15歳。

チカちゃんの歯列矯正が終わり、トレードマークのすきっ歯は見る影もなくなってしまった。少しカールしたポニーテールと綺麗に揃った白い歯。元々整っていた顔は少女期の終わりを迎えてますます美しくなってい

た。

それでもチカちゃんは男子からの告白を断り続けた。

『もうすぐ受験やしそれどころちゃうもん』

チカちゃんはそう言っていたが、やはり二階堂くんが忘れられないのだと思う。

その二階堂くんはあの時付き合った彼女と三年生になってすぐ別れてしまったらしい。


「ちょっと話があるんだけど」

私が廊下で二階堂くんに呼び出されたのは、チカちゃんが風邪で学校を休んだ日のことだった。翌日私が登校すると、私が隣のクラスの二階堂くんと付き合っているという噂が流れていた。昨日の呼び出しを誰かが見ていたらしい。そしてそれはもちろん病み上がりのチカちゃんの耳にも入っていた。

「おはよう」

何も知らない私がいつも通り教室に入ると、チカちゃんが私を泣きそうな顔で見つめていた。チカちゃんは私の挨拶にも何も返さず視線を落とし、教科書をパラパラと眺めはじめた。おかしいと思いつつも席に着き、そこで隣の席の男子に噂について聞かされた。

誤解を解かねば。

だが休み時間ごとにチカちゃんはサッと席を立ち、教室を出て行った。私とチカちゃんの間に流れるギクシャクとした空気は教室中に伝播した。やがて数日も経つと人気者であるチカちゃんにおもねるように、私とクラスメイトの多数の間に見えない溝ができてしまった。

卒業まで半年、私はクラス中から半ば腫れ物に触るように扱われて過ごした。


卒業式を間近に控えたある冬の日、私はとうとうチカちゃんと直接話すことができた。私とチカちゃんは同じ高校を受験していた。志望校はもちろん教えてもらっていなかったが、たまたま受験会場で会ったのだ。

「チカちゃん、試験どうだった」

会場からの帰り道、坂道を下るチカちゃんを見つけ勇気を出して駆け寄って並んでみた。

「私はまぁまぁだったよ」

話しかけるが返事はない。チカちゃんは坂道の下を思いつめたように見つめていた。

やはり元の友達同士には戻れないのか。そう思いかけた時、チカちゃんが口を開いた。

「今から家行っていい?」


私の部屋に久しぶりに入ったチカちゃんはしばらくキョロキョロした後、以前の定位置であったベッドの前に腰をおろした。

「あのさ」

口調が暗い。怒っているのだろうか?

「なんであの噂否定せんかったん」

「噂って二階堂くんとのこと?」

返事はない。

「チカちゃん、まだ二階堂くんが好きみたいだったから、私が二階堂くんと話したの知ったらあんまりよく思わないかなって思って…」

「でも結局付き合ってなかったんやろ?」

「うん。機会を逃して言いづらくなっちゃって…本当にごめん」

「断ったん?」

「ううん、別に付き合ってくれとかいう話じゃなかったから…」

「じゃあそう言えばよかったのに…!」

そう言ってチカちゃんは泣き出した。


休んだ日に二階堂くんが親友に告白したらしいこと。何より親友のはずの私から二階堂くんのことが好きだとは聞いたことがなかったこと。混乱と怒りが収まる頃には、クラスから私がすっかり浮いてしまっていたこと。そして二階堂くん自身が私と付き合っていないと公言したことにより事態が収束するはずだったのに、すっかり溝ができてしまっていたこと。

チカちゃんは綺麗な顔を涙と鼻水でテカらせながらまくしたてた。

「元通りになりたかったのにどうすればいいかわからんかった」

「あんたを一人にしたいわけじゃなかった」

「やからホンマにごめん」

子どものように泣くチカちゃんを見ていると、この半年間の辛い日々が頭の中から消え失せてしまった。

「ちゃんと説明しなかった私こそごめんね」

お詫びになんでも言うことを聞くと言ったチカちゃんに、卒業式の後付き合って欲しいと言った。


卒業式からの帰り道、私たちは卒業ソングがちょっぴり上手くなり、そして私は体重がまた1キロ増えた。

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