」


 必死に叫びながら、強引に人並みをかきわけ進んでいくと、微かに喘ぎ声のようなものが聞こえてきた。


 それから衣擦れする音も聞こえ視線を向けて見ると、先ほどよりも頬が赤く染まっいて涙目で、凄く色っぽくて。


 豊かなオッパイの膨らみが、吐息に合わせて上下に揺れ、思わず下半身が熱くなってしまい。


 もっとその痴態を見たいという衝動に駆り立てられた。


「……はぁ……ぁぁぁっ……くっ……きゃあっ……」


 早く助けなきゃ。


 そう頭ではわかっているのに、ついつい魅入ってしまう。


 美少女の痴態は、かなりレアだ。


 激レアだ。


 これを逃したら、もう2度と見れないかもしれない。


「何してるの? お兄ちゃん。早く助けてあげてぇ」


「ああ、わかってる。

 わかってるけど、でも……もう少し……もう少しだけな」


「もう、お兄ちゃん!? は・や・く助けてあげてっ」


「ああ」


 心配そうに見つめてくる妹の方を向いて、力強く答えた後。


「痴漢です。この人痴漢です。この子のお尻を触ってました」


 小太りな中年のオヤジの手を思いっ切り掴み上げ、邪なキモチを振り払うように大きな声で叫ぶ。


「いきなり何を言うんだ。

 わたしがそんなことするわけないだろう。

 いい加減なことを言うなっ」


「今さら言い訳とか、マジ見苦しいんだけど。

 私のお尻触ったわよねぇ。オジサン」


「痛い痛い痛いっ」


 なんと中年男はあっさりと、被害者である『姫川 理沙』にボコボコにされてしまい。


 そのまま引きずり降ろされ、駅員に突き出されたみたいだな。


「…………」


 あまりの出来事に周囲が静まり返り、俺もその場で立ちつくしていると


「同じクラスの『神村 龍一君』ですよねぇ。

 痴漢から助けてくれてありがとうねぇ」


 金髪美少女が俺の手をぎゅっと握ってきた。


  手を握るという行為は本来、とてもフレンドリーなものはずだ。


 女の子と手を握り合うなんて、少なく見積もっても『友達以上』の友好的な関係性があってしかるべきだろう。


 実際に彼女がどう思っているかは、分からないけど――――女の子の手って柔らかくて、プニプニして気持ちいいな。

 

「うん。そうだけど余計なお世話だったかな」


 照れ臭そうに頬を掻きながら答えると


「そんなことないです。

 だって、すごくコワかったもん。

 神村君が助けてくれなかったら、私……もっと……ヒドイ目に、あっていました。

 本当に助けてくれて、ありがとうございました。

 私のことわかるかな? 学校ではあまり話したことないけど」 


 リップで光る唇を嬉しげに綻ばせ、話しかけてきたのは、童話の中から飛び出してきたとしか思えないほど可憐な金髪美少女です。


 休日だというのに『制服』を着用していた。


 妹よりも豊かな胸は『Gカップ』だと噂されている。


 それが動きのたびに揺れ。


 全体的にスラリとした妹とは対照的に、ムチッとした身体付きであることがブラウスの上からでもはっきりと分かってしまうほどだっ!


「もちろん知ってます。

 有名人ですから。

 『姫川 理沙』さんですよね」


 さらにプリーツスカートの丈は短く。


 そこから覗く絹のように滑らかな太ももの白とニーソックスの黒が生み出すコントラストで色気を醸し出し、見る者の目を引きつけて離さない。


 妹の二三とは、違う魅力を持った美少女だな。


「姫川さんとお話したいと思っている男子は、たくさんいますからね。

 でもいつも一緒にいるギャル系女子の方々が、邪魔をしてきますからね。

 そういえば、彼女たちはご一緒じゃないんですね」


「彼女たちとは、いつも一緒にいるわけじゃないわぁ」


「へぇ~。そうなんですか」


「意外そうな顔をしているわね」


「そうですか?」


「ええ」


「よく妹にも注意されるんですよね。

 隠し事下手だよね、って」


「妹さんの気持ちよくわかるわ。

 神村君くん。

 ぜったいに損するタイプの人間よね」


「酷い言われようですね」


「平穏無事な高校生活を送ろうと思ったら、狡賢さも必要ですもの」


「俺にはぜったいにできない生き方ですね」


「お兄ちゃん。

 ずいぶんと親しそうに話しているけど。

 この女、誰?」


 これ以上にないぐらいの最悪のタイミングで、妹が会話に割り込んできた。

 

「ごめんなさいね」


 申し訳なさそうに姫川さんは頭を下げ。


「兄妹水入らずところを、邪魔しちゃったみたいで」 


「別に姫川さんが謝ることないですよ」


「お兄ちゃんのバカっ!?」


 妹の薄い幼い肩が小刻みに震え、円らな真っ赤な瞳に大粒の涙を浮かべて


「どうしてこの女の肩を持つの」


 俺の背中を何度も何度も叩いてきた。


「それは二三が、失礼な態度ばかりとるからだろう」


 妹の可愛らしい額に軽くデコピンする。


「だってぇ……お兄ちゃんが……バカバカバカっ!?

 お兄ちゃんのバカ~~~」


「ほんとうに可愛らしい妹さんですね。

 お持ち帰りしたくなっちゃうわ、ウフフ」


 目がわりとマジだったので


「いくら姫川さんでも、二三はあげられませんよ。

 大切な妹ですからね」


「それは残念ですわ……シクシク」


「お兄ちゃん。

 やっぱりワタシ、この女は好きになれそうにないわ。

 生理的に無理だもん」


「すっかり嫌われてしまったみたいね。

 私は妹さんとも仲良くしたいんだけどな」


「ムリ、絶対に無理」


 妹は宝石のような漆黒の眼を細め。


「お兄ちゃんは絶対に、渡さないから」


 桜色の唇の端を吊り上げ、姫川さんを睨めつける。


 それは肉食獣が獲物を見つけた時のような鋭い瞳だ。


「そんな貧相なカラダで、私に勝てると本気で思っているの」


 彼女も負けずと睨み返す。 


 両者の間で火花が散るなか俺は、野原で独り寂しく草をハムハムしている小動物のように震えていた。


 何? この険悪な空気。


 めちゃくちゃ息苦しいんだけど……女……コワイ……女……コワイ……女……コワイよぉおおっ。


「ワタシはまだ成長期なの!?

 これからいろいろと成長するんだから」


 すぐに姫川さんは表情を笑顔に変えると、妹の背後に回り込み。


 妹の胸をわしづかみにした。


「あんっ」


 二三の口からも艶めかしい声が漏れ。


 一瞬で自分の顔が真っ赤に染まっていくのが分かった。


「ふんっ。希望的な観測ね」


「は、離してください。

 やっ……胸に触るのは、ダメ~。

 タッチは不許可ですっ! 

 ワタシのおっぱいに触れていいのは、お兄ちゃんだけなんだから~」


「大好きなお兄ちゃんに見てる前で、こうされると感じちゃうのよね、ふふふっ」


 慌てて止めようとするが、俺の静止などには耳も貸さず。


 姫川さんは妹の胸を揉みしだきつづけた。


 中身は二三以上に『子供っぽい』んだな、姫川さんって。


「……あ、あんん。

 お兄ちゃ……ん……見ないでぇ……。

 こんな……はしたない……姿を……」


 艶やかな声が漏れ始める。


あえぎ声まであげちゃって」


 妹の胸を揉みながらイタズラっぽく姫川さんが笑う。


 可憐な金髪美少女と妹が絡み合う姿に興奮していた。


「お兄ちゃん。

 やっぱりこの女とは、仲良くなれそうにないわ。

 ごめんね」


「無理して仲良くなる必要なんてない。

 二三は昔から人見知りするところがあるかな」


「昔からお兄ちゃんっ子だったのね」


「もうワタシの話は、もういいから。

 ちゃんとワタシにこの女を紹介してよ。

 お、にい、ちゃ……んぅ……あんぅっ」


「そう言えば、ちゃんと紹介してなかったな。

 ごめんな、二三。

 と言っても、ちゃんと紹介できるほど俺は……彼女のことを知らない。

 だから知ってる範囲で説明するな」


 一拍間を置いてから。

 

「彼女の名前は、姫川 さん。

 俺と同じ高校に通う一年生で、クラスメート。

 俺が知っているのは、それだけだ」


「お兄ちゃんらしいかな?

 女の子と積極的に会話するタイプじゃないもんね。

 ヘタレだもんね」


「妹さんの言うことももっともだわぁ。

 神村君くんって、ヘタレだもんね」


 ぐさっ、と突き刺さる言葉のナイフ。


 その切れ味は抜群だった。


「なんでそこだけ!? 二人とも意見が一致してるんだよ。

 断じて俺は『ヘタレ』じゃありません」


「きゃあああ!!!

 コワいぃっ。

 お兄ちゃんがオコった」


「キャァアン!?

 犯されるぅ♥♥♥」


「悪ふざけはヤメテください」

 

 二人ともワザとらしくシクシクとすすり泣き出す姿を見た俺は怒鳴り声上げると


「お兄ちゃん。

 ノリがワルイよ。

 だからモテないんだよ。

 女のコは、ほんとうにして欲しいことは、口に出さないんだから」


「ホントだよ。

 神村君くん頭固すぎだよ。

 つ・ま・ん・な・い」


 理不尽極まりない、抗議の声を上げてきた。


 俺の悲痛な叫び声が『駅のホーム』に木霊した。 


「お兄ちゃん……ワタシ……このヒトに昔……どっかで会ったことあるような……気がするんだけど……どうしても思い出せないのよぉ」


「テレビか? 雑誌か……何かで見たんじゃないか?

 姫川さんは有名人だからな」


「そういうのじゃないと思うんだけどな。

 あっ!?」


 声を上げようとした妹の口を姫川さんが背後から両手で押さえ、見事に封じた。


 そのまま妹を女子トイレへ連行していってしまう。


 取り残された俺は……呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


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